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文楽「良弁杉由来」「増補忠臣蔵」「夏祭浪花鑑」

第二〇四回文楽公演  2018年9月

4月の住太夫に続いて、開幕直前に三味線の人間国宝・鶴澤寛治が亡くなるという悲報があった9月東京公演。芸をつなぐ覚悟を噛み締めつつ。国立劇場小劇場で7000円。
第1部は渋めだが見ごたえのある演目が並んだ。いずれも明治期の作だそうです。前の方中央のいい席で、休憩3回を挟み4時間強。まず「南都二月堂良弁杉由来」は、大仏建立により初代東大寺別当となった良弁の伝説で、シンプルな親子の情が力強い。2010年に亡き文雀の渚の方で観た演目。玉助(当時は幸助)が、花見シーンの吹玉屋役でドヤ顔をしたのが懐かしい!
導入の志賀の里の段は睦太夫ら、ツレの琴・八雲は友之助、錦吾。茶摘み遊びの折、大鷲が光丸をさらう。上品な母・渚の方は手堅く和生。30年後となる桜の宮物狂いの段では津駒太夫らを勢いある藤蔵、寛太郎らの三味線が盛り上げる。変わり果てた渚の方が我に返り、故郷を目指す船で良弁僧正の噂を聞き、奈良へ向かう。
休憩に席でお寿司をつまみ、東大寺の段。靖太夫はとても聴きやすく、錦糸が安定。東大寺門前にたどり着いた渚の方が、通りかかったユーモラスな伴僧のアドバイスで、杉に書付を貼ることにする。
続いてダイナミックな舞台転換があり、堂々としたお堂と杉の大木が登場。クライマックスの二月堂の段は次代を支える千歳太夫、富助。トレードマークの熱演は抑えめで、なかなかいい風情だ。御簾内のメリヤス隊をバックに、供回りの奴が槍のアクロバットで拍手を浴び、大勢にかしづかれてお待ちかね、僧正(玉男)がやってくる。かしら「上人」はこの役専用だそうで、目や眉を動かす「からくり」が一切無く、所作も極端に少ない。難役だなあ。超俗というより、幼子にかえるような可愛さがにじみ、母子の再会、「そんならあなたが」「そもじが」で、涙を誘ってました。
休憩のあとは、銘々伝である「増補忠臣蔵」から本蔵下屋敷の段。こちらは2014年5月、まさに寛治の三味線で聴いた演目だ。通俗的といわれるらしいけど、わかりやすくテンポがある。今回は前が呂太夫・團七、切が咲太夫・燕三に琴の燕二郎と贅沢なりレーだ。
人形は中堅がしっかりと。若狭之助(玉助)が近習・伴左衛門(端敵役を手堅く玉佳)の悪巧みを暴きつつ、「へつらい武士」の悪評を招いた加古川本蔵(玉志)の苦渋の選択を許し、運命の山科へと送り出す。派手な見栄はなく、我慢の演技だけど、人物が大きくて玉助に似合う。別れに妹・三千歳姫(一輔)が琴「柴小舟」を奏で、虚無僧に身をやつした本蔵が尺八を重ねる。哀しいシーンを音楽で彩るのも文楽らしい演出ですね。
1週間後に第二部「夏祭浪花鑑」を鑑賞。人気の夏狂言の古典とあって2012年に玉男(当時玉女)の団七で観たほか、歌舞伎では亡き勘三郎・芝翫(当時橋之助)・勘九郎(当時勘太郎)らのほか海老蔵・獅童ら、海老蔵・玉三郎らと3回観ている。今回は現在上演される場面をすべて並べたそうで、休憩3回でたっぷり4時間半。団七の勘十郎が、珍しいラストの立ち回りまで、庶民の任侠に狂気をはらんで大奮闘だ。全体がよく見える後方下手寄りの席で。
まず住吉鳥居前の段は、口が明朗な咲寿太夫・友之助、奥が睦太夫・勝平。油照りのイチ日、着替えてさっそうと再登場する団七の男ぶり、徳兵衛(文司)との達引と、止めに入る団七女房・お梶(清十郎)のきっぷの良さ、袖を取り交わす友情と、名シーンが続く。
前段に比べ、短い休憩を挟んだ内本町道具屋の段のシナリオは笑劇仕立てで、やや平板か。奥は三輪太夫・宗助。手代に身をやつした磯之丞(勘彌)の、浄瑠璃によくある2枚目像ながら、あまりのダメ男ぶりにイライラする。お嬢さまのお中(文昇)とねんごろになった挙げ句、番頭伝八、仲買弥市、義父の義平次(玉男)に騙され、弥市を手に掛けちゃう。続く道行妹背の走書が珍しい。織太夫、團吾らで。磯之丞・お中は伝八に追われ、首くくりを教わるふりをして殺害。人形ならではの表現だ。
食事休憩の後、いよいよ釣船三婦内の段。口は朗々と小住太夫・寛太郎、奥は呂勢太夫・安定の清治。恩ある磯之丞を逃がそうと、自ら顔を傷つける徳兵衛女房のお辰。蓑助が足はおぼつかないものの、さすがの色気で存在感を示す。さらに兄貴分の三婦(玉也)が自戒の数珠を切って喧嘩に至り、爆発の連続。団七・徳兵衛コンビが祭の晴れ姿、チェックの帷子で登場するのも格好いいなあ。
続く長町裏の段はお馴染み、だんじり囃子とメリヤスが暗い感情をかきたてる。織太夫、三輪太夫に清志郎。暗闇での団七と義平次の激しい立ち回り、義平次のガブ、団七の不動明王の彫り物と、視覚表現も鮮やかだ。華やかさから底なしの虚無へ。やはり名シーンです。
休憩後、東京では11年ぶりという田島町団七内の段を、文字久太夫・清介で実直に。悪人とはいえ舅殺しの罪を負い、真意を隠す団七と、胸を痛めるお梶、離縁を仕向けてなんとか逃がそうとする三婦、徳兵衛の思いが交錯する。もどかしい心理劇だ。ラストは一転、白昼の屋根の上の立ち回りで、派手に幕となりました。
ロビーでは北海道地震の義援金募集も。

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