フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ
フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ 2019年4月
新国立劇場は今シーズンから1年おきに上演するというダブルビルの新制作。今回はフィレンツェつながりで、ほぼ同時期の作品ながら対照的な曲調の組み合わせで、変化に富む。珍しい演目だし、日本人キャストも充実していて満足~ 沼尻竜典指揮、東京フィル。休憩を挟んで2時間半とコンパクトです。
古都の町並みを描いた紗幕から、まず1917年初演の「フィレンツェの悲劇」。キャストは3人、一夜の心理劇だ。オスカー・ワイルド原作、世紀末ウィーンで活躍した作曲家とあって、緊迫と退廃が漂う。
なにしろ老商人シモーネ(ロシアのベテラン・バリトン、セルゲイ・レイフェルクス)が旅から戻り、若い妻ビアンカ(齊藤純子、仏ボルドーを拠点とする長身ソプラノ)が浮気相手グイード(ロシアのテノール、ヴゼウォロド・グリヴノフ)といるのに出くわす。激しい猜疑と嫉妬にかられつつ、大公の息子であるグイードにへつらい、高価な衣装を売り込んだり宴に誘ったり。糸紡ぎ部屋に追いやられたビアンカは、隙をみてグイードと甘く愛を語らい、夫殺害をけしかける。ついに男同士が決闘に至り、シモーネが意外にもグイードを絞め殺すと、なんとビアンカは一転、夫にしなだれかかっちゃう。2人で愛を歌うトンデモで幕切れ。
なんといってもオケの聴きごたえが抜群。事前のオペラトークによると「薔薇の騎士」などリヒャルト・シュトラウスの影響を強く受けているそうで、ワーグナーっぽさもあって、分厚くゴージャス。初ツェムリンスキーだったけど、シェーンベルクの師匠、マーラーの奥さんの元カレという重要人物なんですねえ。
歌手は不気味かつパワフルに歌いまくるレイフェルクスに、齊藤さんが負けてなかった。粟國淳演出はルネッサンス期の設定ながら、館が崩れかかった不穏なセットでシャープ。
休憩後はがらりと雰囲気が変わって、プッチーニの1918年メト初演のドタバタ喜劇「ジャンニ・スキッキ」。叙情たっぷりの名アリア「私のお父さん」はお馴染みだけど、オペラとしての上演は貴重な機会です。
フィレンツェの町並みは舞台後方に移動し、巨大で雑然とした書き物机の上で右往左往するキッチュな演出に。登場人物たちの卑小さを際立たせて効果的だ。遺言状が巨大だし。衣装などは1950年代の設定。さすが粟國さん、イタリア育ちのセンスが光る。
お話は大富豪ドナーティの死の直後。集まった親戚たちは追悼そっちのけで遺言状を探し、遺産が全額修道院行きと知って愕然とする。若いリヌッチョ(村上敏明、藤原のテノール)は伯母ツィータ(ドイツ中心に活動するメゾ、寺谷千枝子)にラウレッタ(「ホフマン物語」で聴いたソプラノ、砂川涼子)との結婚を認めさせようと一計を案じ、ラウレッタの父ジャンニ(カルロス・アルバレス、スペイン出身、2012年ウィーンオペラで聴いた世界的バリトン)を頼る。ジャンニは田舎者と馬鹿にされてヘソを曲げるものの、ラウレッタに「結婚できないならベッキオ橋から身を投げる!」と懇願されて悪だくみを承諾(あの美しい旋律がこんな内容だったとは…) 大胆にもドナーティがまだ生きていると装って公証人を騙し、強欲な親戚たちも出し抜いて、まんまと多額の遺産をせしめる。
上演わずか1時間だけど、日本人歌手演じる親戚たちの騒々しい掛け合い、重唱がテンポよく、愉快。そのなかでアルバレスがさすがに渋く、存在感を発揮していい対比だ。「さらばフィレンツェ」など短いアリアも聴かせます。曲調は後年のミュージカルへの影響を見受けられるらしい。
ジャンニは身勝手な悪党だけど、これも若い二人の愛のためと語り、幕切れはあっけらかんと爽やかでした~
前日の演劇と続けて、知人のエコノミストに遭遇。幕間では通路にいた粟國さんに、思わず称賛を送っちゃいました。全席になんとエアウィーヴのクションを導入。工夫してます。
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