« 2017年1月 | トップページ | 2017年3月 »

METライブビューイング「ロメオとジュリエット」

METライブビューイング2016-17第5作「ロメオとジュリエット」  2017年2月

いわずとしれたシェイクスピア劇を、「ファウスト」のシャルル・グノーがオペラ化、パリ万博に合わせて1967年に初演した作品とのこと。実力容姿兼ね備えたタイトロール2人が甘い恋を存分に。ただ曲調は、まったりした印象だったかな。聴衆のブラボーが多い1月21日上演。割と空席がある東劇中央あたり、休憩1回で3時間15分。

NYで観劇できて、素晴らしかった2015年「真珠採り」と同じ、指揮ジャナンドレア・ノセダ、ジュリエットにドイツ出身のコロラトゥーラ・ソプラノの女王、ディアナ・ダムラウという安定コンビだ。ダムラウは1幕「私は夢に生きたい」から技巧ばりばり、後半で強い女性に変貌してからは迫力も十分。インタビューで「ヴィオレッタ(椿姫)ごめんなさい、こっちの方が好き」と語ってましたね。対するロメオも美形ヴィットーリオ・グリゴーロ(イタリアのテノール)で、2幕「昇れ、太陽よ」などが甘美かつ繊細。幕切れ「愛の2重唱」まで、相性のいい2人が舞台を支配する。
主役に焦点が絞られ、脇はあまり目立たない演目だけど、マキューシオのエリオット・マドール(METオーディション出身、カナダのバリトン)に色気があって楽しみだ。ローラン神父のミハイル・ペトレンコ(ロシアのバス)はこのロマンチックな内容には存在感があり過ぎかも。ほかにズボン役・小姓ステファーノにヴィルジニー・ヴェレーズ(メゾ)。

「王様と私」のトニー賞受賞者で、「オリー伯爵」「愛の妙薬」を観たバートレット・シャーによる新演出は、18世紀半ばの設定だそうで、暗い広場のワンセットを照明などで転換していく。巨大な1枚布が広いベッドから結婚式のドレスへ転換していく手法がお洒落だ。
動きが激しく、ダムラウは駆けまわるし、グリゴーロも壁によじ登ったり。衣装は古風で美しい。それでもやや平板な印象が否めなかったのは、たまたま蜷川幸雄や藤田貴大の鮮烈な演劇で観てきたストーリーだからかなあ。カーテンコールでグリゴーロがダムラウをお姫様抱っこして、盛り上がってました~

司会は2010年ロイヤルオペラ来日公演の「椿姫」で、なんと代役の代役でピンチを救った可愛いアイリーン・ペレス。活躍してるんですねえ。懐かしいな。

武部聡志ORIGINAL AWARD SHOW~Happy60~

武部聡志ORIGINAL AWARD SHOW~Happy60~   2017年2月

作・編曲家、プロデューサー武部聡志の還暦を祝うイベントに足を運んでみた。なんと83年から公演の音楽監督を務める松任谷由実や、久保田利伸をはじめとして、超豪華メンバーが次々に名曲を歌ってとっても贅沢! 温かいお祝いムードも気持ちが良かった。
総合演出は松任谷正隆。幅広い年齢層が集まった東京国際フォーラム、ホールAの2F、上手寄りで1万3000円。2Fでものっけからスタンディングオベーションが多くて驚く。休憩無しのたっぷり3時間半。

舞台前の丸テーブルに出演者が座り、恵俊彰が司会する音楽祭形式。2巨頭のほかにも超巧い平井堅、グルーブがあるスガシカオ、演技力抜群の斉藤由貴(編曲家としての出世作が85年の「卒業」)や一青窈(2000年代にプロデュース)、いつもながら楽しそうなゴスペラーズ、伸び伸びmiwaらが、武部さんゆかりの曲を披露した。デビューから面倒をみてきた才能あるアーティストが、たくさんいるんですねえ。さらにプレゼンター(出演者の紹介役)としてユーモアたっぷりの小山薫堂などなども登場。
武部さんがミュージシャンを目指した原点だというスティービー・ワンダーのメドレーは1976年「キー・オブ・ライフ」からで、私自身さんざん聴いたアルバムだけに大感激。特に久保田利伸の「AnotherStar」が格好いい! そしてプロへの道を開いた恩人だというムッシュかまやつの、従妹・森山良子が届けた「ぐるぐる」だらけの不思議な手紙を読んでから、ムッシュメドレーへ。本編はバンマス武部、ボーカルがスガシカオのkokuaが締めました。
幅広い活躍の背景にはスタイリッシュなブラックミュージックの感覚と、3歳からクラシックピアノを弾き、音大に通った確かな職人的技術があるんだなあ、と納得。

アンコールもたっぷりで、武部さんのピアノを囲んで出演陣がノンストップで歌い継ぐ。久保田利伸が大サービスの「Missing」、オオトリのユーミンは2013年40周年コンサートでも、ふたりによるアンコールだった「卒業写真」という、問答無用の惜しみない選曲。内容が濃くて素晴らしかったです~

と、大満足してたら、なんとコンサート2日後に、ムッシュの訃報が届いてしまい、しんみりしました… 「ゴロワーズを吸ったことがあるかい」、格好良かったなあ。

歌舞伎「猿若江戸の初櫓」「大商蛭子島」「四千両小判梅葉」「扇獅子」

江戸歌舞伎三百九十年 猿若祭二月大歌舞伎 昼の部  2017年2月

夜の部の中村勘太郎、長三郎兄弟初舞台が話題の歌舞伎座。そちらはテレビドキュメンタリーで観ることにして、あえて昼の部に足を運んでみた。東京マラソンとかちあった千秋楽は、前の方に空席があったけど、江戸歌舞伎の歴史を感じる珍しい演目が並んで面白かった。歌舞伎座中央前の方のいい席で1万8000円。休憩3回を挟み5時間弱。

幕開けは1987年江戸歌舞伎360年記念の猿若祭時に初演した、田中青滋作の長唄・筝曲舞踊「猿若江戸の初櫓(はつやぐら)」。寛永元年(1624年)、中橋(現在の日本橋人形町3丁目)に勘三郎が猿若座を創設したエピソードを描いた、めでたいフィクションだ。
新年に上方からくだってきた猿若(勘九郎)と阿国(七之助)が、木材商・福富屋(鴈治郎)を助けて荷車を曳く。感心した奉行・板倉(彌十郎)が所領に芝居小屋を建てることを赦し、福富屋が援助することに。喜んで、まず阿国が厳粛に、続いて朱色の綱紐を巻いた猿若が軽妙に踊る。
朱色を基調に、銀杏をくわえた鶴の紋の櫓が登場して、華やか。同時に勘九郎持ち前の愛嬌とリズム感に、江戸歌舞伎開祖のプライド、さらには一座の者やスポンサーを上手にのせちゃうプロデューサーとしての魅力が重なって、実に感慨深い。若手の児太郎、橋之助や鶴松が参加。

早めのランチ休憩の後、「大商蛭子島(おおあきないひるがこじま)」。洒落本や俳句といった文化が花開いた天明4年(1784年)、中村座顔見世で初演し、1962年に復活したという、古風でおおらかな狂言だ。国立劇場での上演を挟んで今回がなんと48年ぶり。
源平の設定だけど、第一場・正木幸左衛門内の場の前半は、まるきり江戸庶民のエロチックコメディ。伊豆に配流中の頼朝(松緑)は手習の師匠に化け、やたらと弟子(芝のぶら)にちょっかいを出す。頼朝を慕う北条時政の娘・政子(七之助)とお付きの清滝(児太郎)が訪れ、頼朝との濡れ場へ。妻・辰姫(時蔵)は時政のバックアップを受けるため身を引くが、長唄「黒髪」にのせて切ない嫉妬を語る。小道具で父・義朝の髑髏や北条の宝・三鱗が登場。
後半から時代に転じ、文覚上人(目つきが巧い勘九郎)が後白河院の平家追討の院宣を届け、ぶっ返りで白紫衣装となった頼朝も決起を表明。下男に化けていた敵方武将(亀寿)や、義朝の仇(團蔵)を討つ。
続く第二場・源氏旗揚げの場で、雄大な富士をバックに、源氏の白旗を掲げて出陣していく。幕切れは巨大な朝日までのぼってまたまためでたい。若手は男女蔵の長男・男寅や福之助らが参加。

休憩を挟んで、黙阿弥晩年、明治18年(1885年)の初演作「四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)」。安政2年(1855年)に起きた御金蔵破りを素材に、牢の風習などをリアルに描き、現代劇への橋渡しに位置する。菊五郎、梅玉の古風な存在感が大きい。
序幕第一場・四谷見附外の場は夜のお堀端。おでん屋台の亭主でスケールの大きい富蔵(菊五郎)が、小悪党の藤十郎(梅玉)を御金蔵破りに誘う。第二場・牛込寺門前藤岡内の場で2人は緊迫しつつも、盗んだ金を床下に埋めることにする。二幕目・中仙道熊谷土手の場は雪のなか、捕われて唐丸籠で江戸へ向かう富蔵が、女房(時蔵)、舅(東蔵)、幼い娘と別れる愁嘆場。
三幕目第一場・伝馬町西大牢の場でも富蔵が大物ぶりを発揮。蔓と呼ばれる金品の扱いや、きめ板の仕置き、紙で作った数珠などのしきたり、重ねた畳に座る牢名主(左團次)、隅の隠居(歌六)、囚人たち(亀三郎、亀寿)、新入り(松緑、菊之助)らの生態が描かれる。ユニークだなあ。第二場・牢屋敷言渡しの場で、役人(秀調、松江)が重々しく刑を告げ、囚人たちの題目をバックに菱形の縄を受けた富蔵、藤十郎が、遠くをみる立ち姿で幕となりました。

短い休憩の後、打ち出しは明るく清元舞踊「扇獅子」。鳶頭・梅玉と芸者・雀右衛門がいなせに日本橋の四季を描く。獅子頭に見立てた扇、橋と鮮やかな牡丹の屋台というド派手なセットが楽しかったです。

20170226_022

20170226_047

20170226_045

陥没

シアターコクーン・オンレパートリー2017 キューブ20th.2017 陥没  2017年2月

作・演出ケラリーノ・サンドロヴィッチ。2009年「東京月光魔曲」、2010年「黴菌」に続く昭和3部作の最終作ということだけど、従来の妖しさ、毒気はすっかり影をひそめ、ハートウォーミングなほどの人間喜劇だ。五輪の前、歴史上まれな高度成長という時代の明るさ、余計なことを考えずにすんだ日常へのオマージュということか。豪華キャストが皆、非常にはまり役だし、照明などが高水準で、まとまりがある。客層が幅広いコクーン、上手寄り後ろの方で1万円。休憩を挟み3時間半だが、長さは感じない。

昭和38年、東京。瞳(小池栄子)は亡き父が遺したホテルのプレオープンで、前夫・是晴(井上芳雄)と若い結(松岡茉優)の婚約披露パーティーを引き受けるが、浮浪者の一団が部屋に入り込む騒ぎに。ダメ夫・真(生瀬勝久)を含む、じれったい4角関係を軸に、是晴の母(安定感の犬山イヌコ)や弟(瀬戸康史)、結の恩師(色っぽい山西惇)らが出入りし、互いを思う大人の群像劇が、小津安二郎ばりにしみじみさせる。さらに瞳の父(山崎一)の亡霊が是晴との復縁を画策して「魔法」を使うあたりは、「奥さまは魔女」のようで、ベタなほどのファンタジックコメディだ。

俳優陣はそれぞれ持ち味を発揮。背筋の伸びた小池は凛として健気、井上はだらしないけど善人。ピュアな瀬戸が達者で、影がある松岡と好対照を見せる。何やら画策する生瀬は胡散臭く、瀬戸についてきた長髪男や金貸しの山内圭哉はもっと胡散臭い。ホテルスタッフで小池の親友・緒川たまきの軽妙なリズム感が際立ち、瞳の幼馴染の趣里、そのマネージャー・近藤公園も安定。美しいマジシャン高橋惠子が、貫禄で全体を引き締める。神様の声はお馴染み峯村リエと三宅弘城。

ホテルロビーの3階建てワンセットと、背景で揺れる色づいた樹木がお洒落(美術・BOKETA)。照明(関口裕二)も冒頭・回想シーンのモノクロ風や、白塗り亡霊へのスポットが巧く、オープニングクレジットの客席横まで使ったプロジェクションマッピングも美しい(映像・上田大樹)。
テニスとか新幹線といった昭和なキーワード、そして家具調の東芝!製テレビから電器屋が謎のミイラを取り出すエピソードやらが楽しい。それにしてもタイトルの意味は何だったんだろうなあ…

20170225_002

お勢登場

お勢登場  2017年2月

作・演出倉持裕。やや年齢層若めのシアタートラム、上手寄り中段で6800円。休憩無しの2時間半。
江戸川乱歩の大正後期から昭和初期の短編8本を、自在に構成。ナンセンスコメディやテレビコントも書く作家だけど、今作は奇妙な味わいと、謎の女・お勢(黒木華がはまり役)を軸にして、バラバラの物語をパズルのようにつないじゃう技巧が際立つ。
セット1F部分に並べた3セットを前後に出し入れし、2F部分や紗幕、映像も駆使。一つひとつシチュエーションの意味を細かく説明しないものの、混乱はないし、むしろテンポがよくて心地いい。複雑な美術は「シブヤから遠く離れて」などでお馴染みの二村周作。

盛り込まれたエピソードは、乱歩デビュー作である「二銭銅貨」の暗号や、明智が初登場した「D坂の殺人事件」の密室という「本格」要素もさることながら、いかにも乱歩らしい人間心理の歪み、倒錯がたっぷり。病身の夫を衝動的に長持に閉じこめる「お勢登場」、生々し過ぎる絵が題材の「押絵と旅する男」、わざわざ変装して自分の妻と浮気しちゃう「一人二役」…。観る者をぞくっとさせる。凌雲閣、花屋敷の木馬、見世物小屋の覗きからくりといった、乱歩の時代を感じさせるキッチュな道具立ても、怪しさを引き立てる。

とはいえ、コケ脅しのエログロはない。トントンと舞台転換していくせいか、悪女だけど透明感のある黒木の持ち味なのか。乱歩はお勢を明智のライバルとしても考えていたとか。
笑いも随所に散りばめられていて、突如高らかにスタイリスティックスを吹く梶原善や、警官役までこなしちゃうお馴染み片桐はいりが、実に達者だ。
「マーキュリー・ファー」のナズが印象的だった長身の水田航生は、探偵役などで爽やか。ほかに寺十吾(じつなし・さとる)、千葉雅子、川口覚らがくるくると何役も演じて、ひとり1役を通す黒木を取り巻く構図が巧かった。

20170219_002


生きてる時間

カタルシツ演芸会 生きてる時間  2017年2月

作・演出前川知大。イキウメ別室カタルシツの5作目は、なんと古典落語の柳家三三と共演する意欲作だ。2008年上演の戯曲「表と裏と、その向こう」の設定をベースにしたという(内容はだいぶ違うらしい)独特のブラックSF。「座布団一枚の小宇宙」落語が持つ最強のイメージ喚起力と、冷静な語り部でもあるという役回りが、同様にイメージ豊かなイキウメ節と噛み合って、面白い。あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)、なんと2列目で4000円。休憩無しの約2時間。

近未来のとある町。全住民が埋め込み型IDチップでプライバシーを管理されるかわりに、税金はタダ、という社会実験中だ。裏では集めたデータからそれぞれの寿命を算出し、「生きる時間」の売買が横行している…
時の流れというものは誰にも平等なようでいて、実は一分一秒の重みは人と場合によってずいぶん違う。そして時間は濃密であれば幸せ、というわけでもないのだ。管理された時間からの、勇気ある逃走。

白いボックスを並べただけのシンプルなセットに、まず三三が登場。歌丸さんの近況、池袋は落ち着く、お客さんのファッションもしまむら?といった軽妙なマクラから、町の秘密を知る老医師夫婦のエピソードを語る。続いてコンビニの男(安井順平)、謎にせまる若い甥(田村健太郎)、フリーライター(盛隆二)がからむ芝居と、落語とが交互に進んでいく趣向で、情報量が多い。横からスポットライトで照らし、見えない者と会話する演出もはまっている。

盛と、最近はドラマでも活躍する安井の、息の合った笑いがさすが。客演の田村が瑞々しい。チラシの裏は英文で、盛の達者なイラスト付き。これからもいろんな語り口にチャレンジしてほしいものです。

20170218_002

シネマ歌舞伎「女殺油地獄」

シネマ歌舞伎「女殺油地獄」 2017年2月

文楽に続いて、近松シリーズの名作世話物「女殺油地獄」を、2009年6月歌舞伎座さよなら公演のシネマ版で。当たり役・仁左衛門「一世一代」だ。よく入った東劇のやや後ろのほう、通路沿いの見やすい席で2100円。休憩無しの2時間弱。

リアルでは2011年に染五郎・亀治郎(猿之助)で観た演目だが、やはり関西弁が自然だといいなあ。冒頭、徳庵寺堤の場から、野崎参り途中で喧嘩沙汰を引き起こす与兵衛のちゃらんぽらんさ、見栄っ張り、そして弱々しさが魅力的だ。対するお吉は孝太郎、娘お光は千之助という親子三代共演。
公演当時のインタビューを読むと、仁左衛門はお吉とは恋愛感情はない、「家族同様の近所のお姉ちゃん」としており、孝太郎の色っぽ過ぎない感じがはまっている。豊島屋主人の梅玉が安定感。ほかに通りかかる侍で、坂東弥十郎・新悟親子。

続く河内屋内の場から豊島屋油店の場の前半は、追い詰められて暴れる与兵衛の未熟さと、父・歌六、母・秀太郎(芸者小菊と2役)との愁嘆場を描く。妹は梅枝。
後半でいよいよ殺しの心理劇となる。スクリーンで表情を確かめられるので、お吉からなんとか金をせしめようとする小狡さ、後先考えない暴走、快楽、そして激しい恐怖と、与兵衛の変化に見応えがある。これは文楽ともまた違う醍醐味。振付としては凄惨というより、アクロバティックな様式美で、若さが前面に出る。三味線の効果音がなんともクールだ。なんとか継承してほしいなあ。

20170212_012




 

談春「大工調べ」「明烏」

春風亭昇太プロデュース「下北沢演芸祭2017」 立川談春独演会 2017年2月

人気者・春風亭昇太プロデュースによる意欲的な落語シリーズ。ロビーには昇太が大河ドラマで演じる「今川義元より」といった、謎の花が並ぶ本多劇場。中ほどの見やすい席で3500円。中入りを挟み約2時間。

前座は1月と同じ弟子ちはるが、ハキハキと小噺。談春さんが登場し、「弟子が出てくると可哀そうって雰囲気になるの、やめて」と笑わせてから、昇太の人物評を「怒らせるとまずいのが志の輔、めったに怒らないけど怒らせてはいけないのが昇太」と解説して、怒りが印象的な「大工調べ」へ。大家のところへ乗り込むまでの「上」だ。以前、談春や三三で聴いたことがある。棟梁の迫力ある啖呵のスピード感と、すっとぼけているようで実は世の中がみえている与太郎との対比。鮮やかだなあ。
続いて普段着の昇太が登場し、談春とトーク。若かりし頃の出会い、「今はいいけど、先行きはねえ」と批評され続けたこと、談志が新作をつけてもらったけど実演できなかったこと、昇太が談志を怒らせたエピソードなど。最初は立ってたけど、途中から2人とも高座に腰かけちゃって、「これだけで、あと落語しなくてもいいなあ」と談春。小柄な昇太さんの明るさ、腹が据わっている感じがいいなあ。入門35周年、機微の感受性も豊かだし、爆笑させつつ、時に深いやり取りでした。

中入りを挟んで談春2席目は、昇太兄さんに教えたけど、高座にかけなかった、後から聞いたら「台詞が多すぎ」だったとのこと、というマクラから「明烏」。談四楼で聴いたことがある廓噺だ。冒頭、若旦那を心配する母親からして、実に可笑しい。甘納豆を食べるところでは、所作の心得をブツブツと。そして初めての吉原で、いっぱしになっちゃう若旦那の色気がさすがだ。面白かったです!

1486469679643

METライブビューイング「ナブッコ」

METライブビューイング2016-17第4作「ナブッコ」  2017年2月

昨年まで40年以上音楽監督を務めたジェイムズ・レヴァイン指揮、盟友プラシド・ドミンゴのタイトロール・バビロニア王というレジェンド共演で、ヴェルディの出世作を聴く。特製車椅子に乗ったレヴァインは痛々しいし、聖書の「バビロンの捕囚」に基づく異教徒否定のストーリーは、トランプ政権下ではむしろ皮肉だけれど、丁寧なオケと歌手、分厚い合唱は文句なく美しい。1月7日の上演。いつもの新宿ピカデリーで3600円。休憩1回を挟み3時間。

スペイン出身、「3大テノール」で知られるドミンゴは、現在はバリトン。生の響きはわからないものの、スクリーンで聴く限り、声は甘いし、階段を登ったり、うつ伏せで4幕ソロをこなしたり、苦悩の演技がたっぷり。76歳とはとても信じられません!
聴衆も熱狂。もちろん合唱も随所で大活躍し、特に3幕「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」は胸に染み入り、嬉しいアンコールがありました~

ほかの歌手陣は、若手ながら高水準。ナブッコと対立する姉娘アビガイッレのリュドミラ・モナスティルスカが、期待通り堂々の迫力。2015年ロイヤル・オペラ来日でレディマクベスを聴いた、ウクライナ生まれのダイナミックソプラノですね。高音の張りあげ方は、やっぱり気になるけど。また征服されたヘブライ人を励ます祭司長ザッカーリアのディミトリ・ベロセルスキー(こちらもウクライナのバス)も、表情が豊か。14年にローマ歌劇場来日のヴェルディ2作で、強い印象を残した人です。
この2人と比べると弱いながら、イェルサレム側についちゃう妹娘フェネーナのジェイミー・バートン(METオーディション出身のジョージア生まれの太っちょメゾ)と、その恋人イズマエーレ役、ラッセル・トーマス(マイアミ出身の黒人テノール)も破綻がない。

オーストラリアのエライジャ・モシンスキーによる定番演出は、ファンタジーながら、アイーダを思わせる時代物らしい荘厳さ。岩山のような巨大神殿を回り舞台に載せ、合唱を立体的に配置。王たちのキラキラ衣装が美しい。舞台裏の小規模オケ、バンダの様子も見られた。

特典映像は歌手インタビューのほか、ゲルブ総裁の司会でレヴァイン、ドミンゴ座談会も。歌い続ける秘訣は「声を節約すること」、といった話。予告では次回「ロメオとジュリエット」(ダムラウが楽しみ!)の指揮者ノセダらに加え、次々回「ルサルカ」の主演クリスティーヌ・オポライスらも登場。昨シーズンに続いて、美形オポライス押しが目立ちます。

文楽「平家女護島」「曽根崎心中」「冥途の飛脚」

国立劇場開場50周年記念 第一九八回文楽公演  2017年2月

2017年最初の東京公演は開場50周年の続きで近松名作集! 近代劇の扉を開いた日本のシェイクスピア、近松作品の3本立てです。高い音楽性と、色っぽい人形を楽しむ。国立劇場小劇場で1部6000円。

まず初日に見どころ解説をきいてから、後ろのほうの席で第1部、第2部を鑑賞。1部は近松のなかでも、現存作が少ないという時代物から、「平家女護島(へいけにょごのしま)」だ。歌舞伎「俊寛」は、2010年に今は亡き勘三郎で観て、うらぶれた造形が強烈だった。今回は1986年復活の初段から、という意欲的な上演で、清盛との因縁や、俊寛が絶海の孤島に残る背景、そして時代物はファンタジー、実は女性が主役、という意味がよくわかった。
その珍しい六波羅の段は、安定の靖太夫、錦糸。京に残された俊寛の美しい妻あづまや(クールに一輔)が、権力者・清盛(横暴ぶりがスケール大きい幸助)に迫られて自害する悲劇。甥の武将・教経(玉佳)は、清盛になんとあづまやの首を突きつけて諌めちゃう。無茶なんだけど、迫力は満点。
ランチ休憩を挟んで、歌舞伎でお馴染み、鬼界が島の段。襲名を控えた英太夫、清介が三味線無しの「謡ガカリ」から重々しくスタート。過酷な孤島(今の鹿児島県硫黄島)暮らしで、俊寛(和生)は切継(パッチワーク)を着て、足はガリガリだ。流人仲間・成経(勘弥)と、薩摩弁まじりのセクシーな海女・千鳥(さすがいじらしさが際立つ簑助さん。ちょっと足は辛そう)の祝言が微笑ましい。赦免船到着からは期待、俊寛が帰れるかのハラハラ、取り残される千鳥のクドキと、変化に富む展開だ。俊寛は妻の死を知ったことで、上使を刺してまで若い夫婦の犠牲になり、残留を決断する。だが、いざ船を見送るときには「思い切っても凡夫心!」と、激しい孤独、未練に襲われる。人間存在の弱さ、運命の冷徹。深いですねえ。セットが回転して、切り立った崖を見せる演出が効果的。
舟路の道行より敷名の浦の段は一転、スペクタクルだ。充実の咲甫太夫、藤蔵以下5丁7枚で。赦免船が鞆の浦(福山)あたりに差し掛かり、俊寛を慕う怪力・有王丸(頼もしい玉勢)が千鳥に付きそう。厳島神社に向かう清盛が、後白河法皇を海に突き落とし、千鳥(簑紫郎)が颯爽と水連の技で救うものの、清盛は熊手!で千鳥を捕らえて踏み殺しちゃうという大暴れ。千鳥の怨霊が高熱で苦しむ清盛の末路を予感させて、幕となりました。珍しい段にはいろいろ工夫の余地があって面白そうだ。

第二部は、世話物というジャンルを作った「お初徳兵衛 曽根崎心中」。文楽で3回、歌舞伎で2回観ている定番だ。徳兵衛に玉男、お初に勘十郎と、当代随一のコンビで。特に勘十郎さんは情緒があって、艶めかしいなあ。導入の生玉社前の段は、明快に文字久太夫、宗助。お初がすでに死を予感しているところが凄い。
休憩後に眼目の天満屋の段を、唯一の切り場語り、咲太夫と燕三。声量は万全でない印象だけど、きめ細やかだ。プログラムによると国立劇場の文楽公演は、なんと咲太夫の襲名披露で幕を開けたとか。お初の大胆さ、九平次と床下の徳兵衛双方に語りかける立体的な緊迫感、小さな小さな白い足の色気。2人手に手を取って抜け出すサスペンスも。
続いて大詰め天神森の段。荻生徂徠が賞賛したという「この世の名残、夜も名残」に始まる道行を、津駒太夫、咲甫太夫らで。三味線の寛治、清志郎、寛太郎らが盛り上げました~ 徳兵衛がお初に刃を突きつけて幕。リアルでスピード感ある運び。
この日は初日とあってロビーで迎える技芸員さんはスーツ姿、客席には引退した嶋大夫さんの姿も。

1週間後に、残る第3部を鑑賞。2012年に和生、勘十郎で観た「梅川忠兵衛 冥途の飛脚」だ。横領事件をテーマに、人間の複雑さ、愚かさをえぐる世話物の傑作。
淡路町の段は、松香太夫の代演の咲甫太夫から、リズム感のある呂勢太夫と、華やかなリレー。飛脚・亀屋の養子で、お調子者の忠兵衛(味のある玉男)は、遊女梅川に入れあげ、友人・八右衛門(簑二郎)に渡す50両を使い込むが、しっかり者の養母・妙閑(文昇)の手前、鬢水入れを渡して誤魔化す。男気のある八右衛門は事情を飲み込み、いい加減な受取を書く。
背景が上方にはけて、灯りのともる町家を遠くに見る、夜の西横堀。忠兵衛が蔵屋敷に届ける300両を懐に、北の堂島か、南の廓かで惑う。理性を失う羽織落し。野良犬(勘介)が上手い!

30分の休憩を挟んでいよいよ封印切の段を、切迫感ある千歳太夫・富助で。冒頭は茶屋で女郎たちが拳遊び。近松の浄瑠璃「三世相」を語る禿は、手が三味線にぴったりだ。訪れた八右衛門が友を思って「廓に近寄らせるな」と話す。それを立ち聞きした忠兵衛は逆上。梅川(清十郎さん、ちょっと辛そうかな)の懸命のクドキも虚しく、ついに公金に手を付けちゃう。じゃらじゃら小判の投げ合いがアナーキー。八右衛門が腕組みするシーンは左が一服。
続いて道行相合かごを、文字久太夫以下5丁5枚が1970年上演のバージョンで。小住太夫の声がよく通る。シーンは主役2人がすっきりと、野道を故郷大和に向かう。改作「傾城恋飛脚」の新口村への導入部分だが、歌舞伎バージョンと比べ衣装などが侘しくてリアル。駕籠を降り、雪が降りしきるなか、一枚の羽織を譲り合ったり、案山子の笠を拝借したりで、幕切れとなりました。

20170204_006

« 2017年1月 | トップページ | 2017年3月 »