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シブヤから遠く離れて

シアターコクーン・オンレパートリー2016「シブヤから遠く離れて」  2016年12月

2016年の観劇納めは、大好きな岩松了が2004年に蜷川幸雄と初めて組んだ秀作を、ニナガワ亡きあと自ら演出する話題の舞台。ひりつく台詞、損なわれてしまった哀しさが胸を締め付ける。初演に続いて小泉今日子が、母であり運命の女であるマリーを色っぽくみせて、目が離せない。ナオヤ役の19歳・村上虹郎も、やや滑舌が不安ながら、繊細な存在感で収穫。揺れ動き、すれ違う感情と、2人の個性がかみ合う。演劇・音楽関係者が多い印象のシアターコクーン、やや下手寄りのいい席で1万円。休憩を挟み3時間弱。

11月の、南平台あたりの洋館。開幕前はパティオの花壇が美しいけど、冒頭の暗転で一変し、ススキに覆われた廃墟に(美術は「青い瞳」などの二村周作)。幼馴染ケンイチ(鈴木勝大)を訪ねてきたナオヤが、事情を抱えて廃屋に身を隠す娼婦マリーと出会う。そこへマリーにぞっこんのアオヤギ(橋本じゅん)、その飄々とした同僚フナキ(豊原功補)、別れ話のため会津から出てきたアオヤギの父(文学座のたかお鷹)と都会に興味津々の妹トシミ(初舞台の南乃彩希)がからむ。狂言回しのマンション管理人フクダに、関西拠点の高橋映美子、黒服の男たちに小林竜樹と駒木根隆介の凸凹コンビ&岩松さん。

ナオヤは幼い日の禁断の思慕と、取り返しのつかない罪の記憶にからめとられている。愛した人を嫌いになるくらいなら、明日がきたってしょうがない。そんな死に引き寄せられていく未熟さを、受け止めるマリー。関わる男を破滅させちゃう宿命を帯びつつ、退廃と透明感で傷を包み込む。
台詞とともに、細部のエピソードが印象的だ。寂しいと死んだふりをする籠の鳥、鮮やかなマリーのドレスと、忽然と現れる追憶のゼラニウムの赤、繰り返される2階バルコニーからの転落、唐突な銃撃と雨(本水)の理不尽さ、それが雪に変わって舞台を白く染めていく切なさ。すべては人が群れ集うシブヤの、忘れられた場所での出来事。幻影と現実の曖昧さが秀逸だ。

ナオヤの葡萄をつまみ食いする豊原が、崩れた色気を発揮。岩松組初参加で異質な感じの橋本も、笑いを引き受けてまずまず。初演配役(二宮和也、杉本哲太、蒼井優、勝地涼、立石涼子、勝村政信ら)よりバランスはいいのかも。

客席には赤堀雅秋さんらの姿も。

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