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炎 アンサンディ

炎 アンサンディ  2017年3月

レバノン出身、カナダ、フランスで活動するワジディ・ムワワドの2003年の戯曲を、早大教授の藤井慎太郎が翻訳、文学座の上村聡史が演出。2014年に数々の演劇賞を受けた舞台の再演を、最終日滑り込みで観ることができた。
人はどこまで残酷になれるのか、沈黙を貫くということ、そして約束を果たすこととは。初演のスタッフ、キャストが集結し、人間の尊厳を問う重いストーリー、秀逸な演出、演技が激しく心を揺さぶる。年配の芝居好きが集まったシアタートラムの下手中段で6800円。休憩を挟み、緊迫の3時間半だ。

5年も心を閉ざしていた中東系カナダ女性ナワル(麻実れい)が、世を去った。公証人エルミル(中嶋しゅう)は双子の子供、数学者ジャンヌ(文学座の栗田桃子)とボクサーのシモン(小柳友)に謎の遺言を伝える。「あなたたちの父と兄を探しだし、手紙を届けてほしい」と。姉弟は戸惑い反発しながらも、封印された母の過去をたどり始める。
中東の内戦を舞台にしているが、世界の不確実性が高まる現在、憎しみの連鎖の不条理が鮮烈に迫ってくる。目を背けたくなる過酷さに対し、戯曲は決して声高に理屈を叫ばない。スリリングな謎解きでぐいぐい引っ張り、衝撃の真実が明らかになってからは、一人ひとりの愛する力を信じる、静かで強靭なメッセージへとなだれ込む。

俳優陣が頼もしい。なんといっても、ナワルの恋する少女時代から闘う40代、深い悔恨を示す60代までを演じ切る麻実が圧巻。凛としたたたずまいと深い声で、説得力抜群だ。また岡本健一も見事で、ナワルの純な恋人や、ロックを歌いながら殺戮を繰り返しちゃうキレキレの狙撃兵ら、雰囲気の違うキーマン数役をこなす。
劇中で成長していく栗田、小柳に切なさがあるし、お馴染みの中嶋は飄々と温かい雰囲気がいい。ナワルの親友サウダなどの那須佐代子(青年座)、元看護士アントワーヌなどの中村彰男(文学座)も達者。特に小柳はチャーミングで、「マーキュリー・ファー」「BENT」と、実にいい仕事を選んでいるなあ。

演出も洗練されており、時空を超えて人物が交錯する複雑な設定を、小ぶりの椅子、大きな布などのシンプルなセットで、手際よく提示する。意表をついて人物が出入りする小さい穴や、雨のなか家族を包むシートの存在が印象的だ。美術は「豚小屋」などの長田佳代子。

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足跡姫

NODA・MAP第21回公演「足跡姫」~時代錯誤冬幽霊(ときあやまってふゆのゆうれい)~  2017年3月

作・演出野田秀樹。2012年にみとった盟友18代目中村勘三郎へのオマージュと宣言し、肉体の芸術が死によって消える切なさ、それでも滅びない情熱=足跡、舞台人の覚悟を、実力派キャストでストレートに歌いあげた。
近作に目立った政治メッセージは影をひそめ、掛け言葉やリズミカルな足拍子など、遊びがぎっしり。イメージの奔流、そしてほとんど反則技の涙で押し切っちゃう。潔いなあ。男性客が目立つ東京芸術劇場プレイハウス、下手バルコニートップのいい席で9800円。休憩を挟み3時間弱。

江戸時代のどこか。踊り子の三、四代目出雲阿国(宮沢りえ)と、弟で劇作家となる淋しがり屋サルワカ(妻夫木聡)は禁制の女歌舞伎を続けるため、将軍御前での上演を目指す。
勘三郎を体現する宮沢が、いつもの透明感で舞台を強力に牽引。阿国の色気と足跡姫の野性の対比が際立つし、ダンスも進化(振付は「逆鱗」などの井手茂太)。対する野田の役回りとなる妻夫木は、声が通って、頼りなさと明るさがいい。2007年「キル」から「南へ」「エッグ」と、戯曲に押され気味かと思ってたけど、確実に成長してますねえ。
サルワカを助ける売れない幽霊小説家(古田新太、得意の殺陣も少し)、実は幕府転覆を企てた由井正雪の亡霊や、正雪配下の戯けもの(佐藤隆太)、正雪の遺体を追う腑分けもの(野田秀樹)、座長・万歳三唱太夫(池谷のぶえ)と妹分・踊り子ヤワハダ(鈴木杏)が複雑にからんでいく。皆さすがの安定感だ。伊達の十役人を、野田版やコクーン歌舞伎、平成中村座の参謀だった中村扇雀が演じ、コミカルに舞台回しを務める。

ベースになるのは2月の歌舞伎座で予習した、寛永元年(1624年)に江戸歌舞伎を開いた初代勘三郎の物語。盆と花道を備えたシンプルなセットに、修羅能「田村」からすっぽん、揚幕の金輪まで、歌舞伎っぽさを散りばめていて楽しい。さらにはカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲! シネマ歌舞伎で観た「野田版研辰の討たれ」を思わせる仕掛けは、問答無用の慟哭だ。すべてが虚構である舞台を、共に体験できる幸せ。美術はお馴染み堀尾幸男、ドキッとする薄物など衣装はひびのこづえ、作調は田中傳左衛門で囃子も。
分厚いパンフレットで、野田さんが綴る勘三郎の足跡のエピソードが素晴らしい。戯曲の載った「新潮」も買っちゃった。

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