よみらくご「寄合酒」「やぶのなか」「礒の鮑」「短命」「七段目」「宗悦殺し」
第9回よみらくご新春スペシャル~権太楼、成金に吠える~ 2017年1月
気になっていた落語芸術協会二ツ目による人気ユニット「成金」に、主流派・落語協会のベテラン柳家権太楼がコメントする、盛りだくさんの会。若手の勢いが文句なしに楽しい。熱心なおじさんファンの掛け声が目立つ、よみうり大手町ホール、上手寄りやや後ろの方で3900円。中入りを挟み3時間弱。
開演に少し遅れて、若手5人が並んだトーク中に滑り込む。互いにプレッシャーをかけあったところで、トップバッターは82年生まれの春風亭昇也。自身は妻帯者で、師匠昇太を結婚させるミッションとかをハキハキ語り、「寄合酒」。町内の呑み会で、それぞれ肴を調達しようとするが、カネが無い。乾物屋を荒らし、空き地でとんだ拾い物。さらに贅沢な出汁を捨て、お燗番が肝心の酒を飲んじゃう。人物が多いせいか、やや説明調だけど、嫌味がなくて手堅い。
続いて81年生まれの瀧川鯉八。落語理論には3つあって、談志「業の肯定」、枝雀「緊張と緩和」、そして昇也(人は毎回違うらしい)「会話の妙」、この3つ目に逆らいます、と振って新作「やぶのなか」。新婚夫婦と妻の弟、その恋人の日常シーンの嚙み合わなさを、それぞれへのインタビュー形式で。鯉昇さん門下とは思えないシュールな語り口で、個性は突出しているけど、私にはねちっこ過ぎるかなあ。
そして88年生まれ柳亭小痴楽。細身で髪がフワフワのイケメンだ。意外にイヤらしくスナック体験を語って、「礒の鮑」。隠居に作法を教わり、吉原に出掛けた与太郎がトンチンカンを繰り広げるオウム噺。若いのに崩れた色気がある。5代目痴楽の長男で恵まれながら、破門されたり二ツ目昇進直前に父を亡くしたりと逸話が多い人だそうで、やんちゃキャラに期待。
ここで権太楼が登場し、余裕の「短命」。ご隠居から「夫の命を縮めるいい女」の話を聞いた男が、家に帰って女房から茶碗を差し出され… ずいぶん前に志らくで聴いて、あまり印象に残らなかった噺だけど、この人にかかると間合い、適度な色っぽさが巧い。
中入り後は76年生まれ、おにぎり顔の桂宮治。家族持ちで30過ぎに入門したとかで、「師匠の後はやりにくい」「イケメンはイケメンなのに面白い、と言われるけど」と繰り返し、自信満々の前半組に比べて遠慮気味だ。「国立演芸場の隣」国立劇場での観劇の話題からお馴染み「七段目」。盛り上がるところで下座が入り、「初めてなんです~」と戸惑っちゃう。素直な明るさは、本日いちばん噺家らしいのでは。楽しみ。
トリは昨秋に聴いてびっくりした、お待ちかね講談・神田松之丞。眼鏡をはずし、83年生まれとは思えないふてぶてしさで「扇の的くらいで、と思ってたんだけど」とつぶやき、円朝の創作の経緯から、なんと「宗悦殺し」。喬太郎さんや講談・春陽さんで聴いたことがある。凄惨なシーンに引き込む力が凄い。ちょっと運びが重すぎるかなあ。
いったん下げた緞帳を開いて全員が並び、権太楼さんの講評。昇也には「昇太譲りの軽さがいい。下ネタをもっと軽く」、鯉八には「わかりません」と一言、小痴楽には「ネタはいくつ?」「7、80」「今のうちに200は覚えて、絞っていけ」と厳しく、宮治には「歌舞伎そんなに好きじゃないでしょ」とばっさり(実は「道灌」のつもりが、権太楼さんにけしかけられてチャレンジしたらしい)、「いや、だから芝居に走らないところがいい、そのままの勢いで」、そして松之丞には「評判通り巧いねえ、演芸界を背負ってく人」。師匠の温かさに触れ、手締めで幕となりました。
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