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空ばかり見ていた

Bunkamura30周年記念 シアターコクーン・オンレパートリー2019 空ばかり見ていた  2019年3月

2016年以来、ちょっと久々の岩松了✕コクーンだ。懸命なんだけど、思いは一方通行で、どこにもたどり着けない人たちの物語。森田剛の切なさ、勝地涼の色気が出色だ。前寄りのいい席で1万500円。休憩1回で3時間弱。
敗色濃厚な反政府軍が、アジトを置く廃校のワンセット。登場人物がみな、窮屈な小さい机を使うさまに、精神のアンバランスさが漂う。南の島、内戦、という設定に気を取られると足元を救われる。あくまで煮詰まった人間関係、小さな嘘や歪み、やるせない不安を味わう独特の舞台だ。
多岐川(森田)は反政府軍リーダー(村上淳)の右腕で、リーダーの妹リン(平岩紙)とも恋仲。しかしリーダーへの信頼は揺らぎ始めており、そのことに自分で戸惑っている。リーダーを慕ってきた土居(勝地)の思いも複雑だ。そこへ捕虜となった政府軍のカワグチ(豊原功補)、反政府軍から息子を連れ出したい母(「流山ブルーバード」の宮下今日子)という異分子が紛れ込み、集団を揺さぶる…
カワグチは死んだ捕虜の記録に、何を綴るのか。果たしてリンを襲ったのは誰なのか? ハコは大きいし、時制が行き来するしで、やっぱり岩松節は難しいけど、ハテナ?に身を委ねると心地いいのが不思議。
俳優陣は森田の、期待通りの静かな存在感、対峙する勝地の無意味な笑いなどの曲者ぶり、そんな2人を客観的にみる豊原の安定感が、いいバランスだ。田中役の筒井真理子が、予想外の飛び道具。極限状態のアジトに、近所のオバサンのように気楽に出入りし、幼馴染なのか、リーダーに説教、あげく生命保険を勧めちゃう。笑いと、奇妙な現実感が巧い。第三舞台出身なんですねえ。「三人姉妹はホントにモスクワに行きたがっているのか?」の高橋里恩が、長身が映えていよいよ楽しみだなあ。
客席には忙しい宮藤官九郎さんをはじめ、著名人がちらほら。

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小澤征爾音楽塾「カルメン」

小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトⅩⅦビゼー:歌劇「カルメン」  2019年3月
春めいた休日、若手による懸命なオケと合唱団を応援しに、小澤塾の千秋楽に足を運んだ。今回は残念ながら、83才となる塾長/音楽監督の小澤さんが、直前に急性気管支炎に倒れて降板しちゃったけれど、リエージュ王立フィル音楽監督のクリスティアン・アルミンクが、全編の指揮を溌剌と。お馴染みオペラ界屈指のヒットパレードと、水準の高い歌手陣、メト首席演出家デイヴィッド・ニースの演出という本格的舞台を楽しむ。東京文化会館大ホール、前の方やや上手寄りで2万5000円。休憩2回で3時間半。
タイトロールの美形サンドラ・ピクス・エディ(メゾ)は演技力が高く、4幕の純白のドレス姿が圧巻。許嫁ミカエラのケイトリン・リンチ(ソプラノ)が抒情豊かで目立っていた。頼りないドン・ホセがはまり役のチャド・シェルトン(テノール)も、尻上がりに高音の輝きを増す。日本人キャストも密輸商人レメンダードの太っちょ大槻孝志(テノール)が存在感を示してた。ほかに闘牛士エスカミーリョはエドワード・パークス(バリトン)、上官ズニガはジェフリー・ベルアン(バス)。
アジア各地から集まったという総勢60人からのオケは、堂々たる演奏ぶり。京都市少年合唱団が可愛いかった。
そして2回めのカーテンコールに小澤さんが登場! ちょっと足元がトボトボしていたけど、満場のスタンディングオベーションで感謝を伝えました~ 来年は「こうもり」だそうです。小澤さん、どうぞお元気で!
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こそぎ落としの明け暮れ

ベッド&メイキングス第6回公演「こそぎ落としの明け暮れ」  2019年3月
「いやおうなしに」の福原充則作・演出。岸田國士戯曲賞受賞後初の長編書き下ろしを、富岡晃一郎(阿佐ヶ谷スパイダース)と主宰する劇団公演で。信じられるものを探す女たちの右往左往を、シュールかつユーモラスに描いて巧いんだけど、個人的にはジンと胸に響くほうが好みかな。東京芸術劇場シアターイースト、前の方上手端で5500円。休憩なしの2時間。
姉(「毛皮族」の町田マリー)の自殺願望を知り、なんとか食い止めようとする真理子(お馴染み健気な安藤聖)の奮闘。また姿の見えない謎の虫をこよなく愛し、追い求める害虫駆除チームのリーダー(吉本菜穂子)。無関係な2人のストーリーが、病院、画廊などで交錯していく。
女優陣はみな達者、かつ個性的だ。なんといっても安藤の快活さが、舞台を牽引。若手では、駆除チームのちょっとやさぐれた石橋静河や、細身で夫の浮気相手になる佐久間麻由に、存在感があって楽しみだ。一方、中年師長の野口かおる、患者とみえて実は看護師の島田桃依(青年団)が、皆川猿時もびっくりの飛び道具ぶりで、目を奪う。そんな女優陣の無茶苦茶を、浮気グセのひどい真理子の夫役の富岡が、妙な色気でつないでいく。「3日後の高田馬場」がなんだかポエムです。
まだまだいろんな演劇人がいるなあ、と思った一夜でした。シンプルな美術は稲田美智子。劇場前のロビーで「鉄道模型芸術祭」を開催してました~
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談春「双蝶々」「大工調べ」

立川談春独演会2019  2019年3月
名人・談春さんの「双蝶々」を堪能する。子供の悪人という暗い設定ながら、まさに人間の業が横溢する濃密なステージだ。ファン集結の紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA、上手後ろの方で4320円。休憩を挟みたっぷり2時間半。
前座ナシで師匠が登場。「殿村だと思われてる」「この噺を選んだのは気の迷い」とつぶやきつつ、マクラもそこそこにネタ出しの「双蝶々」を通しで。浄瑠璃とは人物名が重なるだけで、内容は別物だ。
棒手振り長兵衛の息子・長吉は幼いのに悪賢く、賽銭は盗むわ、酷い嘘で後妻のお光をはめるわ。今のうちに、と出された奉公先の黒米問屋でも、表向き上手く立ち回り、裏では盗みを働く。これに気づいた番頭のワルぶりが、実に陰惨で効果的だ。花魁を身請けしたさに「店のカネ百両を盗んでこい」と、長吉を脅し、立ち聞きした小僧も長吉に掛守をせびる始末。そこで長吉が一瞬のためらいもなく、いきなり小僧を締め上げちゃってびっくり。キュッという手拭いの音に、思わず鳥肌、しかも念を入れて2度まで… 500人からの聴衆が、かつてないほど静まり返る。
番頭も手にかけた長吉が、その夜のうちに奥州へ蓄電して三年後、後半は人情へとなだれ込む。息子の悪事のせいで落ちぶれ、寝たきりとなった父。袖乞いまでして献身的に世話する女房が、舞い戻った長吉と出くわし、長屋へ引っ張っていく。奥州でいっぱしの親分となった長吉が五十両を差し出し、涙する父子。教訓も救いもない。ただただ、人が負う罪深さと哀しさが際立つ。長屋を出、吾妻橋にかかったところで照明が落ち、芝居噺仕立てに。ちらちら舞う雪と三味の音のなか、あえなく長吉は御用に。黙阿弥なみのドラマ…  三遊亭円朝作だけど元ネタがあったとも。
「居残り」レベルに完成度の高い高座の後、休憩を挟んで一転、肩の力が抜けた感じでリクエストタイム。「お若伊之助」「黄金餅」「大工調べ」の三席から客席の拍手が一番多かった演目をやると宣言し、「黄金餅」はここが聴きたいんでしょ、と火葬場への道順の言いたてをサービス。そして定番の「大工調べ」の「上」へ。談春さんで聴くのは3回目かな。やっぱり与太郎がチャーミングで絶品だ。棟梁と大家の意地の張り合いに巻き込まれつつ、2人を愛おしくみているおおらかさ。
スカッと笑わせ、「鼻っ柱」に関する独特のコメントがあって、手締めとなりました。あー、面白かった。
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積恋雪関扉

平成31年3月歌舞伎公演 2019年3月
桜がふくらんできた国立劇場、小劇場の歌舞伎公演へ。前半「元禄忠臣蔵」後の休憩で到着し、お目当ての後半「積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)」のみ鑑賞。約90分と、時代物舞踊の大曲だけど、洒脱でコミカル、かつ歌舞伎らしい不思議演出が満載で、変化に富む。次代を担う初役3人、特に菊之助が意外に野太い荒事立役で、愛嬌もあって頼もしい! 花道外、割と前の方で9800円。
浅葱幕が落ちると、雪景色の逢坂山に、季節外れの「小町桜」が咲き乱れていて、のっけから超ファンタジー。下手に浄瑠璃・兼太夫、三味線・文字兵衛ら常磐津連中が陣取る。
物語は平安初期の六歌仙にちなみつつ、江戸の風情を古風に見せていて楽しい。上の巻ではまず、居眠りから目覚めた関守・関兵衛(菊之助)が、木こりの扮装で貫禄をみせる。三味線で表現する琴の音にのり、花道からありえない赤姫姿、可憐な小野小町(期待の梅枝)が登場し、通す通さないの呑気な問答、さらに「生野暮薄鈍(きゃぼうすどん)=野暮」の当て振りをゆったりと。江戸の宴会のヒット曲なんですねえ。初代中村仲蔵の型をかなり残しているそうです。
小町と、侘び住まいしている宗貞(後の僧正遍昭、萬太郎は30にしては幼い印象)が再会し、二人の仲を冷やかす関兵衛をまじえて、おおらかに「そっこでせい」の手踊り(長唄風の踊り地)となる。3人ずれつつポイントでは合うのが醍醐味とか。関兵衛、お茶目です。
しかし一人になった宗貞に鷹が運んできた片袖は、なんと兄の身替りとなった弟・安貞の遺品で、さらに歌舞伎らしい小道具の謎解きが重なって、関兵衛の正体が天下を狙う大伴黒主と判明。知らせに小町が都へ急ぐところから下の巻へ。
宗貞は袖を琴に隠し、弟を弔う。関兵衛はそんな宗貞を追い払い、ひとり酒盛り。セリフを常磐津が語り(付けぜりふと仕形舞)、作り物の星が降りてきて大盃に映る星占いから、国崩しの素顔を現す。いよいよ謀反の好機と、大マサカリを振り回すと、後方の桜のウロに、傾城墨染実は小町桜の精の姿が怪しく浮かび上がる。2役の梅枝はもちろん、映像で観た歌右衛門とは別物で、色気は今ひとつながら、前半とは一転、この世のものではないスリスリ歩きで健闘。これが古怪というものか。
すががきの音で、花魁道中など郭の風俗をひとしきり華やかに踊った後、ついに墨染が夫・安貞の仇である黒主に詰め寄り、2人して怒涛のぶっ返り! 空気ががらりと変わって、大詰は激しい立ち回り(所作だて)だ。黒装束の黒主が真っ赤な舌を見せて大マサカリを振りかざせば、乱れ髪に鴇色の小袖に転じた桜の精は見事にエビ反り。盛んに掛け声がかかり、2段にきまって幕となりました。充実!
ロビーには加山又造「おぼろ」の陶板(大塚オーミ陶業製)が飾られてました。

糸井版 摂州合邦辻

木ノ下歌舞伎「糸井版 摂州合邦辻」  2019年3月
昨年の「勧進帳」が良かった木ノ下歌舞伎。2回めの鑑賞は、文楽で2回観ている「摂州合邦辻」をしみじみと。
監修・補綴・上演台本の木ノ下裕一、1977年生まれの糸井幸之介が上演台本・演出・音楽でタッグを組んだ音楽劇で、セリフは義太夫調、衣装と歌は現代風。時に無理な展開ながら、印象は意外にストレートです。2011年のニナガワ「身毒丸」も観てるんだけど、今作はトンデモ継母と美少年のドロドロではなく、自己犠牲に至る「母の思い」がピュアに響いて心地よい。
演劇好き男女が集まった感じの、KAAT神奈川芸術劇場大スタジオ、整理番号形式の自由席で中段に陣取って4000円。休憩なしの2時間半がダレません。
冒頭は現代の都会で交錯する、冴えない男女の日常を歌とダンスで。クライマックスの合邦庵室のフラッシュバックから、時代物に転じていく。「業病」に侵された俊徳丸(田川隼嗣)の嘆き節はやや長く感じるものの、中盤、四天王寺前のシーンあたりからスピード感が高まって目が離せない。
特に玉手御前(内田慈)と父・合邦道心(武谷公雄)の激しい葛藤の間に、貧しくもほのぼのした父娘の思い出、パパの歌が挟まるのが効果的だ。二十歳やそこらの玉手の内なる母性を育てたのは、こんな愛情だったのか。
文楽では「いろは送り」と並んで、悲しいのに音楽的な「百万遍の念仏」シーンでは、木目調の玉を転がし、数珠に見立てるのが面白い。玉は天体に転じ、月江寺へとつながっていく。大詰め、娘をみとった女房おとく(西田夏奈子)の慟哭には、意表を突かれた。別れの歌「街の墓」が胸に染みます。
内田が得体の知れない情熱で、タフに舞台を牽引する。2017年「散歩する侵略者」の妻も切なかったけど、ちょっと見違えたな。武谷、西田が達者で、義太夫らしさもあり、説得力抜群。奴入平の金子岳憲も、溌剌としていいバランスだった。オーディションの元ジュノンボーイ、田川は努力賞かな。
終わって、横浜の夜景が素敵でした。
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