天の敵
イキウメ「天の敵」 2017年6月
お馴染み前川知大作・演出。アンチエイジングへの疑問を通して、「生きるに値する人生」というものを見つめるSF。喋りっぱなしの浜田伸也、それを受け止める安田順平の巧さ、切なさが、いつにも増して際立つ。東京芸術劇場シアターイーストの中央最前列で4800円。休憩無しの約2時間。
エセ科学などを追及してきたジャーナリスト寺泊(安田)は、近ごろ妻(太田緑ロランス)が心酔する謎の菜食カリスマ・橋本(浜田)にインタビューする。戦前の医師・長谷川卯太郎の孫では、と迫ると、浜田は自分こそ長谷川本人であり、122歳になると主張する。
ほぼ全編が、長い長い橋本の告白だ。食材の瓶がずらりと並ぶスタイリッシュなキッチンのワンセットに、若き日の長谷川(松澤傑)や、完全食のアイデアをもたらす時枝(森下創)、長谷川の異常な食と長寿を支え続けた先輩医師(渋い有川マコト)、それを受け継ぐ孫夫妻(盛隆二、ナイロン100℃の村岡希美)らが次々に出入りして、印象的なストロボ音を挟みながら、橋本の来し方をテンポよく見せていく。美術は土岐研一。
人体改造というグロテスクな選択をした橋本は、それゆえに、しんと孤独だ。欠食から飽食へ、健康ブームへ。戦後日本の食事情の劇的変化にも、戸惑うばかり。だからこそ、唯一の友人だったチンピラ(大窪人衛)、そして橋本のすべてを受け入れた助手(小野ゆり子)が示す、素朴な共感が、胸に迫ってくる。それこそが、100年以上生きて掴んだ真実なのか。「家庭内失踪」などの小野が健気だ。
前川は調理師免許を持ち、今回の戯曲のために3日間の絶食も試みたとか。往年の名作「ポーの一族」など、いろんなイメージを詰め込んでいて、ときに理屈っぽい気もするけれど、荒唐無稽な物語に、確かな手触りを感じさせる。
最近、黒沢清が代表作を映画化してカンヌへ出品。乗ってるなあ。
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