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2017年喝采づくし

ニナガワ亡き後の2017年は、翻訳劇に発見が多い年となりました。ベストは「リチャード三世」! ルーマニアの鬼才プルカレーテが、虚無的なまでの悪を描き、佐々木蔵之介の怪演もあって圧巻でした。ほかに上村聡史演出、麻実れい主演の「炎アンサンディ」が人間の尊厳を、小川絵梨子演出、鷲尾真知子と那須佐代子の「The Beauty Queen of Leenane」が行き詰まる母娘の愛憎を観る者に突きつけ、国内劇団では前川知大のイキウメ「散歩する侵略者」が、不穏な世界情勢を背景に、形のない「愛」の重みを鮮烈にみせてくれた。
定番では野田秀樹作・演出、宮沢りえ主演「足跡姫」が中村勘三郎へのオマージュで泣かせ、大好きな岩松了さん「薄い桃色のかたまり」が、震災の傷跡に蜷川幸雄へのオマージュを重ねてしみじみ。新感線「髑髏城の七人」は大掛かりな360度劇場で、テーマパークみたいに興奮しました~
俳優陣では中嶋しゅうの急逝が残念だったけど、上記作の出演陣に加え、段田安則、黒木華らが実力を発揮。若手の中村倫也、小柳友が楽しみ。

 

伝統芸能に目を転じると、まず歌舞伎の市川海老蔵が、プライベートの苦労もあいまって、「伽蘿先代萩」仁木弾正、「義賢最期」木曽義賢と凄み、哀切を存分に表現。吉右衛門「奥州安達原」、菊五郎「直侍」という大看板の至芸のほか、襲名を控えた染五郎「鯉つかみ」のケレンも楽しかった。
文楽は呂太夫襲名イベントがあったほか、試練の太夫陣で千歳太夫、文字久太夫が健闘。充実の人形陣では「玉藻前曦袂」九尾の狐などで勘十郎が大活躍し、「逆櫓」では襲名を控えた幸助が躍動。三味線の清志郎も格好よかった。

能は夜桜能「西行桜」や、名月・飛鳥山薪能のスペクタクル「大般若」で季節感を味わう。話題スポットの銀座の能楽堂にも足を運んだ。揺本を読むようになって、少しは理解が進んだかな。

落語は初の寄席で新宿末広亭に足を運んだほか、天満天神繁盛亭では文楽人形とのコラボイベントを体験。ベテラン権太楼「たちきり」や談春「明烏」が印象に残った。

 

音楽ではクラシックのバイエルン国立管弦楽団で、ペトレンコが初来日。美声フォークトとの「ワルキューレ」第1幕が大迫力だった。来日ではゲオルギュー「トスカ」も古風で味わい深く、METライブビューイングのラドヴァノフスキー「ノルマ」がドラマチック。レヴァインの不祥事は悲しかったけど。開場20周年となる新国立劇場では、グールド&ラングの安定コンビで「神々の黄昏」を堪能。
ポピュラーコンサートが大充実で、なんといっても松任谷由実「宇宙図書館」ツアーはまさかの7列目、ユーミンが目の前で歌っちゃってテンション最高潮。ほかに久保田利伸などがご機嫌だったし、武部聡志の還暦イベントでもユーミン、久保田利伸らが名曲を歌って贅沢。珍しく来日で懐かしいEARTH,WIND&FIRE 、ミュージカルの「天使にラブ・ソングを…」がノリノリでした~

 

 

2018年も素敵なステージに出会えますように!

 

 

 

 

アテネのタイモン

彩の国シェイクスピア・シリーズ第33弾「アテネのタイモン」  2017年12月

2017年の観劇納めは、亡き蜷川幸雄からシリーズ芸術監督を引き継いだ吉田鋼太郎演出作の千秋楽。観客も俳優陣も、鋼太郎応援モードですね。特に2幕、藤原竜也との論争&取っ組み合いが、役の上でもリアルでも、互いに認め合う雰囲気が伝わって涙を誘う。人はなぜ、真に尊重すべき相手の言葉に、正しいタイミングで耳を傾けられないのか。現代の企業経営に通じるかも。
男性が目立つSSS固定客に、柿澤勇人の女性ファンも加わった感じの、彩の国さいたま芸術劇場大ホール、前のほう中央のいい席で9500円。休憩を挟んで3時間弱。

戯曲は英語圏でも上演機会が少ないとあって、なんだかすっきりしない。研究では若手ミドルトンとの合作とか、実際に上演していなくて未完成だとか指摘されているようだ。笑いとケレンでリズムをつけようとする苦心が伺える。
衰退期アテネの富豪タイモン(吉田)はお人好しで、貴族たちや芸術家、商人に惜しげなく金品を与えていた。ところがついに破産すると誰も助けてくれず、屋敷に火を放って森をさまよう。人間不信に陥り、ひとり耳の痛い助言をしてくれていた哲学者アペマンタス(藤原)、変わらず忠誠を示す執事フレヴィアス(横田栄司)に背を向け、追放された武将アルシバイアディーズ(柿澤)が蜂起して、身勝手な元老院議員が助けを求めてきてもこれを拒絶。激しく怒り、世界を呪いながら死んでいく。
さんざんお追従を言いながら、しれっとタイモンを裏切っちゃう貴族たちはもちろん、散財を止めきれなかったアペマンタス、フレヴィアスにも罪はある。「あの時は誉めてたじゃないか」というタイモンの反論が切なく、誠実とは何かを考えさせる。

吉田はもちろん藤原、柿澤ものっけから声を張り、客席通路を歩き回って気迫の熱演。さしずめ「全員鋼太郎」の様相だ。個人的には「海辺のカフカ」の柿澤が、暗い色気で存在感を示したのが収穫。ほかに詩人の大石継太、貴族の谷田歩や松田慎也、召使の河内大和、松本こうせい、使者の白川大などよく拝見している俳優陣が安定。
俳優たちがウォーミングアップし、吉田が「始めよう」と声をかけてスタートし、前半は屋敷前の白い階段、大量の赤い証文を効果的に使用。貴族たちが次々タイモンを裏切っちゃうくだりでは、入浴シーンなどでテンポよく笑わせ、横一列に並んだ「最後の晩餐」と赤い照明で破滅を印象づける。後半は枯れ枝を敷き詰めた暗い森、巨大な城壁をダイナミックに転換。踊り子たちの色っぽい群舞や、アルシバイアディーズ軍の背の高い旗がアクセントに。墓碑銘が読み上げられた後も、タイモンが後方の高台から世界を睨みつけて幕となりました。

カーテンコールで吉田鋼太郎が蜷川組スタッフへの感謝などを語り、拍手。ホワイエには堀威夫さん、客席には白石加代子さんと、関係者が多い感じでした~

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流山ブルーバード

M&Oplaysプロデュース 流山ブルーバード  2017年12月

観るのは今年3本目の赤堀雅秋作・演出。お馴染み庶民のダラダラした日常と、危うさと背中合わせの「青い鳥」探しを、今回は若手がしっかりとみせる。特に賀来賢人の曖昧さ、暗い色気がはまってたなあ。幅広い演劇ファンが集まった感じの本多劇場、なんと前から2列目中央で7000円。休憩無しの2時間強。

兄・国男(皆川猿時)と実家の魚屋で働く高橋徹(賀来)は、中学以来の親友で土木関係の足立健(太賀)と遊んでいながら、身勝手にも健の妻・美咲(小野ゆり子)と浮気中。そこへ東京で役者を目指していた古川浩一(若葉竜也)が転がり込んできて、隣人のクレーマー黒岩順子(平田敦子)、スナックの美人ママ田畑典子(宮下今日子)と夫・幹夫(赤堀)、それぞれの屈託が交錯していく。さらに近隣では連続通り魔事件が起きており、キレやすい伊藤(柄本時生)とゲーセンで知り合った野宮(駒木根隆介)の噛み合わない会話が、どんどん不穏になっていく…

人当たりのいい徹の、間違っていると知りつつ状況に流されていく態度や、幹夫が駅ですれ違った人に舌打ちしちゃう不用意さは、誰でもちょっと覚えがあること。「俺、見えてます?」という野宮のセリフが、ありふれた生活にひそむ不安を思わせる。だから未明のダイニングで国男が持ち出す、くだらないけど「大事な話」が染みる。
最低なダメ男・賀来に対し、今回の太賀は引き気味だけど、懸命さが可愛く、お約束スナックシーンでは達者なカラオケも披露。小野は透明感が光り、若葉もきめ細かい表情の変化が達者だ。赤堀映画「葛城事件」で知られるほか、NINAGAWA「ロミオとジュリエット」の親友ベンヴォーリオで観た役者さんですね。そして柄本は得体の知れなさが、さすがの存在感。まあ結局、髪を切って、意外にも暴走を封印した皆川が、すべてをもっていくのだけれど。

回り舞台で3つのセットを切り替え、2階の歩道橋も使用。美術は二村周作。プログラムで赤堀自身が「劇中でカラオケを使うことを”アカホリ”って言うようにならないかな」とつぶやいていて笑った。登場人物がやたらとトイレに行くのも定番。トホホ感を印象付けてた。

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ビューティー・クイーン・オブ・リナーン

風姿花伝プロデュースvol.4 The Beauty Queen of Leenane  2017年12月

演劇通の知人の勧めで、目白通り沿いの小さな劇場へ。息詰まる空間での母娘の愛憎が、多面的、かつ悲しく胸に迫る名舞台だ。いったいどこで歯車が狂ってしまったのか。新国立劇場芸術監督就任を控える小川絵梨子が翻訳・演出で、コメディー要素も効いている。100席ほどで濃密なシアター風姿花伝は男性客が目立ち、顔見知りの演劇関係者が多い感じ。中段上手端で5500円。10分の休憩を挟んで2時間強。

戯曲が実に秀逸。「ロンサム・ウェスト」「イシュマン島のビリー」を観たマーティン・マクドナーのデビュー作(1996年初演)だ。アイルランドの片田舎リナーンに暮らす病身のマグ(鷲尾真知子)は、娘モーリーン(那須佐代子)に身の回り一切を世話になっているのに、いがみあってばかり。ある日、レイ(内藤栄一)が親戚の集まりを知らせに訪れ、出掛けていったモーリーンがレイの兄パト(吉原光夫)と再会したことで、破滅へとなだれ込んでいく。
高圧的な母と娘の構図だけど、7月の「Other Desert Cities」とは全く違った。2人の関係は一面的でなく、背景には圧倒的な貧しさや、神父の噂話などが示すコミュニティーの閉塞、出稼ぎの辛苦と差別、病に対する偏見、40歳独身女性の孤独、さらには閉じた空間が招く虐待が横たわる。
実はもたれ合い、かばい合い、だからこそ救いようなく歪んでいく。なんという哀切。閉じこもっているマグの生きる意味は、テレビとラジオぐらい。終幕でマグそっくりのモーリーンが耳にするリクエスト番組が、なんとも皮肉だ。そして揺れるロッキングチェア。

たった4人の俳優がまた素晴らしい。これまではワキの感じだった鷲尾の表情に目を奪われる。どうしようもない年寄りだけど、どこかチャーミングで、切ない存在感。対する那須も「炎アンサンディ」などのワキで観ていたが、これほど美しいとは。惨めな設定なのに凛としていて、ドライな印象がいい。
四季出身の吉原光夫は長身でゆったりした色気があり、海外ドラマのよう。闖入者として持ち込んでくる笑いと、唯一開いた窓のようなアメリカへの切ない憧れが際立つ。「レ・ミゼ」の最年少ジャン・バルジャンや映画「美女と野獣」の吹替の人なんですね。そして今回の発見は内藤栄一。粗雑で欠落の多い造形、飄々としたリズムが舞台をかき回す。松本で串田和美演出の音楽劇に出ていたとか。この戯曲はかつて大竹しのぶ、白石加代子、田中哲司、長塚圭史(演出も)で上演したそうだけど、負けない贅沢さだったのでは。
雑然とした居間兼台所のワンセットで、最小限の照明が効果的。客席通路に扉(美術は島次郎)。

劇場は那須の父が作り、那須が支配人。狭い階段でコーヒーを売っていたり、小さいながら充実している。椅子はさすがに窮屈だけど。今回は年1回のプロデュース公演で、7月に急逝してしまった中嶋しゅうの企画だ。妻・鷲尾さんの素敵さもあり、カーテンコールに涙。客席には生田斗真らしき姿も。勉強してて立派!

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文楽「ひらかな盛衰記」

第二〇一回文楽公演  2017年12月

年末の本公演は恒例で中堅中心。とはいえ休憩1回で4時間と充実。襲名を控えた幸助さんが躍動し、スケールの大きい舞台でした~国立劇場小劇場、やや下手寄り前の方で6000円。

「ひらかな盛衰記」は文楽、歌舞伎で観たけれど、今回は意外に初めての「逆櫓」に至るくだりだ。冒頭、義仲館の段の上演は1988年以来とか。朝敵となってしまった木曽義仲(玉佳)が、巴御前(一輔)と覚悟の出陣。腰元お筆(勘彌)が奥方・山吹御前(清五郎)と一子・駒若君(大人しい勘介)を連れて逃げる。
続く木津宿屋の段はぐっと庶民的になり、靖太夫・錦糸がきめ細やかに。大津の宿屋で、お筆一行と順礼・権四郎(玉也)一家が隣合わせ、駒若君を大津絵であやしたのをきっかけに交流する。追手・番場忠太(玉勢)が踏み込む混乱のなか、暗闇でお筆は駒若君と権四郎家の幼子・槌松を取り違えちゃう。
前半のクライマックス、笹引きの段は、襲名を控えた咲甫太夫と清友が明朗に。お筆が果敢に追手と戦うものの、槌松は殺され、山吹御前も心労からあえなく落命。お筆は笹の枝に亡骸を載せて引いていく。悲壮だけど、ダイナミックな舞踊の要素も。いつも観ていた劇場ロビーの絵画は、このシーンだったんですね。

後半は松右衛門内の段から。権四郎が槌松の行方不明について語ったところへ、婿の松右衛門(颯爽と幸助)が帰宅。権四郎直伝の逆櫓の技術のおかげで、義経の船頭に起用されそうだと喜ぶ。
激情が交錯する奥は、呂太夫・清介が渋く。お筆が訪ねてきて槌松の死を打ち明け、駒若君を取り戻そうとするので、身勝手さに権四郎は激怒。すると奥から松右衛門が登場し、実は義仲四天王のひとり、樋口だと正体を明かして、権四郎に頭を下げる。権四郎も激しく嘆きつつ、なんとか納得し、皆で槌松を弔う。
大詰め逆櫓の段は、海、船、松と装置が大掛かりで、怒涛の展開だ。清志郎の三味線が格好いい! 樋口は勇壮な「ヤッシッシ」の掛け声で、逆櫓を稽古。義経側についた船頭たちを蹴散らすものの、鐘や太鼓が響いてきて、松に登って物見すると、周囲はすっかり敵だらけ。実は権四郎があえて訴人して、駒若君を救ったのだった! 樋口は若君に別れを告げ、権四郎が弘誓の舟唄で送って幕となりました。あ~、面白かった。

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THE DREAM QUEST

DREAMS COME TRUE CONCERT TOUR 2017/2018 THE DREAM QUEST  2017・12

昨年の「裏ドリ」に続くドリカムに遠征。通常ツアーとしては2014年以来だ。10月発売のアルバム「THE DREAM QUEST」を中心に、衰えをみせない全力疾走で楽しませてくれる。横浜アリーナ、なんとアリーナ席のかなり近いところ!で8996円(入り口で座席がわかる入場引換券方式)。親子連れが目立ち、行儀よく浮き浮きした雰囲気も。25曲でたっぷり3時間半強。

早めに着いてライトスティック700円やTシャツなどをゲット。ビールとポテト、揚げたこ焼きですっかり遊園地気分になって席に着く。
オープニングは細長いステージの中央の幕が落ち、螺旋階段のトップからドリの2人が登場。これもお約束の冒頭から、吉田美和は号泣だ。そしていきなり「ケツキン」で盛り上がる。
前半は代表曲のほか、サービスと称して最近の裏BESTから珍しい曲も。色とりどりのパッチワークみたいな衣装で、左右のステージ面と、映像と歌詞を映す外壁パネルをダイナミックに上下させる複雑な構成をものともせず、2人で動き回り、吉田美和は歌い踊りまくる。偉いなあ。開場のノリもよく、「CARNAVAL」で全員で踊って一区切り。
NYでのアルバム制作の温かい雰囲気のドキュメントムービー、ゲーム風のドリクエのキャラクター紹介ムービーを挟んで、後半はアルバム曲を、なんと収録順に。「最後かもしれないCDという形で、アルバムをリリースできる幸せ」を噛みしめるようだ。MC中の中村正人のヘッドセットが壊れちゃって、急きょ吉田美和がつなぐ間に交換するハプニングがあったけど、大阪や九州の応援ソングが胸にじんとくる。吉田美和は可愛い白いミニスカートに赤いフリンジ、ムーディーな曲ではロングスカートを追加してました。
ウエーブをして待って、アンコールではジュリ扇のFUN・Pも登場。「LOVE LOVE」を大合唱して「大阪LOVER」で叫んで、あ~、楽しかった!
バンドは大人気の浦嶋りんこ、Tスクエアの坂東慧(Dr)、祖父がラジオ体操考案者という大谷幸(KeyB)、勝田一樹(Sax)ら。PerformerはShige、Keita。アナログ盤を作ったり、全国の郵便局で販売したり工夫してるんだなあ。全国の最後にスクリーンで早くも、2019年のワンダーランドを予告してました~ 会場には吉田羊さん、SCANDALの姿も。

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以下セットリストです。

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文楽「日高川入相花王」「傾城恋飛脚」

文楽鑑賞教室  2017年12月

初心者向けの鑑賞教室に足を運んだ。国立劇場小劇場の9列中央あたりという絶妙の席で、お得な3900円。15分の休憩を挟み2時間強とコンパクト。

入口でもれなく小型のパンフレットが配られる。床本には語注がついているし、3業の写真入り解説もあって親切だ。冒頭、靖太夫の短い挨拶のあと、咲寿太夫、小住太夫ら、寛太郎らの5丁5枚で「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)」渡し場の段。観るのは2009年以来だ。チャリがかった船頭とのやり取りの後、清姫(紋臣)が大暴れ。角出しのガブ、白い蛇に変じて川を渡り、ラストに背景が開けて桜が咲き乱れる。派手!
続いて靖太夫、友之助、玉翔が順に解説。みな笑いをまじえて上手だなあ。

休憩後は「傾城恋飛脚」新口村の段。鑑賞は3回目。前の文字久太夫・藤蔵が味わい深い。後は津駒太夫・宗助。人形は老父・孫右衛門が贅沢に勘十郎で、愛情と義理の板挟みに揺れ動くさまがきめ細かい。弱っちい2枚目の忠兵衛は幸助、かいがいしい梅川が和生。充実してました~

ちょっと、まってください

ナイロン100℃ 44thSESSION 「ちょっと、まってください」  2017年12月

ケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出。来年25周年を迎える劇団の3年ぶりの新作は、おそらくケラ流を熟知した劇団ならではの、安定の不条理喜劇だ。男性も多い本多劇場、やや後ろ上手端で6900円。休憩を挟んで3時間強。

金持ち一家、父(三宅弘城)、母(犬山イヌコ)、兄(遠藤雄弥)、妹(峯村リエ)は退屈な日々を送っていたが、裏庭に住み着いちゃったホームレス一家、祖母(藤田秀世)、父(みのすけ)、母(村岡希美)、兄(大倉孝二)、妹(水野美紀)に屋敷を乗っ取られる。一家の没落には、実はペテン師だった使用人(マギー)の企みが…というストーリーは、あってないようなもの。「賛成・反対」や「受付名簿」などを巡って、かみ合わない会話とナンセンスな笑いが畳み掛けられていく。

ナンセンスななかに、街を支配しているらしい「飛行船」と市民運動の対立といった、社会の歪みが見え隠れ。時空を超えた「葉書」のやり取りにはコミュニケーションの不安が漂う。
三宅、犬山をはじめとして手練の俳優陣は間合いがよく、飄々と、かつ温かい。なにより不快感がないのがさすがだ。のっけから白塗り、たれ目のメークなので、ブラックな笑いが分かりやすいし。それにしてもこのメークだと、水野の美貌が際立つなあ。大好きな大倉は、飛び道具ぶりは控えめながら、電信柱に登ったり、葉書を書いたりして、笑いと不思議感を牽引。メイドに小園茉奈。

斜めの窓がついた壁の折りたたみと、人力の回り舞台で、屋敷内と裏庭を何度か行き来する。別役実へのオマージュ満載とのことで、裏庭には象徴的な電信柱や月を配置。美術は「陥没」などのBOKETA。ナイロンお馴染みのプロジェクションマッピングが、不穏さを加える。冒頭、幕をちょっと開けるような照明で、俳優を紹介していくのが面白い。

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