2016年喝采尽くし
2016年はなんと言っても5月、トップを走り続けた巨匠・蜷川幸雄死去の喪失感が大きかった。自身の演出作・1月「元禄港歌」の情とケレンが、猿之助ら豪華キャストとあいまって忘れがたい。年末にはゆかりの戯曲「シブヤから遠く離れて」を、作家・岩松了さん自身の演出、小泉今日子主演で噛み締めた。
演劇は翻訳ものが充実。なかでも森新太郎が極限状態の愛を演出した「BENT」は、佐々木蔵之介の気迫で今年いちばんの出来! ケラリーノ・サンドロヴィッチ「8月の家族たち」は麻実れい、秋山菜津子の母娘激突に見応えがあったし、小川絵梨子「コペンハーゲン」の核、栗山民也「ディスグレイスト」の人種差別というテーマは、時代と見事に共振した。
若い作り手では前川知大が代表作「太陽」で、藤田貴大が没後400年のシェイクスピアに初挑戦した「ロミオとジュリエット」で個性を発揮。俳優はニナガワの秘蔵っ子・藤原竜也が、「鱈々」で新たな一面である繊細さを見せつけ、期待通りの小日向文世、宮沢りえ、高橋一生のほか、個人的には若手の村上虹郎が収穫。
伝統芸能は重厚な2演目を、文楽・歌舞伎両方で観られて、おおいに納得した。ひとつは念願だった「吉野川」。文楽は大阪に遠征して、歌舞伎は吉右衛門・玉三郎のダブル人間国宝で。もうひとつは国立劇場50周年で、定番「忠臣蔵」をそれぞれ全場面通しで完走し、発見がたっぷり。吉右衛門さんについては極付「籠釣瓶」「一條大蔵譚」でも舞台への執念を、また海老蔵が7月の「荒川の佐吉」+荒事で次代の牽引力を実感させた。
落語では鶴瓶「らくだ」の、大阪弁による人物造形が出色。安定の談春、喬太郎、三三、一之輔に加え、話題の芸協二ツ目陣でもある講談・松之丞の勢いが楽しみだ。
オペラはウィーン国立歌劇場「ワルキューレ」が、高水準の歌唱・オケと抑制の効いた演出で心揺さぶる名舞台だった。新国立劇場は珍しいヤナーチェク「イェヌーファ」に見応えがあり、歌手は「ローエングリン」で金髪王子さまフォークトを、リサイタルでお茶目女王ネトレプコを堪能。
来日ミュージカルの「キンキーブーツ」も文句なしに楽しかったなあ。2017年も劇場通いを続けるぞ!
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