まほろば
まほろば 2019年4月
蓬莱竜太の2009年岸田國士賞受賞作を、劇団チョコレートケーキの日澤雄介が演出。ユーモアたっぷり、妊娠というデリケートなテーマをめぐる女4代のあけすけ過ぎる会話が痛快で、育む者のたくましさが滲んで読後感がいい。東京芸術劇場シアターイースト、上手寄り中段で6800円。休憩無しの約2時間。
長崎の夏祭りの日、日本家屋の客間のワンセット。「本家の嫁」ヒロコ(高橋恵子)は宴会の準備に慌ただしい。しっかり者の長女ミドリ(初ストレートプレイの早霧せいな)は東京で仕事にかまけて嫁き遅れ、未婚で娘ユリアを育てたヤンキー次女キョウコ(中村ゆり)と、大人げない喧嘩ばかり。そこへ前触れなく帰ってきたユリア(モダンスイマーズの生越千晴)の若過ぎる妊娠、さらに聡明なはずのミドリの想定外の妊娠まで明らかになって、女たちは右往左往。
開幕前のアナウンスから、全編長崎弁なのが効果的だ。田舎の息苦しさは、社会での女の生きにくさにつながる。けれど田舎言葉のくつろいだ雰囲気が、女同士の親密さとあいまって説教臭くならない。そして終盤、原爆の記憶とそれを乗り越えて繋がる祭り神輿の喧騒が、命の力強さに転化するカタルシスが鮮やか。故郷たるまほろばのおおらかさ。
高橋は旧習にとらわれた主婦で、なにしろ宴会では、親戚の席順まで頭に入ってる。けれど思うにまかせない娘それぞれの幸せを認めようとしていく。そんな高橋を核に、コメディエンヌぶりが頼もしい早霧(佐世保出身!)と、ぽんぽん言う中村とがいいバランス。座布団投げ合っちゃったりして。ボケて、なにやら大事なことをのたまう姑タマエの三田和代が、抜群の存在感だ。初演(栗山民也演出)はヒロコ役だったんですね。ちょっと捨鉢な生越に色気があって、嬉しい発見かも。美術は土岐研一。
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