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文楽「平家女護島」「曽根崎心中」「冥途の飛脚」

国立劇場開場50周年記念 第一九八回文楽公演  2017年2月

2017年最初の東京公演は開場50周年の続きで近松名作集! 近代劇の扉を開いた日本のシェイクスピア、近松作品の3本立てです。高い音楽性と、色っぽい人形を楽しむ。国立劇場小劇場で1部6000円。

まず初日に見どころ解説をきいてから、後ろのほうの席で第1部、第2部を鑑賞。1部は近松のなかでも、現存作が少ないという時代物から、「平家女護島(へいけにょごのしま)」だ。歌舞伎「俊寛」は、2010年に今は亡き勘三郎で観て、うらぶれた造形が強烈だった。今回は1986年復活の初段から、という意欲的な上演で、清盛との因縁や、俊寛が絶海の孤島に残る背景、そして時代物はファンタジー、実は女性が主役、という意味がよくわかった。
その珍しい六波羅の段は、安定の靖太夫、錦糸。京に残された俊寛の美しい妻あづまや(クールに一輔)が、権力者・清盛(横暴ぶりがスケール大きい幸助)に迫られて自害する悲劇。甥の武将・教経(玉佳)は、清盛になんとあづまやの首を突きつけて諌めちゃう。無茶なんだけど、迫力は満点。
ランチ休憩を挟んで、歌舞伎でお馴染み、鬼界が島の段。襲名を控えた英太夫、清介が三味線無しの「謡ガカリ」から重々しくスタート。過酷な孤島(今の鹿児島県硫黄島)暮らしで、俊寛(和生)は切継(パッチワーク)を着て、足はガリガリだ。流人仲間・成経(勘弥)と、薩摩弁まじりのセクシーな海女・千鳥(さすがいじらしさが際立つ簑助さん。ちょっと足は辛そう)の祝言が微笑ましい。赦免船到着からは期待、俊寛が帰れるかのハラハラ、取り残される千鳥のクドキと、変化に富む展開だ。俊寛は妻の死を知ったことで、上使を刺してまで若い夫婦の犠牲になり、残留を決断する。だが、いざ船を見送るときには「思い切っても凡夫心!」と、激しい孤独、未練に襲われる。人間存在の弱さ、運命の冷徹。深いですねえ。セットが回転して、切り立った崖を見せる演出が効果的。
舟路の道行より敷名の浦の段は一転、スペクタクルだ。充実の咲甫太夫、藤蔵以下5丁7枚で。赦免船が鞆の浦(福山)あたりに差し掛かり、俊寛を慕う怪力・有王丸(頼もしい玉勢)が千鳥に付きそう。厳島神社に向かう清盛が、後白河法皇を海に突き落とし、千鳥(簑紫郎)が颯爽と水連の技で救うものの、清盛は熊手!で千鳥を捕らえて踏み殺しちゃうという大暴れ。千鳥の怨霊が高熱で苦しむ清盛の末路を予感させて、幕となりました。珍しい段にはいろいろ工夫の余地があって面白そうだ。

第二部は、世話物というジャンルを作った「お初徳兵衛 曽根崎心中」。文楽で3回、歌舞伎で2回観ている定番だ。徳兵衛に玉男、お初に勘十郎と、当代随一のコンビで。特に勘十郎さんは情緒があって、艶めかしいなあ。導入の生玉社前の段は、明快に文字久太夫、宗助。お初がすでに死を予感しているところが凄い。
休憩後に眼目の天満屋の段を、唯一の切り場語り、咲太夫と燕三。声量は万全でない印象だけど、きめ細やかだ。プログラムによると国立劇場の文楽公演は、なんと咲太夫の襲名披露で幕を開けたとか。お初の大胆さ、九平次と床下の徳兵衛双方に語りかける立体的な緊迫感、小さな小さな白い足の色気。2人手に手を取って抜け出すサスペンスも。
続いて大詰め天神森の段。荻生徂徠が賞賛したという「この世の名残、夜も名残」に始まる道行を、津駒太夫、咲甫太夫らで。三味線の寛治、清志郎、寛太郎らが盛り上げました~ 徳兵衛がお初に刃を突きつけて幕。リアルでスピード感ある運び。
この日は初日とあってロビーで迎える技芸員さんはスーツ姿、客席には引退した嶋大夫さんの姿も。

1週間後に、残る第3部を鑑賞。2012年に和生、勘十郎で観た「梅川忠兵衛 冥途の飛脚」だ。横領事件をテーマに、人間の複雑さ、愚かさをえぐる世話物の傑作。
淡路町の段は、松香太夫の代演の咲甫太夫から、リズム感のある呂勢太夫と、華やかなリレー。飛脚・亀屋の養子で、お調子者の忠兵衛(味のある玉男)は、遊女梅川に入れあげ、友人・八右衛門(簑二郎)に渡す50両を使い込むが、しっかり者の養母・妙閑(文昇)の手前、鬢水入れを渡して誤魔化す。男気のある八右衛門は事情を飲み込み、いい加減な受取を書く。
背景が上方にはけて、灯りのともる町家を遠くに見る、夜の西横堀。忠兵衛が蔵屋敷に届ける300両を懐に、北の堂島か、南の廓かで惑う。理性を失う羽織落し。野良犬(勘介)が上手い!

30分の休憩を挟んでいよいよ封印切の段を、切迫感ある千歳太夫・富助で。冒頭は茶屋で女郎たちが拳遊び。近松の浄瑠璃「三世相」を語る禿は、手が三味線にぴったりだ。訪れた八右衛門が友を思って「廓に近寄らせるな」と話す。それを立ち聞きした忠兵衛は逆上。梅川(清十郎さん、ちょっと辛そうかな)の懸命のクドキも虚しく、ついに公金に手を付けちゃう。じゃらじゃら小判の投げ合いがアナーキー。八右衛門が腕組みするシーンは左が一服。
続いて道行相合かごを、文字久太夫以下5丁5枚が1970年上演のバージョンで。小住太夫の声がよく通る。シーンは主役2人がすっきりと、野道を故郷大和に向かう。改作「傾城恋飛脚」の新口村への導入部分だが、歌舞伎バージョンと比べ衣装などが侘しくてリアル。駕籠を降り、雪が降りしきるなか、一枚の羽織を譲り合ったり、案山子の笠を拝借したりで、幕切れとなりました。

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