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罪と罰

Bunkamura30周年記念シアターコクーン・オンレパートリー2019 罪と罰  2019年1月
文豪ドストエフスキーが1866年に発表した、有名過ぎるけど、まず読み通せない長編を、英国のフィリップ・ブリーンが上演台本・演出で舞台化。年明け早々から、企みに満ちた濃密な演劇体験でした! 宗教的表現は正直、理解しきれないんだけど、ごく普通の罪ある人間が、贖罪によって生を得るという展開に、清々しさが満ちる。
三浦春馬が、休憩を挟んで3時間半の長丁場を、ほとんど出ずっぱりで大健闘。翻訳は「おそるべき親たち」などの木内宏昌。いつにも増して女性が多いシアターコクーン、2階席最前列で1万500円。
まず階段状の舞台に、まるで爆撃後のようにドアやらベッドやらが散乱しているのが象徴的。帝政ロシアの爛熟した大都会サンクトペテルブルク。うごめく貧しい人々に、楽隊(クラリネット、アコーディオン、チェロ)が加わって、主人公の微妙な心の動き、めまい、鼓動を、うめき声やダンスで増幅していくのが、非常に面白い。音楽と美術・衣装は、いずれもブリーン組のパディ・カニーン、マックス・ジョーンズ。
物語は、生活力のないインテリ青年ラスコリニコフ(三浦)の、魂の遍歴。ナポレオン3世よろしく「特別な人間は殺人を犯す権利がある」との身勝手な論理で、強欲な質屋と居合わせた義妹リザヴェータを殺害するものの、しでかしたことの重さに激しく動揺。一方、アル中の元官吏(自由劇場の冨岡弘)とその妻カテリーナ(麻実れい)に正しい施しをするが、貧困ゆえに娼婦となった長女ソーニャ(大島優子がなかなかの透明感)の盲目的な信仰心に触れて、ついに告白と贖罪に至る。
三浦が研ぎ澄ました痩身と汚れメーク、キレの良い動きで、若い苦悩を熱演。犯行後に繰り返されるブラックアウトや、幻聴のベルの音が苛立ちを際立たせる。そして捜査官ポルフィーリ(勝村政信)! まるっきりコロンボの造形で、三浦を追い込んでいくあたりは、上質なサスペンスの様相だ。汚い下着などで笑わせながら、決して緊張感を絶やさない演技が凄い。
サイドストーリーがまた、それぞれの選択を突きつけて重層的。夫の惨めな事故死の後、自棄っぱちの歌で権力者に救済を迫る麻実。兄の成功を願い、横柄な弁護士と結婚しかける田舎者の妹ドゥーニャ(南沢奈央)と、母(立石涼子)。ドゥーニャの元雇い主で、年甲斐もなく愛を求める資産家スヴィドリガイロフ(青年座の山路和弘が怪しい)… 三浦の親友で、妹に心を寄せるラズミーヒン(さいたまネクスト・シアターの凛々しい松田慎也)が唯一、ピュアでほっとさせます。
大島が三浦に暗唱して聞かせる「ラザロの蘇生」は、罪の浄化のイメージなのか。ラストでは、散乱していたガラクタが嘘のように消え、聖書の文句が書きつけられた後方の壁が開いて真っ白な光が満ち、粗末な十字架がシベリアの流刑地をゴルゴダの丘に変える。そして大島が三浦に与える一片のパン。深いなあ。
ブリーンは2015年「地獄のオルフェウス」以来だけど、大竹しのぶが圧巻だった前作に比べ演出の妙が際立っていた。ニナガワ亡き後、やはり海外演出家の存在感が大きくなっているのかな。

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志の輔らくご「モモリン」「井戸の茶碗」

志の輔らくごGINZA MODE  2019年1月

 

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今年もやってまいりました。お正月恒例志の輔らくご、2度めの観世能楽堂です。今回は正面中段あたり6000円。中入りをはさんで約2時間。

 

以下ネタバレを含みます。

 

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歌舞伎「姫路城音菊礎石」

初春歌舞伎公演 通し狂言 姫路城音菊礎石(おとにきくそのいしづえ) 2019年1月

2019年観劇初めは、国立劇場の初日初体験と、初づくしだ。吉例音羽屋まつりで、お孫ちゃん2人も出演するとあって、劇場全体が親戚の新年会のように温かい雰囲気。大向うも盛大です。
開場前の行列に驚いていたら、鏡開きの場所取りなんですね。振る舞い酒に、曲芸や獅子舞、ロビーには歌舞伎キャラの羽子板も。国立劇場大劇場、花外の2等A席でお得な4900円。小刻みな休憩3回で約4時間。
演目は国宝姫路城の鬼女伝説、狐の報恩譚、播磨のお家騒動をからめた並木五瓶「袖簿播州廻」(初演1779年)がベースで、登場人物が多くけっこう複雑。「闇梅百物語」(初演1900年)の鬼女は、尾上家の新古典演劇十種に数えられているそうだ。大きな舞台を目一杯使い、晴れ晴れした姫路城、菊之助、梅枝の姿の良さ、そして孫たちの役者ぶりが見ものです。
導入はお家騒動の発端。曽根天満宮境内の場で、忠臣・源吾(小柄な萬太郎が活躍、時蔵の次男)が、桃井家の嫡男・陸次郎(美しい梅枝)の郭遊びを諌めるよう、双子の弟・八重菊丸(梅枝2役)に頼む。
続く姫路城内奥殿の場は、善悪の2転3転をテンポよく。将軍上使の兵庫之助(立派な時蔵)と播磨大学(片岡亀蔵が安定の憎々しさ)が陸次郎の遊興を責め、家老・内膳(立派な菊五郎)がとりなし、弟・大蔵(彦三郎)の罪にすると見せて、実はスケールの大きいワル。手水鉢に仕込んだ毒で陸次郎はあえなく落命、傾城尾上(美しい尾上右近)に2人の愛息・国松を託す。
姫路城外堀端の場は不穏な夜。重臣・主水(松緑、近くで見ると顔の小ささが際立つ)が内膳と間違って、駕籠に乗った城主・桃井修理大夫(楽善)を槍で討ち、罠にはめた内膳にあっけなく成敗されちゃう。
ランチ休憩を挟んで姫路城天守の場は、月が出て幻想的に。桃井家断絶で封鎖された城に、妖怪出没の噂がたつ。若武者・弓矢太郎、実は桃井家家臣の純太郎(菊之助)が退治に乗り込むと、妖怪ではなく、十二単・緋袴の後室・砧の前(時蔵)、腰元に扮した八重菊丸らが立てこもっていてびっくり。純太郎はお約束、重宝・東雲の香炉を盗んだ敵の大学を討ち、八重菊丸を預かる。
休憩後は気分を変えて、明るい舞子の浜から。百姓・平作、実は死んだはずの主水、その妻お辰(菊之助)が、妹の尾上と若君・国松(可愛い寺嶋和史)を匿っている。
続く大蔵谷平作住居の場は、やけに登場人物が多く、対話が続いてダレ気味。訪ねてきた旧臣・新平(凛々しい坂東亀蔵)が主水の過誤を責め、ワルの内膳家来・判蔵(橘太郎)も国松の首を要求。主水は迷子の福寿(ちょっと大人の寺嶋眞秀)を身代わりにと考えるが、主水の正体は桃井家に恩ある与九郎狐で、福寿はその息子と判明。妻の小女郎狐(菊之助)がポンッと飛び出し、尾上神社(謡曲「高砂」に登場)の鐘(重文だそうです)を守る使命を伝えるので、やむなく狐親子は去る。
尾上神社鐘楼の場は一転、いっぱいの紅葉が美しいスペクタクルへ。お辰・国松が逃げ込み、与九郎が大活躍で大蔵、伴蔵を撃退。通力ですべては内膳の企みと知れる。
短い休憩の後、怒涛のクライマックス。印南邸奥座敷の場で行方不明だった跡取り・八重菊丸と忠臣・源吾が現れ、ワルの内膳が香炉を渡すが、真っ赤な偽物。パンッと桃の花びらが飛び散り、萬太郎さんが驚くのが可笑しい。内膳がついに国崩しに転じて拍手! 正体は前の城主の息子で、復讐と城奪還が目的と明かす。
大詰・播磨潟浜辺の場は舞台を埋め尽くすフワフワの桜、見上げる真っ白な姫路城が輝かしい。桃井家一同に旧臣・三平(松緑)、灘平(彦三郎)が加わって、ずらりと並び、渡りセリフでお家再興を宣言。なんと幼い国松が健気にも、「後日の戦場での再会」を約し、内膳が三段に上って格好良く幕となりました。

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