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平成最後の武道館落語公演「紺屋高尾」「八五郎出世せず」

らくごカフェ10周年記念 平成最後の武道館落語公演   2019年2月

個人的には講談でお馴染み、神保町の小さなスペース「らくごカフェ」が、なんと改装を控えた武道館で記念公演を打つという、大胆不敵なイベントに足を運んでみた。アリーナ中央あたりで9720円。
16時開演にはさすがに間に合わず。カフェのレギュラーメンバーとOBの様々な芸、そして一之輔さんの落語は見逃したけど、第2部「さだまさしコンサート」の途中で滑り込む。結婚式で歌ったときのピアノ伴奏といった、有名な爆笑トークと、ギター1本で聴かせる「償い」「関白失脚」の説得力はさすが。会場もさだファンが多かった感じ。

休憩後にお待ちかね、落語と歌の豪華リレーへ。しかも1時間押しといいながら、らくごカフェ主宰・青木伸広さんの指定という大ネタ2席です。贅沢過ぎ…
まず立川談春が登場し、楽しい武道館コールなどの後、「紺屋高尾」を無駄なく流れるように。続いて、さだが登場して「いのちの理由」。出会いの妙を歌っていて、いいチョイスだ。
大トリは立川志の輔! 午後のリハーサルから延々と、と笑わせ、武道館コールの後、定番「八五郎出世せず」。いやー、巧い。八五郎に焦点を絞り、職人のプライド、はちゃめちゃだけど気持ちいい江戸っ子キャラ、そして井戸端命の母親への深い愛情…と、わかっていても泣いちゃいます。さだのアンサーソングは「親父の一番長い日」。ハマってました。
ラストは全員舞台にあがって、お辞儀をしてさらっと。面白かったです。

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ヘンリー五世

彩の国シェイクスピア・シリーズ第34弾 ヘンリー五世  2019年2月
昨年、鵜山仁版で観たシェイクスピア史劇を、吉田鋼太郎の演出で。今回は兵を鼓舞する著名な演説シーンを大胆にカット。物議をかもしたようだけど、シェイクスピア通ではない自分としては、その分、戦争の責任を逃れようとする王の、いってみれば見苦しい一面がクローズアップされた気がして、時代を感じた。松岡和子訳。彩の国さいたま芸術劇場大ホールの、中ほどで9500円。休憩1回で3時間強。 冒頭は、懐かしい2013年蜷川版「ヘンリー四世」の映像を流し、吉田がフォルスタッフからコーラスに転じて筋書きを説明していく趣向。前作で溌剌としたハル王子がよかった松坂桃李が、今作では成長した王の苦悩を熱演して感慨深い。全体に「鋼太郎節」が強すぎる気もしたけど。
松坂に対峙するフランス皇太子の溝端淳平が、貫禄が出てきてぐんとパワーアップ。いい意味で驚きだった。これからの舞台も楽しみ。 戦闘シーンは立ち回りたっぷりで派手だけど、その後の葱のギャグあたりがベタで意外に楽しい。葱を愛するウェールズ人のフルエリン、河内大和がなかなかの曲者ぶりだ。鵜山版でフルエリンだった横田栄司は、フランス王に回っていて贅沢です。王の伯父エクセター公の廣田高志(文学座)も、さすがのいい声で安定。ピストルの中河内雅貴(ミュージカル中心でシェイクスピア初挑戦とか)、キャサリンの宮崎夢子はちょっと物足りなかったかな。
開幕前のホールで峯モトタカオのミニライブを聴く。スイス生まれの珍しい楽器ハンドパン(ハングドラム)とピアノ(宮内絢加)で、柔らかい音色。歴代の舞台写真で英国史を解説する展示も。

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プラトーノフ

プラトーノフ  2019年2月
チェーホフが20歳前に書いた「幻の戯曲」を、昨年末の「スカイライト」が素晴らしかったデイヴィッド・ヘアが脚色、「イニシュマン島のビリー」などの目黒条が翻訳。妻に頼りながら、人妻、元カノらに傾くクズ男の破滅が、こんなにも笑えて、愛らしいとは。身勝手な女たちも含め、人間ってつくづくしょーもない。森新太郎のシックでテンポのいい演出と、追随を許さない「色男」藤原竜也はじめ、実力派の俳優陣が噛み合って秀逸だ。
お話はベタなドン・ジョバンニ。意表を突くドタバタ喜劇なのはヘアの手腕ゆえか。チェーホフシリーズ第1弾にこれを選ぶ森さん、センスあります。休憩を挟んで3時間の長丁場だけど退屈知らず。人物それぞれ客席に向かって語りだしちゃうし、藤原に至っては後半ずっと、惨めな下着姿で床を転げ回っちゃってびっくり。でも色気があって、はまり役なんだなあ。ハムレットじゃあるまいし、みたいなセリフもあって、ファンにはたまりません。意外に年配男性も目立つ東京芸術劇場プレイハウス、通路に面した中ほど上手端で9800円。休憩を挟んで3時間。
舞台はお馴染み、19世紀末のロシア。凛とした将軍の未亡人アンナ(高岡早紀)の屋敷に、生真面目な息子セルゲイ(近藤公園)と可憐な新婚の妻ソフィア(比嘉愛未)、村の教師ミハイル・プラトーノフ(藤原)と信心深い妻サーシャ(前田亜季、勘九郎夫人の妹さん)、サーシャの年老いた父イワン大佐(西岡徳馬)、いい加減な弟の医者ニコライ(浅利陽介)、空気を読まない学生マリア(中別府葵)が集まってくる。ミハイルを巡る5角関係に、金貸し(文学座の石田圭佑)やアンナを想う地主ポルフィリ(神保悟志)、怪しい馬泥棒(青年座の小林正寛)までからんでくる。
藤原は詩人の才を腐らせている屈折を存分に。客席通路に颯爽と登場するのっけから、蜷川仕込みのセリフ術で舞台を制圧する。呑んでばかりいる近藤、浅利との合唱が微笑ましく、転落の後半では知性は吹っ飛び、やりたい放題の暴れっぷり。キャストをステージから落としちゃうし。いい感じに大人になってきたのかな。対する高岡、比嘉は美しく、ともにコメディタッチと気品が見事に両立。前田も透明感があっていい。
セット後方には大きな円が浮かび、月のようにも、尽きない業のようにも見える。アンナの屋敷は、奥行きのある八百屋舞台に籐椅子、サモワールとシンプル。間にミハイルの住居兼学校のセットが挟まる。パーティーシーンの花火やミハイル家近くを通る汽車を、照明と音で表現するのがドラマチックだ。美術はまたまた二村周作。

 

 

チャイメリカ

世田谷パブリックシアター☓パソナグループ CHAIMERICAチャイメリカ  2019年2月

1984年生まれの英国の新鋭ルーシー・カークウッドによる、2013年初演のローレンス・オリビエ賞受賞作を、2018読売演劇大賞の栗山民也が演出。天安門事件をとらえた著名な写真をテーマに、報道、そして無数の報道の消費者が、いかに本当のことを捉えていないかをえぐり出す。
米中関係も絡んで、まさに現在のテーマであり、俳優陣も大健闘。だけど、今ひとつ胸に迫ってこないのは、どこか第三者めいた印象ゆえか。田中圭ファンが多そうな世田谷パブリックシアターの中央、やや後方で8300円。休憩を挟んで3時間半が、ちょっと長く感じた。
1989年、北京の民主化デモを人民解放軍が武力鎮圧した事件の現場で、米国の若きカメラマン、ジョー(田中)は、戦車に立ちふさがった無名の男=タンクマンを撮影して名をあげる。時は流れて2012年。オバマが再選を狙う大統領選のさなか、ジョーは中国で世話になったレイ(満島真之介)から「タンクマンはNYにいる」と聞き、同僚メル(文学座の石橋徹郎)と、その行方を追い始める。一方、北京では深刻な大気汚染を告発しようとするレイと、その兄(眞島秀和)が体制に追い詰められていく。
ジョーは天安門以降、アフリカや中東の紛争などを報道してきたが、世界の悲劇はなくならず無力感にとらわれている。ジョーと恋に落ちる英国人コンサルタントのテス(倉科カナ)は、急成長する中国市場攻略というミッションに疑念を抱き始める。無邪気なリベラルの虚しさ、罪深さは、人々がトランプ政権を産み出した今だからこそ、一層重たい。
笑いを散りばめつつ、やがて明らかになっていく、あのとき戦車を止めた側の真実、そしてタンクマンの真実。彼がぶら下げていたレジ袋には、いったい何が入っていたのか? もちろんフィクションなんだけど、提示される結末は鮮烈だ。
田中、満島は期待通りの繊細さ。暗い満島くん、成長してるなあ。そして倉科の溌剌とした存在感が、いい対照を描く。若きレイの妻を演じた瀬戸さおりも切なく、保身に走る編集長の大鷹明良が舞台を引き締める。
セットはシンプルな家具類と、背景に大写しされる報道写真や抽象映像で構成。回り舞台を使ってNYと北京、過去と現在をシームレスに対比していく手法がシャープだ。美術は二村周作、映像は読売演劇大賞スタッフ賞の上田大樹。

 

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文楽「鶊山姫捨松」「壇浦兜軍記」

第206回文楽公演 第3部  2019年2月

2019年の文楽はじめは、充実の第3部へ。85歳の人間国宝・吉田簑助、65歳の桐竹勘十郎師弟が圧巻だ。イジメられる女の物語ながら、結末は痛快で気分がいい。満員の国立劇場小劇場の、中央あたりで6000円。休憩を挟み2時間半。
まず珍しい「鶊山姫捨松(ひばりやまひめすてのまつ)」中将姫雪責の段。並木宗輔の1740年初演作。奈良・当麻寺(たいまでら)の「当麻曼荼羅」を蓮糸で織り、20代で女性として初めて成仏を遂げたという「中将姫伝説」に基づく。折檻シーンがあんまりなんだけど、祈る女・姫の聖女ぶりが際立って見ごたえがある。
時は奈良時代。善玉・天皇サイドの右大臣・豊成とその娘・中将姫、女房桐の谷と、悪玉で長屋王子を担ぐ大弐広嗣と姫の継母・岩根御前、女房浮舟が対立している。冒頭は派手な舞踊風で、靖太夫・錦糸が明朗に。桐の谷(一輔)と浮舟(紋臣)が姫の手紙を巡って喧嘩となり、なんと紅白の梅の枝で打ち合い、長い巻物を広げるのが面白い。
セットが転換すると雪景色の庭。現実世界の寒波襲来とあいまって、寒さがひしひしと。もっとも床は、奥の千歳太夫・富助が熱い。
岩根(箕二郎、カシラは口が開く八汐)たちは仏像盗難の詮議と称し、赤姫姿が可憐な中将姫(簑助)をひったててくる。説経節をバックに、簑助さんが達者に遣っていて拍手。奴2人が割竹で、妙にリズミカルに姫を打ちすえる。残酷なんだけど、姫は襦袢に素足ながら品位を保ち、ひたすら読経を願う。御簾内から胡弓の音が重なり、奴も思わず涙。暖を取りつつ眺めていた岩根は業を煮やして自ら折檻し、姫が息絶えたと見るや、さっさと立ち去っちゃう。しかしこれは姫の演技。桐の谷と浮舟も岩根を騙すため、対立を演じていたのでした! 2人が姫を担ぎ出そうとすると、豊成(玉也)が声をかけ、立場上姫を助けられなかった苦衷を明かす。派手な節による父娘の別れで、幕切れとなりました。
休憩後には「壇浦兜軍記」阿古屋琴責めの段で畳み掛ける。昨年末に極めつけ玉三郎の歌舞伎版を観たけれど、文楽のほうが音楽性が高く、迫力にも勝る印象を受けた。床は渋い津駒太夫、朗々の織太夫ら5人、三味線は清介、ツレに清志郎、3曲で寛太郎が加わる。寛太郎は特に胡弓「相の山節」が思い切りよく、グルーヴがあって高水準です。
人形陣は主遣い全員が裃姿だ。まず障子が開いて重忠(玉助)登場。梯子段などでじっと曲に耳を澄ます我慢の難役だけど、知的でスケールが大きい。赤面の岩永は文司。やがて、お待ちかね阿古屋が連れ出される。思えば2012年の初役でも観た勘十郎が、華やかな肩衣を付け、次代を担う左の一輔、足の勘次郎も出遣いで。琴の爪を付ける仕草の繊細さ、打掛を広げる華やかさ。強い女性だなあ。水奴に勘介、玉路ら。全員決まって、大拍手で幕となりました~
ロビー売店では残念ながら、NPO法人人形浄瑠璃文楽座が活動停止とのことで、「外題づくし」など入った福袋を購入しました。

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タンホイザー

タンホイザー      2019年2月

ワーグナーの中期作は、序曲「巡礼の合唱」のテーマからいきなりドラマチック。少しくらい眠くたって、音に浸れば幸せになれるのが、この巨匠の凄いところ。歌手、合唱が高水準で、2013年にも観たハンス・ペーター=レーマンの演出も端正。イスラエル出身のベテラン、アッシャー・フィッシュの指揮はちょっとまったりした印象で、ピットいっぱいの東京交響楽団も出だしの管あたりが不安定な気がしたけど、徐々に調子を上げていた。要所要所のクラリネットが印象的。新国立劇場オペラハウス、オケがみえる2階中央の最前列で2万4300円。休憩2回で4時間強。

なんといってもエリーザベトのリエネ・キンチャ(ラトヴィア生まれのソプラノ)が、3幕「祈り」など柔らかい声と気品ある佇まいで舞台を牽引。対するタイトロールのトルステン・ケール(ドイツのヘルデンテノール)は太っちょだけど、大詰めの「ローマ語り」で圧巻の迫力を披露。
対照的に長身細身の親友ヴォルフラム、ローマン・トレーケル(ドイツのバリトン)は抑制がきき、「夕星の歌」の哀愁が際立つ。色気過剰なヴェーヌスのアレクサンドラ・ペーターザマー(ドイツのメゾ)、領主ヘルマンの人気者・妻屋秀和(バス)が安定し、ほかに小柄な牧童の吉原圭子(2017年のジークフリートで小鳥役だったソプラノ)、騎士ピーテロルフの萩原潤(2016年のローエングリンで伝令だったバリトン)が声がよく通って目立ってた。

物語は中世チューリンゲンを舞台に、騎士タンホイザーの彷徨と救済を描く。酔わせる序曲とともに、せり上がる巨大アクリル柱と照明に引き込まれる。続く1幕「バッカナール」のバレエは、背景に投影される映像も印象的。禁断の地ヴェーヌスベルクに「居続け」していたタンホイザーがマリアと叫んだ途端、照明が爽やかなヴァルトブルクに転じ、親友ヴォルフラムのとりなしで宮廷に復帰がかなう。
2幕で両思いの姫エリーザベトと再会するものの、壮大な「入場の合唱」、そしてハープが活躍する歌合戦で、ヴェーヌスを讃えちゃって非難轟々。エリーザベトが命を救うが、ローマへと贖罪の旅に出る羽目に。
3幕は「恩寵の動機」(ドレスデン・アーメン)が厳粛さを盛り上げる。結局、タンホイザーは教皇の許しを得られず、絶望して戻るが、一転、エリーザベトの自己犠牲で救済へと至る。「罪と罰」と違って命は果てちゃうけど。巡礼たちの合唱と、奇跡の杖に集まっていく動きが美しく、宗教を理解してなくても、問答無用で感動が押し寄せる。まさに音楽の力を堪能しました~

ホワイエにはインスタ用のパネルが登場。工夫しているなあ。来シーズンのラインナップが発表になって、バロックとか楽しみです。加藤浩子さんの姿をお見かけしました。

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