ルチア
ルチア 2017年3月
新国立劇場2016/2017シーズンの注目作、ガエターノ・ドニゼッティの19世紀ロマン主義「ルチア」新制作に足を運んだ。美しい旋律、新国立初登場の粒ぞろいの歌手たちと秀逸な演出で、完成度の高さに満足。指揮はミラノ出身のジャンパオロ・ビザンティで、エネルギッシュだ。東フィル。よく入ったオペラパレスの上手寄りで2万4300円。休憩2回で3時間強と、テンポがいい。
物語はスコットランド版ロミジュリで、家の対立ゆえに恋を引き裂かれたルチアが、政略結婚した新郎を殺し、狂乱のうちに命を落とす。2012年に「歌う女優」ナタリー・デセイのコンサート形式で聴いた感動を、鮮明に覚えている演目だ。
今回も歌手が高水準で、波動がダイレクトに伝わってくる。ライブならではの経験。ピカイチは兄エンリーコのアルトゥール・ルチンスキー(ワルシャワ生まれのバリトン)かな。冒頭の「お前は残酷で」から朗々とした声で、2幕フィナーレの6重唱では内面の苦悩を表現。
タイトロールの美形オルガ・ペレチャッコ=マリオッティ(サンクト出身のソプラノ)も、METなどで活躍中とあって、ハイDの高音や、「狂乱の場」などの超絶コロラトゥーラを存分に聴かせつつ、繊細。りりしい乗馬服姿からの着替えシーンは、ドキドキさせる。恋人エドガルドのイスマエル・ジョルディ(スペインのテノール)は声が甘く、大詰めのゆったりした「祖先の墓よ」で泣かせる。ほかに災難な結婚相手アルトゥーロに小原啓楼(テノール)、教育係ライモンドにお馴染み妻屋秀和(バス)、お付きのアリーサに小林由佳(メゾ)。
モンテカルロ歌劇場と共同制作のプロダクションが、また詩情豊かで美しい。モナコ生まれの歌劇場総裁ジャン=ルイ・グリンダが演出しており、色彩を抑えて、人間ドラマと対峙する厳しい自然を強調。岸壁で砕ける波や鳥影をプロジェクションマッピングで表現し、全くわざとらしくない。横からの照明の効果で陰影が濃く、人物はまるでレンブラントの絵画のようだ。
抑制の効いたトーンだけに、狂乱の場でルチアが新郎の首を、なんと歌舞伎ばりに槍に刺して出てきちゃうシーンが、実に衝撃的。花嫁のベールは黒だし。奏者サシャ・レッケルトがグラスハーモニカを発展させたというヴェロフォンが、神秘的な音色を添える。ほかにもルチアの心象風景の岩山が登場したり、ラストではエドガルドがルチアの遺体を抱いて断崖を登ったりと、ドラマティックな仕掛けがたっぷり。素晴らしかった~