« 2017年12月 | トップページ | 2018年2月 »

黒蜥蜴

黒蜥蜴  2018年1月

江戸川乱歩原作、三島由紀夫による歌うように流麗な戯曲を、「ETERNAL CHIKAMATSU」などのデヴィッド・ルヴォーが演出する話題の舞台。2011年「猟銃」の印象が未だ強烈な中谷美紀が、宝塚チックなキラキラ衣装で「グロテスク・ビューティー」を演じきる。日生劇場、前の方下手端で1万2500円。休憩を挟んで3時間強。

宝石商・岩瀬(たかお鷹)が持つ「エヂプトの星」を狙う盗賊・黒蜥蜴(中谷)は、大阪中之島のホテルから令嬢・早苗(相楽樹)をさらう。名探偵・明智小五郎(井上芳雄)が阻止するものの、黒蜥蜴は岩瀬邸から再び早苗をソファに詰めて誘拐し、宝石との交換を要求。東京タワーでの受け渡しで、まんまと両方を奪い去り、逃走する船中で追ってきた明智を海に投げ込む。アジトに着き、宝石のほか怖ろしい美男美女の「コレクション」を見せる黒蜥蜴。令嬢もあわや、というところで変装していた明智が現れ、黒蜥蜴は自害する…

モラルを超えて究極の美を求める孤独な女賊と、犯罪に魅入られた探偵が運命的に惹かれ合うという、耽美と倒錯の三島ワールド。難解だけどイメージ豊か、きらびやかな比喩や、歌舞伎の割ゼリフ風などが耳に心地よい。
中谷が凛とした透明感で舞台を牽引。美しくも中性的な印象だ。美輪明宏や玉三郎が演じた役にチャレンジする姿勢もあっぱれ。ちょっと声が不調だったようだけど。対する井上もすらりとしていて、色気よりも悩めるハムレット風の造形。黒蜥蜴のしもべ雨宮役の成河と、実は替え玉で、とハスッパに転じちゃう相楽がコミカルで、いい対比だ。たかおの俗物ぶりに皮肉が効いている。

演出は青っぽい照明など、現実味が薄くて主演2人に焦点を絞った感じ。中谷のひたすらゴージャスな衣装が、乙女心をくすぐる。精緻な舞台転換と、黒蜥蜴に爬虫類のようにまとわりつくダンサー2人が面白い。ただいつもながらこの劇場は広すぎて、拡散するかなあ~ 美術は「謎の変奏曲」などお馴染みの伊藤雅子。衣装は前田文子。

20180128_002


TERROR テロ

TERROR テロ    2018年1月

7万人の命を救うために、164人を犠牲にした男は有罪か無罪か? 決めるのは観客。ミステリー連作「犯罪」がとても良かったフェルディナント・フォン・シーラッハの、知的で緊張感ある法廷劇だ。酒寄進一訳、最近では「謎の変奏曲」が秀逸だった森新太郎の演出で。
パルコと兵庫県立芸術文化センターの共同製作で、演劇ファンが集まった感じの紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA、上手寄りかなり前方で7800円。休憩2回を挟んで3時間。

観客は「参審員」として法廷に参加し、判断を迫られる。入り口でカードが配られ、2幕終了後に有罪、無罪の箱に投票、その評決に応じて終幕が変化する仕掛けだ。
ベルリンの刑事弁護士でもある作家が提示する設定は、実に重い。テロリストが民間機をジャックして、サッカー場への墜落を宣言。独断で機を撃墜し、大勢のサッカー観戦客を救う代わりに乗員乗客を死に追いやった空軍少佐コッホ(松下洸平)が殺人罪に問われる。観客に向かって、老獪な弁護士(橋爪功)はテロの脅威と、超法規的措置の必要を説き、対する検察官(神野三鈴)は厳然と、命を数で天秤にかけることの罪、人間の尊厳を主張する。
コッホの上司(堀部圭亮)に、暗黙の了承があったのか。サッカー場からの大規模避難や、被害者遺族(前田亜季)が叫ぶような乗員乗客によるテロリスト制圧という可能性はあったのか。
どれも、簡単に答えられるような問いではない。机と椅子数個のみのシンプルなセットで、今井朋彦の裁判長があくまで冷静に審議を進めるだけに、観る者の思考を追い込むような言葉のバトルが際立つ。美術は「足跡姫」などでお馴染み堀尾幸男。

初演の2015年はパリのシャルリー・エブド襲撃事件が、世界に大きな衝撃を与え、その後も各地で理不尽な事件が続いている。現実は厳しい。プログラムには18年1月6日現在の上演記録が掲載されており、それによると観客投票の61%が無罪。多数決の結果では、欧米や中東、オーストラリアの上演で無罪が多いのに対し、日本(2016年公演)や中国では有罪が目立つ。これはテロの不安との距離感なのか。この比率は今後、どうなっていくのか…

2013年からシーラッハの朗読を手がける橋爪が、さすがの練度。凛とした神野と、いい対照だ。抑制から感情の爆発に至る前田が熱演。
客席には山田洋次さんらしき姿も。

20180120_004

20180120_007

志の輔「買い物ブギ」「徂徠豆腐」

志の輔らくご GINZA MODE  2018年1月

パルコ劇場改装中の志の輔さん、新年はなんと昨年オープンし話題となったGINZA SIX地下3F・観世能楽堂で10日間。銀座モードと銀座詣をかけたタイトルです。幅広い志の輔ファンが集まった感じで、非日常感、ウキウキ感が素晴らしい。さすが工夫しているなあ。脇正面の前の方で、上手真横の角度で6000円。3時間弱。

すでに昨年6月のこけら落としに登場したけど、会場への経路がわかりにくい、橋掛かりの中央を歩いちゃいけないと叱られた、目付柱をはずしてもらった、などの苦労を語り、小咄を立て続けにやって雰囲気を確かめてから、新作「買い物ブギ」。初めて聴くけど、日常の疑問ものでいかにも定番の安定感だ。ドラッグストアで客が、洗剤の細かく指定された用途やらをしつこく質問し、バイトも店長も混乱していく。笑いたっぷりで、巧い。
お楽しみはこの会場だから、映像は無く、松永鉄九郎ら長唄連中がしずしずと登場。めでたい演目のメドレーなど。三味線は清々しくて格好いいなあ。

短い仲入りを挟んで、数あるジャンルから長唄を選ぶとか、職業には神に呼ばれるものがある、といった感慨から、後半は古典「徂徠豆腐」をたっぷり。講談や正蔵さんで聞いたことがある、しみじみ人情噺だ。ろくに食べずに本を読んでばかりいる長屋住まいの学者と、それを尊敬し、気にかける人の良い豆腐屋。立場を超えた2人の友情は、真面目な志の輔さんらしくて、説得力がある。振り袖火事とは、荻生徂徠とは。忠臣蔵という演目の人気も含めて、とても丁寧な解説を挟み、ガッテン!の世界になっちゃうのも、この人らしい。

帰りに「福のおすそ分け」として、博多木札(喜富多)ストラップを配ってくれた。サービス精神にあふれてます。

20180116_175615180

20180121_001


20180116_175243074

20180116_174608577

20180116_174533746

20180116_210440200

こがねい落語「元犬」「反対俥」「子別れ」「看板のピン」「品川心中」

こがねい落語特選 新春 温故知新~革新の落語家たち  2018年1月

武蔵小金井駅前の立派なホールの落語会シリーズに足を運んでみた。特選と銘打つだけあって、ハイレベルなラインアップだ。古典、かつ太神楽まで入って寄席・豪華版のよう。お得だなあ。ロビーで地元和菓子店のおまんじゅうを売っていたり、地域密着の雰囲気も楽しい。小金井宮地楽器ホール大ホール、前の方で3500円。

橘家門朗(もんろう、橘家文蔵さんの弟子)が開口一番で、おなじみ「元犬」をしゃきっと。本編のトップバッターは林家彦いちが、会場で「録音を始めます」と電子音が響くとか、空港の「機長が来ていないので欠航します」騒動とかで笑わせてから、「反対俥(はんたいぐるま)」。急いでいるので人力車に乗ったのに、車引きはよたよた、車もオンボロ。仕方なく乗り換えると、今度は元気いっぱいなのはいいが、障害物をものともせず暴走しちゃう。木久扇さん門下らしく、個性的ないかつい風貌とスポーツウエア風のライン入り着物で、一気に。
続く橘家文蔵が、うって変わってなんと「子別れ」下をたっぷりと。正調・人情噺で、父親がいじめっ子の存在にいきりたつあたり、泣かせます。父母それぞれから互いの様子を探られ、いらつく亀がなぜか猪木風になるくすぐりも。文左衛門時代の2012年に聴いて以来の、林家彦六の孫弟子。丁寧です。

というわけで仲入り後の三遊亭遊雀は、「子別れは長いだろ~」、客席の物音に「子別れ中だったら大変よ~」と笑わせつつ、兼好、文楽で聴いたことがある「看板のピン」をさらっと、しかしポイントはしっかりと。初めて聴く噺家さん。1965年生まれで、白髪の風貌と雰囲気がなかなか粋ですねえ。
続いて色物で、鏡味正二郎(かがみ・せいじろう)の太神楽曲芸。72年生まれでキビキビ、ハラハラ。文句なしに楽しい。
トリは本命・喬太郎さん、どうするかと思いきや、北の若旦那とダイコ持ちのギャグを振っておいて、「品川心中」上。女郎・お染がカネに詰まり、仲間に軽んじられるのが嫌さにお客と心中しようとする。お客を選ぶくだり、今日の出演陣の人物評が可笑しい。お客を桟橋から突き落としたところへ、カネが工面できたとの知らせがあり、ひとり店に戻っちゃう。遠浅だったため、お客は死なずに親方のところへ戻り、ひと騒動、さて仕返しは…。現金な女郎の造形がさすがに巧い。充実してました!

20180114_001

20180114_005

20180114_019

「双蝶々曲輪日記」口上「勧進帳」「相生獅子・三人形」

壽新春大歌舞伎 夜の部  2018年1月

歌舞伎座130年の新春幕開けは、37年ぶり高麗屋3代襲名で大盛り上がりだ。週末は無理と言われたものの、なんとか2階7列のやや下手寄りを確保。2万円。花道は見えにくかったけど、がんばる新幸四郎、楽しみな新染五郎を十分楽しめた~ 休憩3回をはさんで4時間半。

まず2016年に同じ芝翫(当時は橋之助)の濡髪長五郎で観た「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」角力場から。登場シーンで、堀江の角力小屋の扉が開くとき、顔まで見えない「大きさ」が格好いい。上方世話狂言の男っぽい側面ですね。前回菊之助だった山崎屋与五郎と放駒長吉の2役は、愛之助。上方世話物らしい鷹揚なつっころばしから、後半は虚勢を張る相撲とりへと、愛嬌があってなかなかいい。遊女吾妻は七之助。

25分の休憩に続いて、いよいよ口上。大御所・藤十郎の紹介に続いて鴈治郎、扇雀、秀太郎、孝太郎、愛之助、梅玉、魁春、東蔵、芝翫、勘九郎、七之助、彌十郎、左團次、高麗蔵、吉右衛門、歌六、又五郎、雀右衛門がお祝いを述べる。白鸚がけっこう喋るのは予想通りとして、一番ウケたのは幸四郎の「この後の襲名狂言が、ことのほか厳しい関となる」との言葉でした。そして目元すずしい染五郎が格好よくて色気がある!

食事休憩の後は、緊迫の「勧進帳」。長唄囃子をバックに、幸四郎の弁慶がことのほか丁寧で一生懸命。堂々とした弁慶役者ではないかもしれないけど、この切なさは嫌いじゃない。初役で義経の染五郎と合わせて、客席が応援モードに包まれるのも、この人独特では。
対峙する吉右衛門の富樫は、威圧感が半端じゃない。四天王もまさかの鴈治郎、芝翫、愛之助、歌六と揃って、いやがおうにも襲名感を盛り上げちゃう。後見にいたっては若手・廣太郎(友右衛門の長男)、ベテラン錦吾(初代白鸚の部屋子)でした~

名作を堪能した後、短い休憩を挟んで打ち出しは華やかに舞踏2題。上「相生獅子」は長唄囃子の石橋物で、艷やか。大名家の大広間で、扇雀、孝太郎の姫二人が、恋に悩むクドキ、扇獅子を使った舞(2017年2月に観た清元舞踊に似ている)、牡丹に戯れる獅子の狂いをみせる。
続く下「三人形(みつにんぎょう)」は常磐津囃子となり、古風でコミカル。箱から人形三体が飛び出し、魂が宿って動き出す。若衆(鴈治郎)、奴(又五郎)が丹前六方の伊達男風で廓通いをみせれば、傾城(雀右衛門)が花魁道中、お座敷の拳遊び。奴の足拍子から、揃っての手踊りで賑やかに〆ました。面白かったです!

20180113_006

20180113_015

20180113_023

20180113_028

20180113_020

談春「六尺棒」「藪入り」「包丁」

立川談春独演会2018  2018年1月

初エンタメは談春さん。前座もトークも無しで3席をさらさらっと。巧いなあ。幅広い落語好きが集まった紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA、前のほう中央のいい席で4320円。中入りをはさみ2時間強。

前座無しでまずは「六尺棒」をさらっと。吉原帰りの道楽息子が、逆に父親を締め出して反撃しちゃうのが滑稽だ。
続いて明治期のネズミ駆除の懸賞制度を説明してから「藪入り」。ネタおろしだそうです。2006年に小朝で聴いたことがある噺。冒頭、奉公している息子の里帰りを心待ちにする父親の愛情が切ない。財布に大金を見つけて激怒するものの、ネズミの懸賞で得たと知ってほっとする。息子も可愛らしいし、素直に泣かせるなあ。

仲入り後は安定の「庖丁」。弟分・寅が2枚目の兄貴・常から、同居している清元の師匠と別れたいので、ひと芝居打とうと持ちかけられる。乗り込んだ寅は、師匠とつまみの佃煮などをめぐってチグハグなやりとりをした挙句、剣突をくらってたくらみを白状しちゃう。逆に師匠と手を組んで、庖丁ですごもうとしていた常をやりこめる。3人が3人とも、小悪党だけど憎めない。こういう人物造形は抜群ですね~

20180108_002

20180108_001

« 2017年12月 | トップページ | 2018年2月 »