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文楽「仮名手本忠臣蔵」

第一九七回文楽公演「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」 2016年12月

文楽2016年の締めくくりは、国立劇場開場50周年記念で忠臣蔵だ。競作となった3カ月連続の歌舞伎と違い、文楽は1日で一気に通しちゃう。強行軍を2日に分けて鑑賞した。歌舞伎より演出が簡素で、役者に頼らない分、高い緊張や無常感を堪能する。人形、三味線は安定、引き続き若手太夫の頑張りを応援。国立劇場小劇場で各7000円。

まず第一部は休憩2回で5時間半を、上手寄り後ろの方で。大序・鶴ケ岡兜改めの段、恋歌の段はテンポよく、対立の経緯がくっきりする。時節は2月。人形は黒衣で。
二段目・桃井館本蔵松切の段は睦太夫・錦糸。正義漢・若狭之助(幸助)の決意を加古川本蔵(勘十郎)が認めるけど、三段目・下馬先進物の段で本心が明らかになる。
腰元おかる文使いの段は聞きやすい三輪太夫・喜一朗。おかる(一輔)がよせばいいのに急いで手紙を届け、勘平(清十郎)を大胆に誘惑する。このコンビだと割と端正だけど。鷺坂伴内(代役で玉志)との入れかわり立ちかわりがコミカルだ。
畳が目に鮮やかな松の廊下に転じ、「喧嘩場」殿中刃傷の段を、重厚に津駒太夫・寛治。2段になった幅広のセットで、逃げる高師直(玉也)、激しく迫る塩谷判官(和生)がいったん引っ込んでまた走り出る、最後は追いすがる本蔵と上下に分かれる構図がダイナミックだ。そして裏門の段を丁寧に。

ランチ休憩の後、四段目はシックな花籠の段からで、呂勢太夫・宗助。「通さん場」塩谷判官切腹の段は、いよいよ切り場語り咲太夫・燕三。「未だ参上仕りませぬ」の緊張感が半端ない。ついに駆けつける由良助(玉男)。動揺する諸士たちは一人遣いだけど、頷きの仕掛けがあり、ツメではないそうだ。
城明渡しの段は広い舞台に由良助たった一人、浄瑠璃も「はったと睨んで」の一節だけなのに、スケールが大きい。書割のあおり返しで城が遠のいていく。格好いいなあ。

短い休憩を挟み五段目「濡れ合羽」山崎街道出合いの段は、むせ返るような夏の夜。小住太夫・寛太郎でフレッシュに。二つ玉の段は胡弓が入り、斧定九郎(簑紫郎)は歌舞伎の影響を受けた外見ながら、立ち回りの途中で煙管を吸ったり、トドメを刺したりして粗野な造形だ。
六段目身売りの段は世話の雰囲気に転じ、抑揚豊かに咲甫太夫・清志郎。一文字屋から来るのは剽軽な才兵衛(玉勢)だけなど、全体に歌舞伎よりシンプルだ。技巧が少ないだけに、勘平の追い詰められていくさまがリアル。早野勘平腹切の段は英太夫・團七。勘平の着替えは原、千崎が訪れてから。独り残される与市兵衛女房(代役で勘壽)が哀れだ。

翌日は第二部、休憩3回5時間を、下手寄りで。
豪華配役で七段目「茶屋場」祇園一力茶屋の段。季節は秋。セリフが凝っており、掛け合いで太夫がどんどん入れ替わって派手だ。由良助は前を咲太夫、後を英太夫がしっかりと。平右衛門の咲甫太夫ははじめ、下手の仮設の床で「無本」で語る非常に珍しいかたちだ。まさに駆けつけてくる感じ。咲甫さんと、遊女となったおかる呂勢太夫のやり取りは、楽しいけど、ちょっと力が入りすぎかなあ。三味線は前が清介、後が盤石の清治で、簾内では長唄も。
人形は紫の着物の由良助を玉男、平右衛門を勘十郎が軽やかに。おかるの簑助さんは2階から降りるのが大変そうで、気迫の演技。段切は平右衛門が九太夫を豪快に持ち上げる。映画「最後の忠臣蔵」の寺坂なんですねえ。

25分の休憩後、八段目・道行旅路の嫁入は三大道行の一つだとか。本蔵の後妻・戸無瀬(和生)と娘・小浪(勘弥)の旅は、富士山から琵琶湖へと移り変わる風景が広々としていて、戸無瀬がくゆらす煙管や、色っぽい話も大らか。遠くに赤い穂先が見える嫁入り行列との対比が鮮やかだ。

短い休憩を挟んで九段目はまず端場・雪転がしの段。由良助が祇園から山科にご帰還。雪だるまの話が伏線となって、いよいよ格調高い三味線「雪おろし」から、難曲・山科閑居の段へ。千歳太夫・富助が大役を熱演し、後半は文字久太夫・藤蔵。
両家の因縁から、お石(簑二郎)と戸無瀬が緊張感あふれる対決。母娘があわや自害というところへ、本蔵(勘十郎)が虚無僧姿で現れる。悲しい尺八「鶴の巣ごもり(巣鶴鈴慕)」を聞かせ、すすんで力弥(玉佳)の槍にかかっちゃう怒涛の展開だ。決して忠ではなく娘のため、という心根、さらに判官の短慮を惜しむセリフが、江戸期の庶民の視線を感じさせて、感慨深い。この長編の主役、実は本蔵なのかも。重苦しいなか、由良助が雪持ち竹で雨戸を外してみせたり、力弥・小浪の祝言も。

10分の休憩後は、珍しい十段目・天河屋の段。なんと戦後4回目、国立での上演は18年ぶり2回目とか。堺にある深夜の店で、町人の義平(玉志)が由良助に試され、男気を示す。緊張が緩む感じ。
歌舞伎のような派手な立ち回りはなくて、いきなり十一段目・花水橋引揚の段へ。晴れた雪景色のなか、馬で若狭之助(幸助)が駆けつけ、扇を広げて祝う大団円が爽快だ。長時間で疲れたけど、充実してました!

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