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能「羽衣」「藤戸」狂言「附子」

梅若会定式能  2019年4月

JR東中野駅からぶらぶら歩いて10分、梅若能楽学院会館にお邪魔してみた。1961年建設の能舞台で古びているけど、ロビー吹き抜けから階段を上がっていくスタイルが格好いい。本日は2カ月に1回ぐらいの定式能で3時間半弱。300席くらいで、お弟子さんなのか年配男女が緩く出入りして親密な空間だ。

プログラムは春らしく充実していて、まず世阿弥の能「羽衣 和合の舞」を1時間。三保の松原の漁師・白龍(ワキ、下掛宝生流の大日方寛)が美しい衣を見つける。現れた天女(シテ、松山隆雄)に返す代わりに舞を所望し、天女は舞いながら天に帰っていく。謡・囃子が華やか。「いや疑いは人間にあり、天に偽りなきものを」というやりとり、と舞が大らかだ。
続いて大蔵流の山本泰太郎、則孝兄弟と、泰太郎の息子・凛太郎が演じる狂言「附子(ぶす)」30分弱。主人が壺に附子という猛毒(トリカブト)が入っているから近づくな、空気に触れても危険、と言いおいて外出。太郎冠者、次郎冠者が扇であおぎながら覗きこむと、中身は貴重な砂糖とわかり、あまりの甘さに舐め尽くしちゃう。あげく大事な掛け軸、茶碗をめちゃめちゃにし、死んで詫びようと毒を食べた、と言い訳する。壺が気になって仕方なく、恐る恐る近づくさまが滑稽だ。でもきっと主人の嘘に感づいてたんだろうなあ。
前半最後は仕舞3題を続けて20分。まず鷹尾章弘が「箙(えびら)」。逆櫓で知られる梶原景季の霊が一の谷の合戦で、風雅にも箙(矢入れ)に梅を挿して戦った様子を見せる。続いてシテ山崎正道が「蘆刈(あしかり)」から音楽的な「笠ノ段」。落ちぶれた夫が妻と再会、和歌をまじえた謡にのって難波の春を舞う。最後はシテ小田切康陽が「国栖(くず)」。壬申の乱で天武天皇が吉野山に逃れ、食べかけの国栖魚(鮎)が生き返る奇跡などがあり、大詰めでは守護神・蔵王権現が現れて颯爽と御代を祝福する。天皇の代替わりにもふさわしい演目ですね。

休憩を挟んでトリは、お目当ての能「藤戸(ふじと)」1時間半。佐々木盛綱(ワキ、宝生欣哉)が藤戸の合戦での、馬で海を渡る先陣の功で得た領地に入る。老婆(前シテ、梅若紀彰)に子の仇と激しく詰め寄られ、若い漁師から浅瀬を聞き出し、他言を恐れて殺してしまったと告白。間の山本則秀を挟んで後半。盛綱が海辺で管弦講を催し、般若経を唱えていると、水中から漁師の亡霊(後シテ、紀彰)が現れて、凄惨な凶行のさまを見せつけるものの、ラストは回向に感謝して成仏する。
理不尽にも戦争の犠牲になる庶民の哀れというテーマは現代的だけど、ベースは普遍的な親子の情愛だ。大詰めで漁師の霊が杖を離し、ふっと顔をあげて成仏するところに救いがある。たっぷり楽しみました~

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