ハングマン
PARCOプロデュース2018 ハングマン-HANGMEN- 2018年5月
昨年末の「ビューティー・クイーン・オブ・リナーン」がとてもよかったマーティン・マクドナーの2015年初演作を、小川絵梨子翻訳、長塚圭史演出で。ブラックな笑いで、正義の嘘くささ、人の身勝手さをシビアに見せつける、かなり手強い戯曲を、田中哲司はじめ手練の俳優陣がテンポよく演じて、実に面白い。芝居好きが集まった感じの世田谷パブリックシアター、中ほど前の方で8500円。休憩をはさみ3時間弱。
1965年、イングランド北西部の都市オールダム。元絞首刑執行人(ハングマン)ハリー(田中)と妻アリス(秋山菜津子)が営む冴えないパブで、地方紙記者クレッグ(長塚)がハリーに、絞首刑廃止についてインタビューし、ハリーは独善的な持論を展開する。ロンドン男ムーニー(大東駿介)が現れ、内気な娘シャーリー(「ソロモンの偽証」の富田望生が初舞台)を誘う。翌日、夫妻が帰らないシャーリーを心配しているところへ、愚鈍な助手シド(大人計画の宮崎吐夢)がやってきて、2年前に刑を執行した殺人犯が実は冤罪で、ムーニーが真犯人ではないかとにおわす。降りしきる雨のなか、不安に追い詰められたハリーは無責任な常連客たちと共に暴走し…。
オールダムの面々は実にダメダメで滑稽だ。田舎者で偏見の塊、思い込みが激しい。特にハリーはプライドが高く、強烈にライバル視している先輩ピアポイント(実在のラストハングマン、三上市朗が朗々と)も負けずに尊大。刑事のくせにパブに入り浸ってるフライ(羽場裕一)はじめ、ビール好きだち(元自由劇場の大森博史、市川しんぺー、元東京乾電池の谷川昭一朗)は金欠かつアル中気味だ。
キルケゴールとか「ベイビーシャム」(洋梨の発泡酒)とか、小ネタで吹き出しているうちに、真相はあいまいなまま破滅に至る。いったい何が公正なのか。観るものを突き放す幕切れがシャープだ。
暴走する田中を、秋山がしっかり受け止め、ワキも抜群の安定感で、憎めない造形。金髪で唯一の都会派・大東に不穏な色気があって、かなりいい。ほとんどパブのワンセットだが、アクセントをつける照明が秀逸だ。一部を回り舞台で転換。美術はお馴染み二村周作。
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