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岸 リトラル

岸 リトラル  2018年3月

2017年の「炎 アンサンディ」再演が衝撃的だったレバノン出身ワジディ・ムワワド作、藤井慎太郎訳、上村聡史演出の組み合わせ。最終日に滑り込む。父親探しの旅と別れの、過酷で観念的な戯曲を肉体で見せる力作だ。シアタートラムの上手端、中段で6800円。

モントリオールに住む青年ウィルフリード(文学座で上村と同期の亀田佳明)はある夜、物心つく前に別れた父イスマイル(岡本健一)の訃報を受け取る。親戚たちから家族の墓地に葬ることを拒否され、呆然としていると、遺品の赤いスーツケースから投函されなかったウィル宛の手紙が大量に出てくる。
果たして父は何を思い、孤独に死んでいったのか。ウィルは埋葬の地を求め、遺体を背負って中東の祖国をさすらう。道中で合流していく男女は、内戦による深い傷を語っていく。歌う女シモーヌ(中嶋朋子)、父を殺めて銃を手放せないアメ(小柳友)、眼前で父母をなぶり殺され、ピエロを演じるサベ(文学座の佐川和正)、親に捨てられたピュアなマシ(ジュノン出身の鈴木勝大)、そして犠牲者たちを記憶しておこうと、かろうじて焼け残った電話帳を抱えて歩くジョゼフィーヌ(文学座の栗田桃子)。なんという底なしの人の残虐さ。やがて一行は広々した海岸にたどり着く…

「約束の血4部作」の1作目。全編ウィルの妄想のようで、荒唐無稽な飛躍も多い。謎解き要素に引き込まれた「炎」と違って、正直、休憩を挟んで3時間半を長く感じる。ギリシャ悲劇やアーサー王、ドストエフスキーを知っていたら入り込めるのかな。もっとも1997年初演初演は5時間半だったらしいけど。

もう勘弁、と言いたくなるグロテスクなエピソードが畳み掛けられるなか、俳優陣は笑いも交えて、熱演に次ぐ熱演だ。このエネルギーは凄い。亀田は冒頭から泡だらけで虚無的。出づっぱりで膨大なセリフを叫びまくり、世界を知って成長していく。
死者である岡本がなかなか緩急自在。どんどん黒ずんでいくあたりは滑稽味を漂わせ、終盤にはキリストの姿で青い絵の具を塗りたくられ、「彼岸」に寄せる命の輝きのよう。生前は悲惨な体験から逃避した人だけど、死して普遍的な父となり、残された子供たちを朗々と励ます。
中嶋が安定の透明感だ。岡本との力強い2重唱も染みる。空想の騎士を演じる大谷亮介が、軽妙なかき回し役。栗田のピュアさが際立ち、実直な佐川や鈴木もチャーミングだ。

舞台はシンプルで、左右の2枚の壁が奥に向かって狭まるスタイル。風に飛び散る手紙、鈍く光るビニールの天幕や、大詰めで床を外して海辺に転じるのが面白く、ライティングの変化が緻密だ。美術の長田佳代子、照明の沢田祐二も「炎」と同じ。
カーテンコールには上村も登壇。客席には佐野岳さんらしき姿も。

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