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落語「あくび指南」「大安売り」「盃の殿様」「任侠流山動物園」

夜のビックショー  2018年8月

豪華メンバーの落語会。開演時刻前に前座が話し始めていて、一番手の春風亭一之輔が「寄席のやり方」といい、そのまま肩のこらない滑稽噺の流れに。幅広い落語好きが集まった感じのなかのZERO小ホール、中段で4000円。中入りをはさみ2時間半。
一之輔はいつも通りのワルっぽさで出色。マクラでは遅れて通路に立つ聴衆を、「無駄話してんだから座って座って」と促し、決勝が終わったばかりの甲子園、何も暑いなかやらなくたって、という派なんだけど、アルプススタンドで観戦して号泣、しかもテレビに映ってた!と笑わせて、「あくび指南」。師匠の舟遊びの退屈なリズム、のんきな連れのあきれた感じが可笑しい。
続いて対照的にせっかち気味の三遊亭兼好。五輪の暑さ対策には19年を14カ月にすればいい、アジア大会でのバスケ日本代表の不祥事をあんなに責めなくてもいいのに、日本人らしいんだから。毒気があるのに、チャーミングさで聞かせちゃう。スポーツ選手に期待しすぎちゃだめ、大相撲の番付は厳しい、と振って「大安売り」。若い者が町内の関取に、大阪での成績(元は上方の噺だからかな)を尋ねると、「勝ったり負けたり」と気をもたせたくせに負けてばかり。「相手が勝ったり、こっちが負けたり」でオチ。関取が大仰に「親方、ご贔屓の恩に」と繰り返すのが滑稽だ。
前半最後は柳亭市馬が、マクラ無しで「盃の殿様」。末広亭でちょっと聴いたことがある。気鬱に陥っていた殿様が吉原に通い詰め、戻った国元から足軽に命じて、花魁・花扇(実在らしいです)と盃をやり取りする。道中、大名行列を横切っちゃうけど、その大名がまた酒好き。殿様が「ご返杯」というが、どこの大名かわからず…。自分勝手な殿様遊びだけど、古風な言い回しに味がある。いつもの大らかさは少なめだったかな。
中入り後は漫談の寒空はだか。派手なスーツがいかにも色物だ。やはり甲子園話から応援団の薀蓄、六大学のチャンステーマを振り付きで披露。息切れしてるところが笑える。エアギターで器用にラテンを歌い、最後は定番らしい「東京タワーの歌」。
トリは柳家喬太郎。楽屋でバスケ代表の話なんかしてないぞ!、かつて人気落語ドラマを見て寄席に来た若い女性がイメージが違うとキレてた、落語監修でドラマの撮影現場に行ったら場違いで…と爆笑。前にも聞いた「ハラス」のギャクで扇子を取り落としちゃったりして、「任侠流山動物園」へ。三遊亭白鳥作、「流れの豚次」ら動物版の次郎長伝だ。ひたすらバカバカしいけど、本格的な講談タッチになっていて、笹を食べるパンダや虎の歩く仕草も抜群。大詰めはなんと浪曲調。「ちゃんと手が蹄になってる」「品川心中のはずだったのに」と、自分に対するツッコミも巧い。充実してました!
ホールではさん喬一門会や市馬さんの年末オケ付き落語会のチケットを販売。

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MAKOTO

阿佐ヶ谷スパイダース「MAKOTO」  2018年8月
作・演出長塚圭史。1996年から活動していた演劇プロデュースユニットを昨年、劇団に衣替えし、オーディションメンバーも加えた第1回公演。五輪に向けて急速に変わりゆく東京を素材に、忘れるということの苦しさ、重みを描く。下世話な笑いをまぶしつつ、暴走するイメージが面白い。新旧のファンが集まった感じの吉祥寺シアター、中段下手端で5000円。休憩無しの2時間15分。
蒸し暑い夏の朝。三郎(長塚)が妻(志甫真弓子)と娘(木村美月)を連れ、売れない漫画家の義兄・水谷(中村まこと)の部屋を訪ねる。水谷の妻・市子の死は医療事故で、訴訟すべきとけしかけるが、水谷とは会えずに、隣の男(森一生)、隣の女(李千鶴)と無為な時間を過ごす。
肝心の水谷は悲嘆から逃れるべく、最愛の妻をなんとか忘れようと、警備員仲間の金髪・入口(坂本慶介)や栗田さん(中山祐一朗)、妻を手術した怪しい医師・森本(伊達暁)、その飲んだくれ妻(ちすん)、息子(大久保祥太郎)らを巻き込んで、無茶をする。そのうち妻の服を燃やすと、破壊のエネルギーが発散されると気づき…
街で新しい建物に通りかかったとき、以前その場に何が建っていたか忘れていて愕然とすることがある。観劇しながらそんな感覚に襲われた。1964年の東京五輪時に整備されたお化けトンネル(上に徳川紀州家の墓所がある千駄ヶ谷トンネル)あたりや国立競技場の変貌と、開発に取り残された西池袋の、ドア横に2槽式洗濯機がある寂れたアパートとの対比が鮮やかだ。幕切れに降り注ぐソフトボールの浮遊感が気持ちいい。
忘れることは苦しく切ないけれど、大事にしている記憶には都合のいい嘘も紛れ込んでいる。繰り返される夫婦の裏切りの気配に、そんな苦みも漂う。人物が多くてエピソード過多気味だし、水谷の苦悶の繰り返しに少々ダレ気味の時間帯もあったけど、今ならではの都市と家族の物語といえそう。
手練の中村が、相変わらずパワフルな怪演。手当たり次第、妻の衣装を着せて迫っちゃって気色悪さ満点だ。中山はヨーデルが巧くてびっくり。一方、いい奴の坂本(岩松さん「家庭内失踪」に出演)、飄々と不気味な森、透明感がある木村(1994年生まれ)ら若手も健闘。
ラッキーにも終演後にバックステージツアーがあり、舞台監督の福澤諭志さん、大久保クン、途中からは長塚さんも加わってセットを解説。アパートも道路も妻の服も、わざわざ写真をプリントして使っていて、その技術力と、過去を閉じ込める写真というメディアの意味合いが面白かった。
長塚さんは開演前に廊下で誘導しているし、ツアー後は俳優がグッズを売っているし、手作り感覚が劇団ぽいなあ。客席には
蓬莱竜太さんらしき姿も。

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