東京芸術祭2017芸劇オータムセレクション「リチャード三世」 2017年10月
お馴染み、稀代の悪役を描くシェイクスピア劇を、ルーマニアの鬼才シルヴィウ・プルカレーテが圧巻の演出。ダークなラップ風の歌や白塗りが、読み替えを通りこして、すっかりアングラの趣きだ。それが安っぽくならないのは、革命とか難民とか、東欧のバックグラウンドの力なのか。さすが一筋縄でないなあ。加えてタイトロールの佐々木蔵之介をはじめ、個性的な俳優陣が人の愚かさを見事に抉り出す。木下順二訳をベースに、演出家が上演台本を手掛け、演出補は谷賢一。東京芸術劇場プレイハウス、中ほど上手寄りで8500円。休憩を挟み3時間弱。
天井の高いがらんとした空間の3方を、石垣模様の布でとり囲み、手術室風の大型ライト、錆びたロッカーやストレッチャー、古いバスタブを多用する。雰囲気はずばり、ホラー映画の呪われた病棟だ。不揃いな椅子やチェーンソーも登場。冒頭から俳優陣が、足踏みしながら酒をあおるのは、ちょっと前衛舞踏のよう。ストーリーそっちのけで、この殺伐さこそが主役なんだと思えてくる。
リチャード3世はイメージを覆して、醜さは実は演技、という設定だ。だからお約束の劣等感とか詭弁の要素は薄く、常に理由もなくニヤニヤ、ダラダラしている。だからこそ罪を罪とも思わない、救いようのない精神のひずみが際立つ。バケツを抱えて何かを貪るなど、手下2人を含めて、卑しい食のシーンが多いのも象徴的。
曲者揃いのキャストがまた、独特の演出を受けて立つ。なんといっても佐々木が期待通りの不気味な存在感。蹂躙されるアン夫人の手塚とおる、リチャードを呪うマーガレットの今井朋彦も、佐々木に負けず劣らず、怪しさ満載だ。母・ヨーク公夫人は低音が響く壌晴彦、兄エドワード四世は阿南健治、その妻エリザベスは花組芝居の植本純米、早々にやられちゃうクラレンス公は長谷川朝晴、盟友バッキンガム公に山中崇、対抗するリヴァース伯に山口馬木也、そしてヘイステイングズ卿にはそとばこまち出身の八十田勇一。原作ではセリフ一つながら、舞台全体を見守る代書人の役で、唯一の女優・渡辺美佐子が要所を押さえる。
野太い音楽はヴァシル・シリー。チンドン屋風に、舞台上をサックス隊が練り歩く。俳優の顔写真入りの人物相関図が配られていて、親切でした。