METライブビューイング「ルサルカ」
METライブビューイング2016-17第6作「ルサルカ」 2017年3月
2014年にやはりライブビューイングで、ロマンチックなルネ・フレミング版を鑑賞したドヴォルザークの妖精オペラを、新制作で。サー・マーク・エルダー指揮。タイトロール、クリスティーヌ・オポライス(ラトヴィアのソプラノ)の鋭い眼光のせいか、前回とは違って人間が抱える業が印象的な、大人のファンタジーになっていて驚く。2月25日上演。東劇のやや後方、休憩2回を挟み4時間。
ハープが際立つ、流麗で親しみやすい旋律に加えて、切れ目ない朗唱や妖精3人娘など、ワーグナー風なんだなあ、と認識。じっくり聴くと、互いにうわべの美しさに惹かれて、内面をぶつけ合わないままこじれてしまう、愚かな男女の物語に思える。
色が美しいステージをオポライスが制圧。1幕の名アリア「月に寄せる歌」こそ幻想的だけど、全般に声が強い。3幕重唱「口づけして安らぎを」で、王子に死のキスを与えるあたり、堂々たるファムファタールです。なにしろ男のコートを羽織って去っていくんだものなあ。対する王子ブランドン・ジョヴァノヴィッチ(米国の若手テノール)は柔らかく、ルサルカの冷淡さに1週間で飽きちゃったり、情けなさ満載だ。
外国の王女はワーグナー歌いのカタリーナ・ダライマン(スウェーデンのソプラノ)。2幕でさんざん王子に迫ったのに、さっと身を翻すプライドの高さがいい。カエル手の父は、安定のエリック・オーウェンズ(フィラデルフィア生まれのバスバリトン)。魔法使いイェジババのジェイミー・バートン(ジョージア出身のメゾ)が「ナブッコ」の妹姫から一転、いい弾けっぷりだ。スペードの女王風の、癖の強い役を楽しんでいる感じで、カーテンコールの拍手も多かった。
見ごたえのある演出は、2011年に「ルチア」を観たメアリー・ジマーマン。なにより場面ごとの色使いが、湖は暗い青と緑、視界が開ける平原は黄、城は強烈な赤とオレンジ、破滅の森はモノトーンと鮮やかだ。バートンが引き連れる半人のモンスターたちや、城に現れたオーウェンズの背景に降り注ぐ水、森に浮かぶ月などは童話風。一方で、城でのオポライスの着替えシーンから仮面群舞に至るあたりは、非常に官能的で目を見張らされる。
案内役はお馴染みポレンザーニ。特典映像でゲルブ総裁自ら、METリンカーンセンター移転50周年記念ドキュメンタリーを紹介していて、往年のスター、レオンタイン・プライスの快活なインタビューが、ちょっと観ただけでも感動的でした~
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