南座発祥四百年 南座新開場記念 當る亥歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎 2018年11月
3年の改修をへて復活した日本最古の劇場へ、2008年以来の遠征。松嶋屋、成駒家の関西勢+1月から続いた高麗屋3代襲名の仕上げであり、折しも紅葉狩の賑わいと、華やか尽くし。思い切って1泊2日の観劇とし、大充実! なんと2日とも最前列中央あたりの特等席で、心のこもった「連獅子」に感動。2万5千円。
1日目は夜の部で、休憩3回を挟み約4時間半。まず顔見世らしく、ド派手な「寿曽我対面」を松嶋屋組で。席が前過ぎてずらり並んだメンバーが見渡せなかったけど、軸の工藤は安定の仁左衛門。兄弟を呼び入れる舞鶴の秀太郎が、2月に拝見したときより復調していて嬉しい。家臣・近江の亀鶴(藤十郎一門)が相変わらず声が通り、化粧坂少将の壱太郎が貫禄がついて、とても良くなった。十郎・孝太郎、五郎・愛之助は大人しかったかな。
短い休憩後の口上は、高麗屋3代を挟み、藤十郎、仁左衛門だけのシンプルな形。藤十郎さんはちょっとキツい。
30分の休憩の後は、お約束「勧進帳」。席のおかげで弁慶・幸四郎の奮闘が手に取るように感じられ、長唄囃子連中も迫力があって楽しい。義経の染五郎は色っぽすぎかな~ 富樫はもちろん白鸚、後見は廣太郎(大谷友右衛門の長男)。
短い休憩を挟んで打ち出しは上方狂言「雁のたより」。初めての演目だけど、鴈治郎にゆとりがあって、とても良かった。天保元(1830)年、金澤龍玉作の他愛ないコメディ。有馬の湯でトンデモ若殿(亀鶴が活躍)が花車お玉(秀太郎がお達者)家来たちとうだうだしている。愛妾司(壱太郎が存在感)が宿近くの粋な髪結・五郎七(鴈治郎)に気があると知り、罠にかけて散々な目に遭わせる。
五郎七は半道という、格好いい三枚目。司からのニセの呼び出しに「おいでた、おいでた」「やつしていかないかん」と浮かれたり、司の詫びの手紙に「お玉どーん、まーたかいな」とぼやいたり、実に伸び伸びと楽しい。髪結床のシーンでは常連客で幸四郎がご馳走。勧進帳で疲れたと嘆き、なんと花道の引っ込みを間違えてやり直し。子役もあたふたしてた。終幕は家老(市蔵)が槍をふりかざすと五郎七が一転きりっとして、実は甥の武士・与一郎、しかも司は許嫁と判明して大団円。
2日目に昼の部。休憩3回でたっぷり5時間だ。まず「毛抜」で、左團次が家の芸・弾正をおおらかに。秀太郎(壱太郎)、腰元・巻絹(孝太郎)をキャラそのままに口説いちゃって振られ、「面目次第もござりませぬ」、腹ばい頬杖の見得など愛嬌たっぷり。善玉の民部は高麗蔵(初代白鸚の部屋子)、悪玉の玄蕃親子は亀鶴と廣太郎、奇病にかかる姫は男寅(左團次の孫)。
休憩を挟んで黙阿弥作の松羽目「連獅子」。実はちゃんと観るのは初めて。色男といっても13歳の染五郎がいっぱいいっぱいで、それを見やる幸四郎の親心が間近に感じられ、躍動感の中に切なくて感動。
長唄囃子をバックに、まず手獅子を持った狂言師(幸四郎、染五郎)が、文殊菩薩の霊地・清涼山の様子を語り、霊獣獅子が子を谷に突き落とし、子は花道から片足飛びで這い上がる。間狂言で浄土の僧(鴈治郎)と法華(天台)僧(愛之助)が滑稽に太鼓と鉦で宗論を語り、後半はいよいよ親子獅子が登場。牡丹、蝶と戯れ、豪快な狂い。格好いいぞ!
ランチ休憩の後はお待ちかね「恋飛脚大和往来」から「封印切 新町井筒屋の場」。おえん(昨夜に続き秀太郎が元気で嬉しい)に手引きされ、塀外で忠兵衛(仁左衛門)と梅川(孝太郎)がじゃらじゃらするのが、和事らしい。井筒屋に戻って、八右衛門(鴈治郎)の悪口がネチネチと実に嫌らしく(カネのないのは首のないのと同じ!)、忠兵衛が我を失うのに説得力がある。クライマックスの松嶋屋型は「辛抱立役」だそうで、二階から駆け下りてカネならあると見栄を張り、追い込まれ意を決して公金に手を付けちゃう。いわば確信犯で、愚かな衝動というより、なけなしのプライドなのか。終盤の身請けの祝いが悲しい。
仕上げは南北作「御存 鈴ヶ森」。愛之助が白井権八をユーモラスに。そして満を持して白鸚の幡随院長兵衛が楽しげに。あ~、面白かった!
新しくなった南座は、歌舞伎座に比べると規模は小さいながら、華やかなまねきのライトアップや、折り上げ格天井、アールデコの照明シェードなど大正モダンな感じが、いい味わい。大充実でした!