切られの与三
渋谷・コクーン歌舞伎第十六弾 切られの与三 2018年5月
2008年以来5度目のコクーン歌舞伎。いつもの串田和美の演出・美術に、補綴として木ノ下裕一を起用、名場面の後日談が新鮮だ。立役に挑戦した七之助の、不安定で繊細な個性が光る。幅広い観客が集まったシアターコクーン、かなり前のほう下手寄りで1万3500円。休憩を挟んで3時間。
原作は三代目瀬川如皐(じょこう)による、1853年(黒船来航のころなんですね)江戸中村座初演作「与話情浮名横櫛(よわなさけきなのよこぐし)」。2015年に玉三郎・海老蔵コンビで観て、2人の色っぽさが印象的だった演目だ。
今回は歌舞伎の名シーン「源氏店(げんやだな)」は4場でみせてしまい、その後、12場まで続く意外な構成。歌舞伎に先立つ落語などを参考にしているとか。与三郎が強請り、殺し、島送りと、どんどん転落していく。その間に運命の女・お富と何度もめぐり逢い、また別れる。正直ややダレ気味のストーリーなんだけど、俳優の魅力と演出のメリハリで飽きさせない。
今回は歌舞伎の名シーン「源氏店(げんやだな)」は4場でみせてしまい、その後、12場まで続く意外な構成。歌舞伎に先立つ落語などを参考にしているとか。与三郎が強請り、殺し、島送りと、どんどん転落していく。その間に運命の女・お富と何度もめぐり逢い、また別れる。正直ややダレ気味のストーリーなんだけど、俳優の魅力と演出のメリハリで飽きさせない。
島抜けしてまで執着した江戸に戻った与三郎が、都市の雑踏で感じる疎外感。刹那に生きる若者の孤独が、なんとも現代的だ。だからこそ古典のお約束、忠臣の自己犠牲で傷を癒やすというご都合主義を、あっさり覆してみせるラストが爽快。ぱあっと視界が開けて、生きてきた証のように傷を引き受けた与三郎の、七五調の名台詞が観るものを揺さぶります。木下ワールドだなあ。
ワキ陣が節目で講釈師となり、筋を解説するのがわかりやすい。上下でDr.kyOn(元ボ・ガンボス)率いるバンドが、ライトモチーフさながらピアノとウッドベースでジャズ風に演奏するのもいい疾走感だ。附打の山崎徹は完全にパーカッショニスト。
与三郎の七之助が期待通り、見た目は凄みがあっても中身は甘ったれの若旦那、という切なさを存分に。八代目團十郎が作った役なんですね。幼いころの隠れんぼのまま、ずっと坊ちゃんを探し続ける下男忠助(笹野高史)の存在が効いている。お富の梅枝も古風な佇まいのなかに若さがあり、性悪だけど、男に頼らなければ生きていけない哀しみがにじむ。「きっとあるはずだよ。お前の居場所がサ。うらやましいねェ、お前は走れるんだもの」
もちろんワキは安定。笹野は与三郎とつるむ小悪党・蝙蝠の安と2役。ほかにお富の兄・和泉屋と終盤のキーマン・久司に扇雀、木更津の親分・赤間に自由劇場の真那胡敬二、その子分と和泉屋の藤八に亀蔵。
もちろんワキは安定。笹野は与三郎とつるむ小悪党・蝙蝠の安と2役。ほかにお富の兄・和泉屋と終盤のキーマン・久司に扇雀、木更津の親分・赤間に自由劇場の真那胡敬二、その子分と和泉屋の藤八に亀蔵。
こうだったはずの与三郎ともいえる弟・与五郎、萬太郎(梅枝の弟)は、声が通って頼もしい存在だ。その嫁・おつるは鶴松だけど、女形向きではないかな。
ロビーは和菓子などの売店が多くてウキウキ。知人に何人か遭遇。時蔵さんの姿も。
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