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南座「寿曽我対面」口上「勧進帳」「雁のたより」「毛抜」「連獅子」「封印切」「鈴ヶ森」

南座発祥四百年 南座新開場記念 當る亥歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎  2018年11月

3年の改修をへて復活した日本最古の劇場へ、2008年以来の遠征。松嶋屋、成駒家の関西勢+1月から続いた高麗屋3代襲名の仕上げであり、折しも紅葉狩の賑わいと、華やか尽くし。思い切って1泊2日の観劇とし、大充実! なんと2日とも最前列中央あたりの特等席で、心のこもった「連獅子」に感動。2万5千円。
1日目は夜の部で、休憩3回を挟み約4時間半。まず顔見世らしく、ド派手な「寿曽我対面」を松嶋屋組で。席が前過ぎてずらり並んだメンバーが見渡せなかったけど、軸の工藤は安定の仁左衛門。兄弟を呼び入れる舞鶴の秀太郎が、2月に拝見したときより復調していて嬉しい。家臣・近江の亀鶴(藤十郎一門)が相変わらず声が通り、化粧坂少将の壱太郎が貫禄がついて、とても良くなった。十郎・孝太郎、五郎・愛之助は大人しかったかな。
短い休憩後の口上は、高麗屋3代を挟み、藤十郎、仁左衛門だけのシンプルな形。藤十郎さんはちょっとキツい。
30分の休憩の後は、お約束「勧進帳」。席のおかげで弁慶・幸四郎の奮闘が手に取るように感じられ、長唄囃子連中も迫力があって楽しい。義経の染五郎は色っぽすぎかな~ 富樫はもちろん白鸚、後見は廣太郎(大谷友右衛門の長男)。
短い休憩を挟んで打ち出しは上方狂言「雁のたより」。初めての演目だけど、鴈治郎にゆとりがあって、とても良かった。天保元(1830)年、金澤龍玉作の他愛ないコメディ。有馬の湯でトンデモ若殿(亀鶴が活躍)が花車お玉(秀太郎がお達者)家来たちとうだうだしている。愛妾司(壱太郎が存在感)が宿近くの粋な髪結・五郎七(鴈治郎)に気があると知り、罠にかけて散々な目に遭わせる。
五郎七は半道という、格好いい三枚目。司からのニセの呼び出しに「おいでた、おいでた」「やつしていかないかん」と浮かれたり、司の詫びの手紙に「お玉どーん、まーたかいな」とぼやいたり、実に伸び伸びと楽しい。髪結床のシーンでは常連客で幸四郎がご馳走。勧進帳で疲れたと嘆き、なんと花道の引っ込みを間違えてやり直し。子役もあたふたしてた。終幕は家老(市蔵)が槍をふりかざすと五郎七が一転きりっとして、実は甥の武士・与一郎、しかも司は許嫁と判明して大団円。
2日目に昼の部。休憩3回でたっぷり5時間だ。まず「毛抜」で、左團次が家の芸・弾正をおおらかに。秀太郎(壱太郎)、腰元・巻絹(孝太郎)をキャラそのままに口説いちゃって振られ、「面目次第もござりませぬ」、腹ばい頬杖の見得など愛嬌たっぷり。善玉の民部は高麗蔵(初代白鸚の部屋子)、悪玉の玄蕃親子は亀鶴と廣太郎、奇病にかかる姫は男寅(左團次の孫)。
休憩を挟んで黙阿弥作の松羽目「連獅子」。実はちゃんと観るのは初めて。色男といっても13歳の染五郎がいっぱいいっぱいで、それを見やる幸四郎の親心が間近に感じられ、躍動感の中に切なくて感動。
長唄囃子をバックに、まず手獅子を持った狂言師(幸四郎、染五郎)が、文殊菩薩の霊地・清涼山の様子を語り、霊獣獅子が子を谷に突き落とし、子は花道から片足飛びで這い上がる。間狂言で浄土の僧(鴈治郎)と法華(天台)僧(愛之助)が滑稽に太鼓と鉦で宗論を語り、後半はいよいよ親子獅子が登場。牡丹、蝶と戯れ、豪快な狂い。格好いいぞ!
ランチ休憩の後はお待ちかね「恋飛脚大和往来」から「封印切 新町井筒屋の場」。おえん(昨夜に続き秀太郎が元気で嬉しい)に手引きされ、塀外で忠兵衛(仁左衛門)と梅川(孝太郎)がじゃらじゃらするのが、和事らしい。井筒屋に戻って、八右衛門(鴈治郎)の悪口がネチネチと実に嫌らしく(カネのないのは首のないのと同じ!)、忠兵衛が我を失うのに説得力がある。クライマックスの松嶋屋型は「辛抱立役」だそうで、二階から駆け下りてカネならあると見栄を張り、追い込まれ意を決して公金に手を付けちゃう。いわば確信犯で、愚かな衝動というより、なけなしのプライドなのか。終盤の身請けの祝いが悲しい。
仕上げは南北作「御存 鈴ヶ森」。愛之助が白井権八をユーモラスに。そして満を持して白鸚の幡随院長兵衛が楽しげに。あ~、面白かった!
新しくなった南座は、歌舞伎座に比べると規模は小さいながら、華やかなまねきのライトアップや、折り上げ格天井、アールデコの照明シェードなど大正モダンな感じが、いい味わい。大充実でした!

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談志まつり「漫談平等論」「猿後家」「鼠穴」

談志まつり2018  2018年11月

自分としては3回めの立川談志追善特別公演を中入りから。有楽町よみうりホール後ろの方で4500円。
高座に談志の写真を掲げ、ロビーで売っているCD「談志42歳」から「漫談平等論」。1978年東宝演芸場5月上席の録音で、タイミングは参院議員を辞めた後、協会分裂騒動の直前だ。毒舌と愛嬌が懐かしい。
「立川流の商売がよくわかる」「この後はやりにくい」と言いながら、志の輔登場。家元と海外へ行けなかったのが残念、自分でアジア公演をしているが、楽屋を訪ねてきた大使に「落語は初めて」と言われてがっかりした、その実、自分もわざわざ呼んでもらった富山民謡「こきりこ節」は初めて観たんだけど、などと笑わせておいて「猿後家」。とある商家の女将さんは何不自由ない暮らしながら、猿似なのを気にしている。植木屋はサルスベリと言って追い出され、貸本屋は猿回しと口走って出禁になりかけるが、おだてまくって失地回復し…と、何ともバカバカしく、愛らしい。
トリは昨年同様、立川流代表の土橋亭里う馬で「鼠穴」。談春さんで聴いたけど、笑いどころが掴めなかったかな。

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METライブビューイング「サムソンとデリラ」

METライブビューイング2018-19第2作「サムソンとデリラ」 2018年11月

ネゼ=セガンが音楽監督に就任したシーズン。組曲「動物の謝肉祭(瀕死の白鳥など)」で知られるサン=サーンスの、1877年初演作を聴く。ワーグナーに影響を受けたという重層的なドラマを、エリーナ・ガランチャ(ラトヴィア出身のメゾ)&ロベルト・アラーニャ(イタリアのテノール)の黄金コンビが見事に。特に濃密な2幕が素晴らしい。指揮はイギリスのベテラン、マーク・エルダー。休憩2回を挟み3時間半。東劇で3600円。
お話は旧約聖書「士師記」のガザの英雄サムソンの物語。支配者ペリシテ人に反撃するが、ソレクの谷で美女デリラの誘惑に負け、怪力の秘密を明かしてしまう。捕らわれるものの、捨て身の祈りでペリシテ人とダゴンの神殿を道連れにする。
とにかく美形ガランチャが最強だ。宗教色の強い戯曲を、リアルで命がけの恋愛ドラマにしちゃう。デリラはサムソンを真実愛しており、民族や信仰から奪い返すという解釈。2幕の名アリア「あなたの声に心は開く」が、後半はサムソンも加わってとろけるよう。ハープとクラリネットが美メロだし、妖艶な緑のネグリジェだし。1幕はビヨンセばりに大階段から登場し、3幕でもサムソンへの思いを伺わせる視線の演技に説得力があった。
もちろんアラーニャも安定の二枚目。ヘブライの長老、ディミトリ・ベルセルスキー(ウクライナのバス)が深い声。敵役の大祭司はロラン・ナウリ(フランスのバスバリトン、デセイの旦那さんらしい)で幕間インタビューがお茶目だった。
全体にはスペクタクルの間に緊迫の心理劇が挟まっており、1幕ヘブライ民衆のチャント風合唱から3幕「勝利のバッカナール(酒宴の踊り)」のバレエまで、要素詰め込みすぎ。トニー賞受賞者ダルコ・トレズニヤックの新演出は、エキゾチックなアーチやレース模様の壁、ゴージャスな原色キラキラ衣装で歌手を盛り上げていた。ラストは巨大神を崩すのではなく、強い照明で視界から消す工夫。紗幕の手形がよくわからなかったけど。
案内役はスーザン・グラハムで、ガランチャと「メゾはズボンが多いからね~」と意気投合して面白かった。

セールスマンの死

KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「セールスマンの死」  2018年11月

アーサー・ミラー作、エリア・カザンが1949年に初演してトニー賞、ピリッツァー賞を得た著名戯曲を、長塚圭史が演出。深い疎外感、最も身近で大事な人との亀裂が、いかに人を傷つけるか。いったいどこで、ボタンをかけ違ってしまったのか? 今も古びない普通の家族の悲劇を、風間杜夫が期待通りに名演。こんな地味なお話に感動するとは… 休憩をはさみ3時間強も長く感じない。徐賀世子訳。KAAT神奈川芸術劇場ホールの前の方いい席で8500円。
口八丁のセールスマン、ウィリー・ローマン(風間)は60歳を過ぎて成績が上がらず、2代目社長ハワード(伊達暁)に疎まれている。長男ビフ(山内圭哉)は盗癖があり、次男ハッピー(菅原永二)は異常な女好きで、どちらも成功には程遠い。
混濁していく意識に、過去がフラッシュバックする。ブルックリンの戸建てを手に入れ、息子とスポーツに興じた幸福な日々。同級生バーナード(加藤啓)に知らされた、ビフの挫折と失望。兄ベン(村田雄浩)について、アラスカの冒険に乗り出す妄想。
どんどん追い詰められていく風間の深い演技に、胸が苦しくなる。圧倒的な弱さ。だからこそ友人チャーリー(大谷亮介)の、無骨ないたわりに思わず涙。微妙な表情がいいなあ。そして、すべてが崩れ去ってようやく、父への愛情を吐露する山内にまた涙。いつもの怪優ぶりは封印でしたね。
妻リンダの片平なぎさも手堅い。幕開けと呼応するラストの葬儀シーンの、皮肉と後悔が染みる。深い悔恨と、残酷な開放感。意外だったはバーテン、スタンリーの加治将樹。ちょい役なんだけど、温かくて存在感があった。
2階建てウィリー家はスケルトンのセットで、その空疎が印象的だ。中央の存在感ある冷蔵庫は、故障ばかりなのにローンが終わってない。美術は二村周作。

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徐賀世子訳
徐賀世子訳

贋作(にせさく)桜の森の満開の下

NODA・MAP第22回公演「贋作 桜の森の満開の下」坂口安吾作品集より  2018年11月

野田秀樹が33歳で1989年に初演した代表作の一つを、再々々演出。昨夏の歌舞伎版が評判をとり、パリ上演の話題もあって、チケットはひときわ入手困難に。幕開けとラストの大量の花吹雪で、鮮烈かつ美しく、観るものをねじ伏せちゃうのがアッパレだ。もっとも、贅沢過ぎるキャストの割に感情が伝わりにくかったかな。東京芸術劇場プレイハウスのやや後ろ寄り中央で1万円。休憩をはさみ2時間半。
安吾の幻想的短編を構成して、狂気と紙一重の創造の苦しみを叩きつける。幻の王朝・ヒダの王(野田)から夜長姫(深津絵里)・早寝姫(門脇麦)のため、ボサツを彫るよう命じられた耳男(妻夫木聡)が、大仏制作に身を削り、ついにはピュアで残酷な夜長姫を手にかける。ここにニセ匠2人、すなわちヒダ国を倒すオオアマ=大海人皇子=天武天皇(天海祐希)と山賊マナコ(古田新太)のほか、ヒダ王家のアナマロ(銀粉蝶)、奴隷のエナコ(村岡希美)、オニのハンニャ(秋山菜津子)、エンマ(池田成志)、匠の青名人(大倉孝二)、赤名人(藤井隆)らが入り乱れる。
耳男の彷徨を縦糸とすれば、横糸は古代史・壬申の乱の異説か。体制によって歴史から抹殺されたヒダ国や、はみ出し者たるオニたちが悲しい。それにしても「王冠=缶蹴り」といった独特のかけ言葉や笑いがたっぷりで、あふれるイメージはちょっと消化不良。
妻夫木は「振り回されキャラ」にますます磨きがかかり、呆然ぶりが秀逸。天海はさすが宝塚の立ち姿、身のこなしで男前が際立つ。深津の現実感の無さもはまってた。
手前のスロープで舞台下から、俳優が走って出入りするのが面白い。いつものよう造形はキッチュでダイナミックだ。舞台を覆う紙を破って、下からにょきにょきオニが現れたり、テープを建物に見立てたり、金幕をバーンと降ろしたり。美術は堀尾幸男、ポップな衣装はひびのこづえ。

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講談「木津の勘助」「め組の喧嘩」

春陽党大会  2018年11月
神田春陽さんの講談の会。らくごカフェの前の方で2000円。中入りを挟んでたっぷり2時間強。
前座は田辺いちかで「長州ファイブ 若き日の英国密航」。若き井上薫、伊藤博文らの史実をベースに、開国思想の芽生え、水夫扱いの苦労などをはきはきと。
春陽さん1席目はゲストの活動写真弁士、坂本頼光が映画の仕事で岐阜に行っていて、間に合うかハラハラしたこと、頼光さんが付き人をしていたアラカンの甥・山本竜二の居酒屋「竜ちゃん」で呑んだ話など、カルト感満載のマクラから、真打ちお披露目で聴いた「木津の勘助」。浪速の侠客の誕生談は、講談らしくて歯切れがいい。
続いてゲスト坂本頼光さん。活弁がテーマの映画に協力する苦労話から、自作アニメ「サザザさんシリーズ」へ。小池朝雄、殿山泰司、大滝秀治ら往年の映画俳優キャラに声真似をのせるのだけど、水木しげる風のタッチで、彫師やら妖怪やら、超ブラックでびっくり。本当に忙しいらしく、終わってすぐ機材をまとめて帰られました。
中入りにビールを調達。スペシャルゲストの岡大介が登場。実は坂本さんが間に合わない場合の備えて呼ばれてたらしい。若いんだけど、沖縄発祥のカンカラ三線で明治大正の演歌=自由民権時代に政府・世相を批判した演説歌を披露するんだそうです。これまた反骨かつマニアックだなあ。曲は小沢昭一も好んだという添田唖蝉坊(そえだ・あぜんぼう)の「金金節」。
ラストは春陽さんで、江戸時代の奉行や火消しについて説明してから「め組の喧嘩」。歌舞伎にもなっている町火消しと力士の喧嘩談で、啖呵の応酬だから歯切れがよく痛快だ。発端が芝神明宮境内の相撲の春場所で、騒ぎを大きくした半鐘が「遠島扱い」という決着も面白い。なんだか盛りだくさんでした~

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修道女たち

KERA・MAP#008「修道女たち」 2018年11月

紫綬褒章を受けたばかりのケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出。得意のダークファンタジーながら、ただ信じることの幸せが染みる佳作だ。犬山イヌコが出色の説得力。本多劇場の中央いい席で7400円。休憩を挟んで3時間強。
舞台はどこやら雪深いヨーロッパあたりの山荘。シスターたち(純なマーロウの伊勢志摩、しっかり者のノイ犬山、綺麗なニンニの緒川たまき、アニドーラ松永玲子)と、入信したばかりの資産家母娘(高橋ひとみ、伊藤梨沙子)が毎年の巡礼に訪れ、村の娘オーネジー(鈴木杏)、その幼馴染デオ(鈴木浩介)らが世話を焼く。
たわいない恋の鞘当てやら、禁欲的なはずのシスターたちの脱線ぶりやら、ナンセンスと笑いがたっぷり。なにしろ大真面目で「ギッチョダ」とか言うし。しかしお約束、徐々に影が濃くなっていく。実は最近、修道女が大勢亡くなる事件が起きていて、その一人の兄(みのすけ)が乱入してくる、戦場帰りのデオはなにか屈託を抱えている…
そして高橋が残酷な目にあうわ、デオは腕から木が生えるわ、これでもかというダークな展開の挙句、常に現実的な判断をくだしていたノイが、最後の最後にピュアさを見せつける。答えはない。それでも、抑圧される弱い者たちが、神というより人を信じることで勝ち取る芯の強さ、清々しさ。木工玩具「魂の列車」の印象的なラストシーンとともに、ちょっと意表をつかれちゃう感動。
俳優陣はさすが、みな安定していた。とりわけ杏ちゃんは、野生動物のような俊敏さと切なさに磨きがかかって、改めて才能を感じさせる。最近よく観てる感じの鈴木浩介は、KERA初出演とは思えないほど、笑いも超現実なところもはまってた。
冒頭いつもの登場人物を紹介していくプロジェクションマッピングから、洗練されている。美術は「百年の秘密」などのBOKETA。

 

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ジャージー・ボーイズ

「ジャージー・ボーイズ」横浜公演  2018年11月

2015年に来日公演が楽しかったジュークボックス・ミュージカル。2016年の日本版がミュージカルとして初めて、読売演劇大賞最優秀作品賞を獲得するなど話題だったので、再演に期待したところ、なんとシアタークリエ公演が台風で中止に。追加公演の振替でやっと観ることができ、感慨がありました~
本編は中川晃教らキャストがなかなかのクオリティ。モニターを積み上げ、舞台上のカメラマンがクローズアップを映したり、鉄筋・長い階段のシンプルなセットを回してスピーディーに場面を転換したり、見せ方にも工夫がある。大評判をとった演出は、蜷川幸雄さんの助手だった藤田俊太郎。老若男女幅広い神奈川県民ホール大ホール、中央の振替席で1万1500円。休憩をはさみ3時間弱。製作東宝。
なんといっても全編のキーとなるフランキー・ヴァリの中川が、人気だけあって名曲のファルセットを堂々と披露し、舞台を牽引。小柄なやんちゃ感もいい。その他キャストは新結成というTEAM BLUEで、フランキーと対立するろくでなしトミーの伊礼彼方が、色気を存分に発揮し、ストーリー性を担う。ボブの矢崎広は線が細いけど、知的かつキュートな造形で憎めないし、ニックのspiもハーフの容姿と長身に、人のいい感じがはまってた。
ほかにオネエのプロデューサーに太田基裕、マフィアのボスに貫禄の阿部裕、フランキーの妻に綿引さやから。たぶん本作には会場が大きすぎるんだろうけど、阿部はさすがに存在感があったな。
ヒット曲の数々は、日本語歌詞にしていて親しみやすい。翻訳は「コペンハーゲン」などの小田島恒志、訳詞は高橋亜子、美術は「近松心中物語」などのお馴染み松井るみ。
あらかじめロビーにお知らせがあって、カーテンコールのメドレーでは聴衆もペンライト(200円)で舞台に参加し、大盛り上がり! 振替なのでタオルも頂きました。あー、楽しかった!

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銀杯

The Silver Tassie 銀杯  2018年11月

ショーン・オケイシーの1929年ロンドン初演作を、シンガポール研修帰りの森新太郎が演出。戯曲も演出も複雑でチャレンジ満載。まだ上演2日目のせいか全体にこなれない印象だったかな。翻訳・訳詞は脚本家フジノサツコ。ジャニーズファンいっぱいの世田谷パブリックシアター、中段上手端で7800円。休憩を挟んで3時間弱。

第一次大戦(1914~18年)中のダブリン。軍の休暇で帰郷したフットボールのスター、ハリー・ヒーガン(中山優馬)は銀杯(優勝カップ)を得てもてはやされたのもつかの間、友人バーニー(ミュージカルの矢田悠祐)、暴れ者テディ(お馴染みパワーある横田栄司)らと前線へ戻る。そして残酷にも半身不随となって復員、戦場で自分を助けたバーニーに恋人ジェシー(モデル出身、足がきれいな安田聖愛)を奪われて絶望していく。
とにかく仕掛けがてんこ盛りの舞台だ。まず全編歌がたっぷり。太鼓が勇ましいスコットランド民謡、ウクレレの切ない黒人霊歌、ダンスホールの能天気ワルツ「波濤を越えて」… さらに黒ハットのハリーの父(山本亨)とその仲間(青山勝)が「ゴドー」よろしく、無駄話で狂言回しを務め、井上ひさしを思わせる。
場面といえば、1幕はダブリン庶民の貧しくもたくましい日常、4幕は浮き立つダンスパーティー。2幕フランスの悪夢のような戦地、3幕の兵士がただ番号で呼ばれる白い病室との落差が凄い。特に2幕の毒ガス漂う塹壕シーンは、観念的なセリフを、等身大の3頭身人形で不気味に表現。戦場の苦痛と狂気がむき出しになって、強烈過ぎ。下手には骸骨(土屋佑壱)がしゃがみ込み、崩れた修道院や砲台が絶望を深める。
場面の鋭い対比は、戦争を賛美したのに、手のひらをかえす民衆の罪を際立たせる。盲目となったテディも哀切。さらにステージは斜めの額縁で不安定さを印象づける。美術は伊藤雅子(「謎の変奏曲」など)、衣装・人形デザインは西原梨恵(「テロ」など)、音楽は国広和毅(「ヘッダ・ガブラー」など)。
若手は健闘だけど、戯曲と演出のパワーに押され気味かな。ワキながら、信仰を振りかざして若者を戦争に送り、ちゃっかり外科医(土屋が2役)と恋仲になるスージーの浦浜アリサは、浮世離れしていてハマってた。本音を吐露するハリーの母・ベテラン三田和代、テディの妻・長野里美も安定。
ところで戯曲そのものにもストーリーがある。なんとノーベル賞詩人イェイツの反対で、故国アイルランドでの初演がかなわなかったという。いわく「オケイシーは戦争に行っていないのに」とか。
プログラムの小関隆・京大教授の解説によると、英国の一部だったアイルランドでは「自治」獲得を期待して志願を奨励し、20万人超もが従軍。しかし大戦中の1916年に「独立」を目指すイースター蜂起が英国の激しい弾圧にあい、一転して帰還兵たちは同胞にとって目を背けたい存在となってしまう。この戯曲では、暮らしの安寧のために息子や夫を送り出す女たちも描いていて、辛すぎたのか。そう思うと、今作の間延びした感じの終盤が一層重い。その後の厳しい内戦、テロの応酬をへて、いま本国でどういう意味をもつのだろう。相変わらずアイルランドは一筋縄ではいかないなあ。

 

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内田光子シューベルトピアノ・ソナタ第4番、第15番、第21番、サラバンド

内田光子ピアノ・リサイタル シューベルト・ソナタプログラム  2018年11月

秋の一夜、透徹したピアノの音に浸る。そんな感じのコンサートに足を運んだ。サントリーホール大ホール、中央やや上手寄りのいい席で1万4000円。休憩を挟んで2時間弱。
きっかけは村上春樹との対談本で小澤征爾が「度胸がある」等々絶賛していたこと。2017/18シーズンはシューベルトのピアノ・ソナタシリーズとして12作品を選び、ロイヤル・フェスティバル・ホール、ウィーン楽友協会、カーネギーホールなどで演奏会を開催。ラトル指揮ベルリンフィル、サロネン指揮シカゴ響、ドゥダメル指揮ロサンジェルスフィルと共演したとか。凄すぎます。
細い長身で、年末には70歳になるとは思えない、颯爽とした感じで登場。おもむろに赤い布で持ってきたメガネをかけ、ときにメガネを直しながら、わりあい淡々と進行。残念ながら私は猫に小判ながら、余白の部分から強靭な集中力が伝わってくる。
曲目はまず第4番イ短調D.537。のっけからシチリアーノ(符点リズム)の粒だった音が、石畳をいくよう。ピアノってヨーロッパの香りがする、なんて思う。華麗。3楽章を弾き終えて、拍手に答えて小さくうなづく仕草は、なんだか可愛らしい。
いったん袖に引っ込んで、第15番ハ長調D.840。通称レリーク(遺作)の、シューベルトが完成した2楽章まで。低音のリズムや広がっていく高音が、明るくて染みる。
休憩20分の間に、ホワイエで偶然出会った知人とおしゃべり。席に戻ると、2階の上手席に報道カメラが大勢来ていて何事かと思ったら、なんと美智子さまがいらしたのでした。満場のスタンディングオベーションに静かに答えていて、当たり前ながら上品~ 
親交があるとかで、再登場した内田光子は美智子さまを見上げ、胸に手を当てて挨拶してから、第21番変ロ長調D.960。わずか31年の人生を駆け抜けた作曲家の、最後のピアノソナタ4楽章をたっぷりと。親しみやすい童謡のようなメロディーと、複雑な転調、鮮やかな起伏に引き込まれました~
アンコールはバッハ「フランス組曲5番」よりサラバンド(3拍子の舞曲)。英国籍でデイムの称号を受けているとか、作品に対する深く知的な解釈で2度もグラミー賞を得ているとか、パートナーがブレア外交の支柱ロバート・クーパーだとか、いろいろ情報はあるけど、今夜はとにかくシンプルに贅沢した!と思えて、大満足しました。

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鶴瓶「オールウェイズお母ちゃんの笑顔」「妾馬」「徂徠豆腐」

笑福亭鶴瓶落語会  2018年11月

冷え込んできた11月、TBS赤坂ACTシアターで鶴瓶の独演会を聴く。老若男女、幅広い聴衆でいっぱいの後ろの方、下手端で5000円。休憩20分を挟んで2時間半。
オープニングはトーク。結婚記念日に肉を食べたら痛風が出て、なんとか薬で抑えてロケに出かけ…と身辺雑記が爆笑に。マネジャー宇木氏が焦ってタクシーに乗り込む、駅でぶつぶつ落語を稽古していて通報される、阿部寛からのわかりにくい留守電、病院での空耳等々、さすがの愛嬌です。映像で今年の高座をトントンと見せて、本編へ。本当によく働いてるなあ。
自作の私落語「オールウェイズお母ちゃんの笑顔」から。2006年以来だけど、競馬の40万とか、阪大合格発表とか、やっぱり振り切れてる。テンション低めに、箪笥のクリスマスツリーをさらっと。
ゲストで辻本好美の尺八演奏のあと、家族の情をシリーズで、と振って、2席目は古典「妾馬」の前半。談春でも聴いたけど、こちらは志の輔の「八五郎出世せず」バージョンだ。テンポよく、アホだけど気概のある大工の八五郎に焦点を絞って存分に笑わせておいて、ラストに短く、母の人情で泣かせます。さすが。
中入り後は予告していた「徂徠豆腐」。志の輔で聴いて高座にかけようと思い、ドラマのロケ先が偶然、三遊亭歌司の自宅そばで挨拶に行き…と、人の縁をマクラに。志の輔版と違って、偉人・徂徠の解説はなく、豆腐屋を大阪から出てきたと大胆にアレンジして、庶民の視点を際立たせる。その庶民の柔軟な発想が、徂徠の出世の糧となり、一方、徂徠の「大阪の豆腐はマメの味がして美味い」という賛辞が、慣れない江戸で苦労していた豆腐屋の力にと、異質な二人の友情に説得力をもたせている。おまけに火事のあと、十両もって現れる棟梁が「金明竹」も顔負けの謎の関西弁で、笑わせます。いい噺だなあ。
いったん降りた幕をあげて、ラストはお弟子さんらのお囃子が並び、長崎のお茶屋さんで気に入ったという「送り三味線」。彼の地の伝統なんですね~ 
帰りにスポンサーのエースコックからカップ麺が配られました。楽しかったです!

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