METライブビューイング2016-2017第10作「ばらの騎士」 2017年6月
シーズンの締めくくりは、ゲルブ総裁がオープニング紹介を担当するリヒャルト・シュトラウスの甘美な「ばらの騎士」。当代一流の顔合わせ、女王ルネ・フレミング(ソプラノ)の元帥夫人と、エリーナ・ガランチャ(ラトヴィアのメゾ)の美青年オクタヴィアンが、それぞれ役からの卒業を宣言。時の移り変わりの残酷さ、というテーマと見事にシンクロして、大人っぽく、感動的だった。上演日は5月13日、ドイツオペラのプロ、セバスティアン・ヴァイグレの指揮が手堅い。東劇中ほどで3600円、休憩2回で4時間半。
フレミングは1幕終盤のモノローグなど、成熟と諦観を示す「銀色の声」がさすがの安定感。なにしろ出てきただけで大拍手、カーテンコールは上方の客席から紙吹雪が舞う人気ぶりです。オペラから引退とも(詳細は不明)。
個人的にはクール・ビューティー、ガランチャの色気が半端なかったなあ。宝塚も真っ青、やり過ぎなほどの男っぷりで、コミカルな女装も目が離せない。
2人と比べると素朴だけど、ゾフィーのエリン・モリー(研修生出身、ソルトレイクシティのソプラノ)が、透明なコロラトゥーラと、現代的な人物造形で健闘。オクタヴィアンとひとめで恋に落ちるシーンには引き込まれた。元帥夫人が身を引く、ラストの3重唱も存分に。
オックス男爵のギュンター・グロイスベック(オーストリアのバス)は単なる道化ではなく、複雑な没落の焦りや新興成金への敵対心を滲ませる。
今回は新制作で、「ファルスタッフ」を観たことがあるカナダのロバート・カーセンが演出。舞台を20世紀初頭、ハプスブルク帝国末期に設定し、赤や金の多用や、婚礼シーンのダンスはゴージャスながら、2幕では砲台や兵士で1次大戦前夜の不穏を強調。3幕では、下世話な娼館をあけすけに表現して、びっくり。階級対立に加えて、ラストは帝国の崩壊を暗示する。凝ってるなあ。
1幕でちょっと出てくる歌手役は、ごちそうのスター・テナー、「真珠とり」で聴いたマシュー・ポレンザーニで、舞台裏の案内役も担当。主要キャストの親密さを感じさせるインタビューのほか、カツラ、美術担当の紹介がありました。
今シーズンはラインアップ半数の5作を鑑賞。オポライスの「ルサルカ」が良かったなあ。
来シーズンの予告では、ついにネトレプコ、フローレス、カウフマンが不在。一方でディドナート、オポライス、ヨンチェーヴァやグリゴーロあたりにスポットが当たり、こちらも時の移ろいを感じさせる。ラドヴァノフスキーの「ノルマ」、オポライスとグリゴーロの「トスカ」、K・オハラの「コジ・ファン・トウッテ」が注目かな。ヨンチェヴァ、ベチャワでヴェルディの珍しい演目「ルイザ・ミラー」も興味あり。