足跡姫
NODA・MAP第21回公演「足跡姫」~時代錯誤冬幽霊(ときあやまってふゆのゆうれい)~ 2017年3月
作・演出野田秀樹。2012年にみとった盟友18代目中村勘三郎へのオマージュと宣言し、肉体の芸術が死によって消えてしまう切なさ、それでも滅びない情熱=足跡と舞台人の覚悟を、実力派キャストでストレートに歌いあげた。
近作に目立った政治メッセージは影をひそめ、掛け言葉やリズミカルな足拍子など、遊びがぎっしり。イメージの奔流、そしてほとんど反則技の涙で押し切っちゃう。潔いなあ。男性客が目立つ東京芸術劇場プレイハウス、下手バルコニートップのいい席で9800円。休憩を挟み3時間弱。
江戸時代のどこか。踊り子の三、四代目出雲阿国(宮沢りえ)と、弟で劇作家となる淋しがり屋サルワカ(妻夫木聡)は禁制の女歌舞伎を続けるため、将軍御前での上演を目指す。
勘三郎を体現する宮沢が、いつもの透明感で舞台を強力に牽引。阿国の色気と足跡姫の野性の対比が際立つし、ダンスも進化(振付は「逆鱗」などの井手茂太)。対する野田の役回りとなる妻夫木は、声がよく通って、頼りなさと明るさが魅力的。2007年「キル」から「南へ」「エッグ」と、ときに戯曲に押され気味かと思ってたけど、確実に成長してますねえ。
サルワカを助ける売れない幽霊小説家(古田新太、得意の殺陣も少し)、実は幕府転覆を企てた由井正雪の亡霊や、正雪配下の戯けもの(佐藤隆太)、正雪の遺体を追う腑分けもの(野田秀樹)、座長・万歳三唱太夫(池谷のぶえ)と妹分・踊り子ヤワハダ(鈴木杏)がからむ。複雑だけど、皆さすがの安定感で混乱はない。伊達の十役人を、野田版やコクーン歌舞伎、平成中村座の参謀だった中村扇雀が演じて、コミカルに舞台回しを務める。
ベースになるのは2月の歌舞伎座で予習した、寛永元年(1624年)に江戸歌舞伎を開いた初代勘三郎の物語。盆と花道を備えたシンプルなセットに、修羅能「田村」からすっぽん、揚幕の金輪まで、歌舞伎アイテムをこれでもかと散りばめていて楽しい。さらにはカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲! シネマ歌舞伎で観た「野田版研辰の討たれ」を想起させ、妻夫木の直球のセリフに問答無用の慟哭だ。すべてが虚構に過ぎない舞台を、名優とともに体験できる幸せ。美術はお馴染み堀尾幸男、ドキッとする薄物など衣装はひびのこづえ、作調は田中傳左衛門で囃子も。
分厚いパンフレットで、野田さんが綴る勘三郎の「足跡」のエピソードが素晴らしい。戯曲の載った「新潮」も買っちゃった。
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