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フェードル

フェードル  2017年4月

ギリシャ悲劇に材をとったジャン・ラシーヌの1677年初演作を、岩切正一郎訳、栗山民也の重厚な演出で。大竹しのぶがタイトロールにはまりまくり、見事な振幅の大きさで舞台を制圧する。年配客が圧倒的なBunkamuraシアターコクーン、中ほど上手寄りで1万800円。休憩無しの2時間強。

ケアード版「ハムレット」に続いて、古典×能舞台の趣き。シンプルな石造り風のセットに、金箔と照明の変化が美しい。終盤で喪服のフェードルが、下手「橋掛かり」からゆっくりゆっくり歩いてくる迫力、そしてラストの白い光が目に焼き付く。美術は二村周作、照明は服部基。

物語は先日の「エレクトラ」同様、人のむき出しの欲望が渦巻く昔話だ。アテネ王妃フェードルは義理の息子イッポリット(平岳大)に、抑えきれない恋心を告白するが、彼は拒絶、しかも密かに反逆者の娘アリシー(門脇麦)と思い合っている。そこへ死んだとばかり思っていた英雄・アテネ王テゼ(今井清隆)が帰還。かなうことのない愛と野心の錯綜へとなだれ込む。

太陽神の末裔というフェードルの造形には、人並み外れた感情の過剰さがくっきり。大竹は相変わらず緩急自在、そして大詰めでは歌うような声が圧倒的! そのフェードルを守りたい一心で、悲劇の引き金をひいてしまう乳母エノーヌ(キムラ緑子)が哀しい。途中からほどく髪が、破滅を予感させる。ミュージカル仕込みの今井は、声がよく響いて堂々。平、門脇は立ち姿がいいものの、色気は今ひとつかな。ほかにイッポリットの養育係テラメーヌに長身の谷田歩。

客席にはケラさん夫妻の姿も。

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松任谷由実 宇宙図書館2016-2017

三菱UFJニコスプレゼンツ 松任谷由実コンサートツアー宇宙図書館2016-2017  2017年4月

38枚目の最新アルバム「宇宙図書館」のツアーで大感激! 東京国際フォーラムホールA。当日入場時に座席がわかる方式だったけど、購入者限定先行抽選予約のおかげか、まさかの1F7列目。ユーミンが目の前で歌っちゃう贅沢さで、テンション上がりっぱなし。
お洒落で切ない構成は、まさに不思議図書館。本を開くたび、忘れていた感覚が甦るような、ストーリー性の強いショーでした~ 休憩無しの約2時間。以下ネタバレを含みます。

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不信

PARCO Production「不信~彼女が嘘をつく理由」  2017年4月

三谷幸喜の書き下ろし新作&演出のサスペンスコメディ。人間誰にでも裏があり、大人はそれを見ないふりして生きていく、という現実を、俳優4人だけで笑いたっぷり、かつシニカルに描く。張り巡らせた伏線が巧妙で、90年代後半の古畑シリーズを彷彿とさせ、嬉しくなった。贅沢に東京芸術劇場シアターイーストで9000円。休憩を挟み3時間弱。

細長い裸舞台を客席が挟む格好。裏か表かわからない構造が、テーマを暗示するようで、まず面白い。ワンシチュエーションのイメージを覆し、室内や庭、スーパー、学校などなどの場面を、スツール数個の横滑りでスピーディーに転換していく。意表をついた美術は「太陽」「スルース」などの土岐研一。

物語は夫婦2組のご近所付き合い。マンションに越してきた高校教師の段田安則と年の離れた妻・優香が、隣室に住む公務員・栗原英雄の妻・戸田恵子の盗癖に気づくところから、嘘の連鎖が始まる。人物に役名はないけど、キャラクターはくっきり。会話のテンポがよく、しつこい家の臭いとか、まさかの鮪のアタマ、飼い犬を持ち出すドタバタなど、ギャグもさすがの切れ味だ。2度目の大河ドラマを完走した作家が、伸び伸びチャレンジしている感じか。

完成度の高さは、手練れ揃いの俳優陣の力も大きい。なかでも戸田の、妙に凛とした壊れっぷりに凄みがある。優香はあっけらかんと相変わらずチャーミング。優香に振り回されちゃう段田も、善人風でいてダークな面をちらちらと。「真田丸」で謀略担当の叔父・信尹(のぶただ)を演じて注目された栗原は、初見だけど切なさ、哀しさがいい味だ。劇団四季出身なんですねえ。面白かったです!

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エレクトラ

りゅーとぴあプロデュース「エレクトラ」  2017年4月

ソポクレスらのギリシャ悲劇に基づく笹部博司りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)芸術監督の上演台本を、鵜山仁が演出。救いがたい憎しみの連鎖を、意外にあっけらかんと描く。これが古典というべきか。幅広い観客が集まった世田谷パブリックシアター、中央あたりで8500円。休憩を挟み3時間弱。

古代ギリシャ・アルゴスのアガメムノン(麿赤兒)はトロイア戦勝利のため、長女イビゲネイアを犠牲にする。それに傷ついた妻クリュタイメストラ(白石加代子)が夫を殺害。ファザコン気味の次女エレクトラ(高畑充希)は、母と愛人アイギストス(横田栄司)を激しく憎み、逃亡先から戻った愛する弟オレステス(村上虹郎)とともに復讐を果たす。トアスに逃れたオレステスは、実は生きのびて巫女となっていたイビゲネイア(中嶋朋子)と再会。姉弟たちは恨みの克服へと踏み出す。

一家が次々に悲劇をおこす愚かさは、観たばかりの「ハムレット」はもちろん、現代社会にも通じる。3面記事から国際紛争まで、人は2200年以上前からちっとも賢くなっていない。
一方で登場人物の極端な言動には、思わず笑いがもれるし、終盤で女神アテナ(白石が2役で)が強引に皆を諭しちゃうカタルシスは、なんだかお手軽な印象も。ギリシャ悲劇を観るのは、2015年に同じ鵜山仁演出「トロイラスとクレシダ」以来まだ2回目だけど、理屈以前の昔話の風情があるなあ。

照明を落とした丸いステージの中央に、前半は宮殿の柱、後半は女神像を置いただけのシンプルなセット。ベテランの白石、麿(意外に初見)、そして横田、中嶋がたっぷり存在感を示す。特に横田は、いつも通り声が朗々として愛嬌もあってさすがだ。
この手練れたちに、若い2人がぶつかる構図が魅力的。タイトロールの高畑は、膨大なセリフと激しい感情の振幅、飛んだり跳ねたり歌ったりと大活躍だ。なにしろ鳳蘭や大竹しのぶが演じてきた役だもんなあ。声音が暑苦しくなく、リズム感もあって強靭だけど、色気は薄いかも。
昨年末の「シブヤから遠く離れて」で注目した村上は、弱々しいながら透明感を発揮して目をひく。唯一常識的な末娘クリュソテミスには初舞台の二村紗和。作曲と下手での打楽器演奏は芳垣安洋、高良久美子。

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ハムレット

ハムレット  2017年4月

2015年に蜷川幸雄演出で観た悲劇を、「レ・ミゼラブル」などで知られ、英ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)で名誉アソシエイト・ディレクターも務めるジョン・ケアードの演出で。上演台本はケアードと今井麻緒子(松岡和子訳に基づく)。
シンプルなセットや衣装はすっかり能舞台だ。「人間のわからなさ」「人生の虚しさ」を描き出して、観る者の思考を強く喚起するセリフ劇。幅広く、落ち着いた演劇好きが集まった感じの東京芸術劇場プレイハウス、全体が把握できる2階席最前列で9000円。休憩を挟み3時間半。

装置は高度に抽象的だ。下手手前に向かって傾斜する四角いステージのみで、上手に俳優と尺八の藤原道山が座り、下手に客席。さまざまな文様や、四隅を照らすライティングと、藤原作曲・演奏の効果的な音楽でシーンを作っていくのが面白い。美術は「足跡姫」などの堀尾幸男、照明は中川隆一。

俳優は通常2、30人必要なところを、14人で全員が複数の役を演じる。劇中劇とあいまって、人間存在の2重性、不確かさを印象づける。
俳優陣は達者揃いだ。特に内野聖陽。母の不倫に苦悩し、力尽きる理想家ハムレットと、対照的に劇中では唯一サバイバルする誇り高いノルウェイ王子フォーティンブラスとを演じる。振幅の大きさがさすがだ。48歳だそうだけど、未熟にも、老成しているようにも見えちゃう。
語り部的役回りの親友ホレイショ―、北村有起哉はいつものように色気たっぷり。オーディションで決まったという決闘相手レアティーズの加藤和樹は立ち姿が映え、透明感ある恋人オフィーリアの貫地谷しほりは、運命の伝令オズリックもこなす。
敵役クローディアスと王の亡霊は曲者・國村隼。蜷川版では亡き平幹二朗の水ごりにびっくりしたけど、國村は普通人ゆえの開き直りに説得力がある。ほかに宰相ポローニアスに声のいい壌晴彦、墓掘りに村井國夫、母ガートルードに美しい浅野ゆう子、ハムレットの学友に山口馬木也と今拓哉。

休憩後の2幕冒頭、1幕のラストの動きを巻き戻す、なんて楽しい工夫も。シェイクスピアってつくづく、懐の深い入れ物なんだなあ。

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新宿末広亭四月上席

新宿末広亭 四月上席  2017年4月

ホール落語を聴いてきて、ついに初めて寄席に足を運んだ。雨交じりの新宿三丁目、けっこう若者が目立つ新宿末広亭・上席(かみせき)で3000円。オール自由席のなか、下手寄りの桟敷をチョイス。マイク無しで聴ける距離が新鮮だ。昼の部13時半ぐらいから観始めて、お寿司などをつまみつつ、入れ替え無しで夜の部21時までたっぷりと。

昼の部は代演が多かったが、寄席ならではのベテランを味わう。金原亭馬之助は相撲の階級などの漫談+お座敷芸風の百面相。金原亭伯楽は旬の「長屋の花見」。卵焼きのつもりの沢庵とかが馬鹿馬鹿しい。桂文楽「看板のピン」で中入りとなり、後半は柳家一九「湯屋番」、柳家小団治が五輪メダルのマクラから「ぜんざい公社」、トリで柳家小満ん「盃の殿様」。国元と吉原の間で盃をやり取りする。この中では桃月庵白酒「つる」が安定感抜群でした。

夜の部は開口一番の柳家花ん謝がいい。花緑さんの弟子の二つ目です。柳家東三楼のあと、柳家三三がけっこう自由な毒舌ぶりで、律儀な独演会の印象とはずいぶん違う。柳家喬太郎が得意のウルトラネタでいい弾けっぷり。柳亭市馬、鈴々舎馬風と豪華リレーだ。
中入りを挟んで新真打口上。林家ひろ木を祝い、喬太郎の司会で小朝、馬風、師匠の木久扇が挨拶し、市馬さんが相撲甚句を朗々と。続いて小朝、木久扇、柳家さん喬、トリはひろ木。真打というには、おぼつかない感じは否めないけど、津軽三味線も披露して一生懸命です。

急がないけど、するする進んでいくテンポ、力の抜けた感じ、そしてテレビではお目にかからない多彩な色物が楽しい。この日は松旭斉美登・美智のキャンデーを撒く奇術、林家ぺーの漫談、カンジャママイムのマイム、楽一の紙切り(セクシーポーズとか)、すず風にゃん子・金魚の漫才、翁家社中の太神楽などでした。あ~、堪能した。

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夜桜能「絃上」「仏師」「西行桜」

第25回奉納夜桜能 第二夜  2017年4月

まさに満開の桜と月のもと、薪能を鑑賞。風が吹くとすごく寒かったけど、風情は満点だ。靖国神社、由緒ある木造の能楽堂前にパイプ椅子を並べた席の、下手寄り前の方で1万1500円。休憩を挟み2時間弱。フジテレビと社団法人夜桜能(松元崇会長)主催。

18:40から経営者らが務める火入れ式があり、まず舞囃子「絃上(けんじょう)」。中国伝来の琵琶にまつわる伝説を描いたそうで、梅若長左衛門が直面(ひためん)で、平安文化を開花させた村上天皇の霊となり、爽やかに早舞をみせる。
続いて狂言の「仏師」。仏師を探し、都で呼ばわりながら歩く田舎の者(野村萬斎)に、お馴染みスッパ(野村万作)が、なんと自ら仏像になりすまして、お代をせしめようとする。田舎者の修正要求に、スッパがあたふた応えて大騒ぎ。正統ドタバタコメディだなあ。

休憩で参集殿に避難して風をよけ、甘酒を買って少し暖まる。 後半はシチュエーションにぴったり、世阿弥が和歌を元につくった能「西行桜」だ。西山にある西行庵では老木の桜が満開。西行法師(森常好)は煩わしいと、能力(のうりき=寺男、声がいい深田博治)に花見禁制を言いつけるものの、はるばる訪ねてきた花見の人々を受け入れ、桜のために暮らしを乱されたと詠む。すると夢に桜の精(梅若玄祥)が現れ、桜に咎はない、と諭し、花の名所をたたえて静かに「太鼓序の舞」を舞う。
昼の賑やかさから一転、夜が更けて、古木に見立てた作り物から、翁の面をつけたシテが登場する。白と金の衣装が美しく、悠々とした雰囲気。杖を持つ演出でした。

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