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文楽「生写朝顔話」「玉藻前曦袂」

第二〇〇回文楽公演 2017年9月

昼夜で勘十郎さんが大活躍する9月公演。まず第一部は観る者をイライラさせる男女のすれ違い劇「生写朝顔話(しょううつしあさがおばなし)」。ヒロイン深雪の運命が見事なジェットコースターぶりだし、三味線や琴の音がキーになるのも洒落ていて、けっこう現代的に楽しめる。初日から盛況の国立劇場小劇場、上手寄り後ろの方で7000円。休憩2回をはさみ4時間半。

戯曲は天保3年初演、読本→歌舞伎→浄瑠璃と練り上げられたロマンスのようです。
宮城阿曽次郎(珍しく2枚目の吉田玉男)と深雪(吉田一輔)が恋に落ちる、発端の宇治川蛍狩りの段は、竹本小住太夫が朗々。楽しみだなあ。芸州(広島)の家老のお嬢様、深雪が大胆に押しまくり、阿曽次郎の格好良さを印象づける。確かに、女扇にさらさらと「朝顔の歌」(物語のテーマソング)を書きつけるやら、酔いどれ浪人をやっつけちゃうやら、わかりやすい王子様ぶりだ。
続く明石浦船別れの段は、安定の竹本津駒太夫、鶴澤寛治、琴で鶴澤燕二郎。月の夜、風待ちの船上で2人が再会、深雪の猛攻に阿曽次郎がこたえる。船頭の桐竹勘介が小芝居。しかし突然の大風で船が動き、再び離れ離れに。阿曽次郎の手に、深雪が投げた朝顔の扇だけが残るラストが切ない。

ランチ休憩の後、浜松小屋の段は、存在感を増す豊竹呂勢太夫を鶴澤清治が支える。阿曽次郎会いたさに家出した深雪は、浜松の街道筋で、なんと盲目の三味線弾きに落ちぶれている。この段だけ登場の御年84歳・吉田蓑助が、深雪の色気と哀れを表現して絶品だ。乳母・浅香(人間国宝になった吉田和生)と再会したのも束の間、浅香は悪漢と刺し違え、伏線となる守り刀を託して息絶える。

短い休憩の後はお楽しみ、チャリ場の嶋田宿笑い薬の段だ。豊竹咲太夫、鶴澤燕三という切場並みコンビが、体調十分とは言えないものの、技巧を発揮する。舞台は大井川岸の旅館。駒沢次郎左衛門(改名した阿曽次郎)を狙う悪臣の一味・萩の祐仙(桐竹勘十郎)が、しびれ薬を仕込むものの、宿の主人・徳右衛門(桐竹勘壽)の機転で逆に笑い薬を飲まされちゃう。その名も祐仙という、愛嬌たっぷりのカシラ(一つしかないそうです)で、丁寧に茶をたてる動きがまず楽しい。笑いが止まらなくなってからの悶絶は、右へ左への大騒ぎだ。
続く宿屋の段が本来のクライマックス。渋く豊竹呂太夫、竹澤團七、琴で鶴澤清公。細やかだけど、切なさは今ひとつか。宿の庭先で通称・朝顔、実は深雪(かわって豊松清十郎がなかなかの熱演)が、思い出の朝顔の歌を奏でる。後ろの座敷で、愛しい次郎左衛門がじっと見守っているのに気づかない。あー、なんてこと! 次郎左衛門は役目を優先し、主人に扇と目薬を託して出立しちゃう。
大詰め大井川の段は、次郎左衛門を追いかける深雪が、髪振り乱して激しいアクション。体を捻じったり、杭にすがりついたり。またまた一足遅れで川止めに遭い、絶望からあわや身投げ、というところで、実は浅香の父・徳右衛門の犠牲によって深雪の目が治り、先行きに希望が射して幕となりました~

後日、足を運んだ第二部は「玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)」。「いがみの権太」ばりの自己犠牲談、プラス猿之助風のケレンがたっぷりという、サービス精神満載の演目だ。中ほどのいい席で同じく7000円、休憩3回を挟み5時間弱。
能「殺生石」にもなった金毛九尾の妖狐伝説を、読本をもとに近松梅枝軒らが人形浄瑠璃に仕立て、1806年に初演。昭和49年に淡路人形座の曲も参考にしつつ復活し(玉藻前は初代玉男)、一昨年には大の狐好きの勘十郎さんが、大阪で演じて大当たりをとり、楽しみにしていた東京上演です。

導入の清水寺の段は掛け合い。明るい清水舞台を背景に、悪人・薄雲皇子(吉田玉也)の謀反の企てや、可憐な右大臣の娘・桂姫(吉田蓑二郎)と格好いい采女之助(うねめのすけ、吉田幸助)の恋を紹介する。
続く道春館の段が大曲で、奥は竹本千歳太夫・豊澤富助が張り切る。いい声だけど大詰めの絶叫が気になるかな。お話は、皇子の手先・鷲塚金藤次(こちらははまり役の吉田玉男が大きく)が、皇子を振った桂姫の首を出せと迫り、切髪の後室・萩の方(吉田和生、今度は拍手あり)が双六勝負で、実子の妹・初花姫(吉田文昇)を身代わりにしようとする。左右対称に位置する姉妹がお揃いで、華やかな赤い打掛から死を覚悟した白い打掛に着替えるのが、目に鮮やか。バックギャモンのような双六の、サイコロを振る仕草も面白い。
母、娘のクドキ、そして金藤次が桂姫を討ち、実は実父だったと告白するびっくりのモドリ。「こりゃ娘、父(てて)じゃわい」で拍手~

30分の休憩後はスペクタクルに転じ、神泉苑の段を、豊竹咲寿太夫・龍爾改め鶴澤友之助、奥は朗々と豊竹咲甫太夫・鶴澤清介。初花姫が玉藻前と名を改め(桐竹勘十郎)、帝の寵愛を独占しているが、妖狐に乗り移られ、皇子と結託して、なんと日本を魔界にしようと企てる。
この作品だけで使う特殊なかしら2種類が登場して、拍手。長い髪をさばくと同時に180度回転して、娘と狐が入れ替わる「両面」、そして娘の顔の前に、鬘の下から狐を出す「双面」だ。
続く廊下の段で玉藻前が全身から光を放ち、妖力を露わにする。タイトルの元になったシーンを照明とスモークで演出。

短い休憩があり、訴訟の段はチャリがかって、いい加減な皇子の無茶ぶりで、なんと裁判を任されちゃった傾城亀菊(吉田勘彌)が、借金の揉め事やら色恋沙汰やらを下世話、かつけっこう賢く裁いて笑わせる。
物語大詰めの祈りの段は、竹本文字久太夫・竹澤宗助。亀菊が自らを犠牲にして、神器・八咫(やた)の鏡を采女之助に渡し、皇子の謀反はあっけなく頓挫。玉藻前は最大の弱点・獅子王の剣を突きつけられて正体を現し、那須野が原へ飛び去る。勘十郎さん、見事な宙乗り!

ラストは宝塚のレビュー風に、ストーリーと関係ない舞踊となり、「七化け」で勘十郎さんが早替りを演じる。なんと左と足が5組控えていて、入れかわり立ちかわり支えるそうです。
退治されて石になった妖狐が、夜な夜な化けて出るという趣向。座頭、在所娘、雷、いなせな男、夜鷹、女郎、奴、狐とめまぐるしく人形をかえながら、それぞれの仕草を器用に演じ分ける。雲や草のセットをうまく使った素早い転換が目に楽しく、客席は沸きに沸く! 床も咲甫太夫ら5丁5枚で、鶴澤藤蔵さんら三味線も大暴れでした。地方に伝わる大衆性と、現代的なスピードの融合。あー、面白かった。

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