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落語「鈴ヶ森」「粗忽の使者」「百川」「あたま山」「心眼」

第48回大手町落語会~ザ・柳家!Ⅷ~ 2018年4月

晴天の連休に、2017年6月も聴いた柳家の会へ。古風な権太楼はじめ高水準だ。サンケイリビング主催、熱心なファンが集まった感じの日経ホールの、中段下手寄りで4000円。仲入りをはさんでたっぷり3時間。
開口一番は入船亭小辰(扇辰の弟子の二つ目)。「柳家ではないけど五代目小さんのひ孫弟子にあたる、今日は孫とか、本物の孫とか」と笑わせ、はきはきと「鈴ヶ森」。講談調のほうではなく、脅し文句もろくに言えないドジな新米追い剥ぎバージョン。初代春団治のアレンジという、筍がお尻に刺さっちゃうギャグで爆笑だ。
本編はいきなり会長・市馬で、お馴染み「粗忽の死者」の後半を飄々と。続いてさん喬で、新宿末広亭での小さん17回忌追善興行の告知から、こちらも定番の「百川」。安定してます。

仲入り後は貫禄がでてきた花緑で、「スケジュール通りだと、持ち時間がもう8分しかない」とか、プログラムの「Ⅷ」をめぐる楽屋のやり取りとかで笑わせ、ケチの金槌の小咄、「この落語会で一度もかかっていない」と振って「あたま山」。ケチな男が道に落ちていたさくらんぼを種ごとたらふく食べたら、頭に桜の木が生え、花見客がうるさいのでひっこ抜いたら、その跡が池になって釣り客が集まってしまい、男は怒って自分の頭の池に身を投げる。民話っぽさ、シュールさで有名な噺だけど、意外に初めて聴いた。テンポがよくて、仕草も面白い。同じ花見が題材の「愛宕山」を混ぜたりして、さすが。
トリは権太楼。聞き書きの芸談本の宣伝、「芝浜」の工夫をちらりと披露して、圓朝作という「心眼」。こちらも初めて聴きました。放送には馴染まないだろうけど、正統派の人情噺でしんみり。流しの按摩・梅喜が盲目ゆえに悔しい思いをして、茅場町の薬師を信心し、目が開く。人力車など明治の風俗に驚いているうちはいいが、献身的な女房・お竹が不細工、反対に自分はいい男と知り、浅はかにも芸者になびいたところで夢から覚める。我に返って、「寝ているときだけ、よく見える」。とても現代に人にはみえない権太楼の古風さがよくて、ほろりとしました~

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ヘッダ・ガブラー

シス・カンパニー公演 ヘッダ・ガブラー  2018年4月

1891年初演、イプセンによる大人の会話劇を、徐賀世子が翻訳、栗山民也が手堅く演出。個性的な登場人物たちは本音を隠しつつも、それぞれの焦燥、矛盾がぶつかり合って、現代に通じる面白さだ。俳優陣は手練揃い、スリルと乾いた笑いもたっぷり。幅広い演劇好きが集まった感じのBunkamuraシアターコクーン、前のほう下手端で9000円。休憩を挟んで2時間半。

亡き将軍の娘ヘッダ(寺島しのぶ)は半年もの新婚旅行を終え、新居で暮らし始める。夫イェルゲン(小日向文世)はヘッダを崇拝し、学者としても教授に昇格しそうなんだけど、マザコンならぬ叔母コンで子供っぽく、滑稽。当たり散らしてばかりのヘッダに、思わせぶりのブラック判事(段田安則)が、いやらしく言い寄る。
そこへ才能ある学者エイレルトを追いかけ、田舎で後妻におさまっていたはずのテア(水野美紀)が家出してくる。朴訥なのに大胆。続いて無頼漢エイレルト(池田成志)が久々に姿を現し、かつて恋仲だったヘッダの心中は激しく波立つ。男たちとパーティーに出かけたエイレルトが、酒癖の悪さから再起を決定づけるはずの論文をなくしてしまったことで、悲劇へとなだれ込んでいく。

人物たちは戯画的なまでにくっきりした造形だが、その心理は一筋縄でない。特に誇り高いヘッダは終始イライラして、「人の運命を変えてみたい」と口走る。残酷にもエイレルトの大切な論文を燃やしちゃうのは、ぱっとしないテアがエイレルトの学問的パートナーになったことへの嫉妬ゆえ。エイレルトがありえない無様な破滅をとげた後、実は学問的価値に忠実なイェルゲンが、よりによってテアと協力し、生き生きと論文を復元する姿をみて、追い詰められてしまう。多くを手にしているのに、実感だけがもてない自己の、絶望的な憐れさ。

近代演劇の父・イプセンというと、勝手に封建社会での女性の自立、という先入観があったけど、どうしてヘッダは自立どころではない。子供もろとも自滅、という暗示さえあり、悪女には見えない。前向きでないと社会に存在しえないなら、それもまた閉塞。ほかの人物それぞれにも不合理があり、いろんな解釈ができそう。2014年の「幽霊」ではいまいちピンとこなかったんだけど、ノルウェー恐るべし、だ。

そろってよく働いている俳優陣が、期待通り力量を発揮。小日向の口癖「ビックリだね」が耳につき、激しく動く寺島はすらりとした細身にガウンが似合う。当初キャスティングされたという噂の、宮沢りえ版も観てみたいかな。終始裏のあるブラック判事のラスト「God, people don't do such things.」が観る者にひっかかりを残す。 
お馴染み二村周作の美術は、居間のワンセット。端正な縦のラインを強調し、官能的な深紅のソファーと、人物の陰や炎が不安をかきたてる。中央奥の高い位置に、将軍の肖像がずっと睨みをきかせ、バックのピアノも効果的。充実してました~

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歌舞伎「絵本合法衢」

四月大歌舞伎  夜の部  2018年4月

「片岡仁左衛門一世一代にて相勤め申し候」と銘打った「絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)立場(たてば)の太平次」に足を運んだ。四世鶴屋南北による、身も蓋もない悪漢もの。スピーディーな筋運びと、74歳にして2役出づっぱり、監修も務めるニザさまの「悪の華」ぶりで楽しめた。歌舞伎座前のほう、中央のいい席で1万8000円。休憩3回で4時間弱。

メーンストーリーは「時代」で、近江・多賀家の乗っ取りを企む左枝大学之助(仁左衛門)が繰り広げる悪事と、忠臣による仇討ち劇だ。大学之助は野望のためというより、気に入らないと衝動的に子供でも手にかけちゃって、それを楽しんでいるというトンデモキャラだ。
これに手下である太平次(仁左衛門)の「世話」ストーリーがからむ。こちらもタガが外れた無頼漢で、金欲しさと口封じのため、安直に殺戮を繰り返す。もう手当たり次第。
善悪十人以上が次々落命していき、陰惨なのに笑いもある。退廃的なビジュアルは錦絵のよう。モラルと理屈をあっさり振り切り、偶然の出会いなどご都合主義も満載で、実に歌舞伎らしい。

序幕・多賀家水門口の場で、大学之助一味が本家の重宝「霊亀の香炉」を盗み出す。お約束の振りですね。大学之助が花道の出で、深編み笠を取るシーンが美しくもぞっとさせる。多賀領鷹野の場では大学之助が、道具商・田代屋の与兵衛(錦之助)と共に通りかかった、許嫁・お亀(孝太郎)に横恋慕。錦之助の折り目正しさがいい。
続く多賀家陣屋の場で、大学之助が本家の忠臣・高橋瀬左衛門(彌十郎)を騙し討にし、重宝「菅家の一軸」まで手に入れ、扇の陰から舌を出す。怖い!

短い休憩を挟んで二幕目・四条河原の場。色男の太平次に惚れている蛇使い・うんざりお松(時蔵)が、田代屋に質入れされた香炉を取り戻そうと企む。時蔵さんの色気と腹の太さが出色だ。「悪婆」の原型だそうです。昼は政岡で、大活躍だし。
今出川道具屋の場で、お松が田代屋で強請りを仕掛けるが失敗。与兵衛とお亀は義母おりよ(萬次郎)のはからいで、香炉を持って兄・瀬左衛門の仇討ちに出立し、難を逃れる。太平次は毒酒でおりよを殺して金を奪う。残忍な悪党だけど愛嬌も漂うのが、ニザさまらしい。
さらに妙覚寺裏手の場で、なんと邪魔になったお松を殺め、井戸に投げ込んじゃう。三日月と、派手な女の着物が妖しい。太平次と女房お道(吉弥)、与兵衛とお亀、瀬左衛門の弟・弥十郎(彌十郎が2役)と妻・皐月(時蔵が2役)の3組による、様式的なだんまりで幕。

食事休憩の後、3幕目。和州倉狩峠の場で大学之助一味が与兵衛とお亀を追っている。倉狩峠一つ家の場は大和国にある旅人の休息所「立場」で、人間関係が複雑に交錯。主人の太平次が、旅のお米(梅丸)を売り飛ばそうと企むところへ、持病に苦しむ与兵衛とお亀が到着。お亀は夫を手引きしようと、健気にも妾となって大学之助の屋敷に向かい、与兵衛は峠へ逃げていく。また、お米を探して高橋家に仕える夫の孫七(坂東亀蔵)がやってくる。声の通る亀蔵(楽善の次男)がりりしく、梅丸(梅玉の部屋子)もなかなか。
続く倉狩峠古宮の場では与兵衛を狙う太平次が、とめようとする善人の女房・お道を踏みつけた挙げ句、元の一つ家の場に戻って孫七・お米をなぶり殺しにしちゃう。残忍なんだけど、独特の中腰の構え、彫り物姿の見栄が決まって、格好いい。

短い休憩を挟んで大詰。合法庵室の場は天王寺近く。僧・合法が実は次兄の弥十郎と知らず、深傷を追った末弟の与兵衛が、庵室に身を寄ている。敵の大学之助が現れ、太平次の死が明かされるものの、与兵衛は仇討ちに失敗し、「一軸」「香炉」も奪われて無念の切腹。弥十郎と涙の別れとなる。
そして巨大な仏像が登場する閻魔堂の場で、ついに弥十郎・皐月が、瀬左衛門が討たれた槍の穂先を使って本懐を果たす。カーテンコールのようにニザさまらが頭を下げて幕。面白かったです!

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文楽「本朝廿四孝」口上「義経千本桜」

第一五〇回文楽公演 第一部  2018年4月

吉田幸助改め五代目吉田玉助襲名披露の初日に、大阪へ駆けつけた。劇場外にお祝いの幟、ロビーにはご祝儀が並び、玉助ご夫妻がお出迎え。緊張と華やかさで胸いっぱいだ。国立文楽劇場、中央前のほうのいい席で、6000円。休憩3回を挟み4時間半。

近松半二ほかの時代物「本朝廿四孝」三段目で、まず桔梗原の段。奥は文字久太夫・團七が重々しく。舞台中央の領地境を挟んで、武田家執権・高坂(玉輝)、妻唐織(蓑二郎)と長尾家執権・越名(文司)、妻入江(一輔)が名軍師・山本勘助の札をつけた捨て子を取り合う。慈悲蔵(贅沢に玉男)が親孝行ゆえに、一子・峰松を捨てた、という導入部だ。
ランチ休憩の後、緊張の口上で、蓑助さん以下、吉田門下がずらり。蓑二郎さんの司会で、玉男、和生、勘十郎が温かく挨拶。後列は玉翔、玉佳、玉輝、玉也、玉志、玉勢、玉誉。戦前、戦後に活躍した三代目は座頭格の大物だったんですねえ。

短い休憩の後、景勝下駄の段を織太夫・寛治で重厚に。舞台は亡き山本勘助の老妻と、息子2人が暮らす信濃の山里だ。雪中に筍を探す(呉・孟宗の故事より)慈悲蔵の健気さ、身勝手な兄・横蔵に子の次郎吉を押し付けられた慈悲蔵女房・お種(和生)の悲哀、女ながら勘助を名乗り、慈悲蔵に無理ばかり言う老母(勘十郎)。長尾景勝(玉也)が老母の下駄を拾って登場し(秦・黄石公の故事より)、兄・横蔵を召し抱えると告げる。

続いてお待ちかね、襲名披露狂言の勘助住家の段! 前は渋く呂太夫・清介。お種の苦悩と、唐織が連れてきた峰松のはかない最期。
後は怒涛の呂勢太夫で、清治の三味線が冴え渡る。慈悲蔵は竹やぶで、鳩を目印に箱を掘り当て、横蔵(迫力の新・玉助)と争う。
時代物のお約束・石摺襖の座敷に転じ、老母(後から蓑助がしずしずと)から、よく似た景勝の身代わりに自害を、と迫られた横蔵は、なんと自ら右目を傷つけて容貌を変えちゃう。実は慈悲蔵は長尾家の家臣・直江、そして自分は武田家に仕えており、将軍の遺児を次郎吉として育てていたと明かす。竹やぶの箱からは源氏正統の証・白旗が見つかり、横蔵が赤地金襴にぶっ返ると、老母は一転あっぱれと誉める。横蔵が勘助の名を継ぎ、一方の慈悲蔵が軍法「六韜三略(りくとうさんりゃく)」一巻を受け取って、敵味方に分かれて戦場での再会を期す。
途中、玉男さんが引っ込むところで何やら不手際があったり、玉助さんが引き抜きに手間取ったりと、ハプニング続出。それでも玉助さんを中心に、人形陣の大物がずらりと並ぶ舞台は圧巻でした!

息詰まる時代物の後、休憩後は華やかに、「義経千本桜」から道行初音旅。舞台正面の上段に咲太夫、織太夫ら、手前に燕三、宗助らがずらりと9丁9枚が並ぶ珍しいしつらえだ。桜満開の吉野山を背景に、静御前(清十郎)と忠信(勘十郎)が連れ舞う。お馴染み勘十郎さんが嬉々として、狐や早替りで楽しませる。清十郎さんは右手が辛そうで、ちょっと扇が落ちてハラハラしたけど、決めるところは決めてました。

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