仮名手本忠臣蔵 第二部
11月歌舞伎公演 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第二部
50周年記念の3カ月連続、全段完全通しのふた月目。国立劇場歌舞伎公演としても300回の節目を迎えるそうだ。今月はよく上演される見どころ満載の段を、尾上菊五郎、中村吉右衛門というそれぞれ極めつけの主演で堪能した。大劇場の花道すぐ横、上手側の面白い席で1万円。休憩2回を挟み5時間強。
まず浄瑠璃・道行旅路の花聟(はなむこ)、通称「落人」。先月に観た珍しい三段目「裏門」を、清元の舞踏劇にしたものだ。浅葱幕が落ちると遠くに富士を望む戸塚。桜と菜の花が華やか。花道から勘平(中村錦之助)とおかる(尾上菊之助)が登場。若々しくて「ご両人!」の声がかかる。菊之助は綺麗だけどちょっと骨太で、勘平を引っ張る感じか。滑稽な鷺坂坂内(坂東亀三郎、来春に彦三郎襲名予定)が手堅い。浄瑠璃は清元延寿太夫ら。
ランチ休憩の後は照明が暗くなって、五段目・山崎街道鉄砲渡しの場。雨宿りする勘平(菊五郎)が笠を上げ、一気に視線を集める。千崎弥五郎は河原崎権十郎(現・彦三郎の弟)。同・二つ玉の場で稲叢(いなむら)から白い手を伸ばし、怪しく斧定九郎(尾上松緑)が現れる。細身で危うい持ち味が、色悪というよりシンプルなワルで、なかなか。盛んに「弁慶橋」の声がかかる。勘平は火縄をくるくる回したり、暗闇で手探りしたり忙しい。
舞台が回って、六段目・与市兵衛内勘平腹切の場は世話に傾き、緻密な音羽屋型をじっくりと。しでかしてしまった者の、じりじりする焦り、どうしようもない悲哀は普遍的テーマだなあ、と改めて思う。
前半は爽やかな浅葱色の紋服に着替えた勘平が、祇園へ向かうおかるとの涙の別れ、与市兵衛の死を知って煙管を取り落とす動揺をくっきりと。歌舞伎座のさよなら公演、新開場公演でも観たけど、現実にはおじいちゃんなのにロマンチックなのが不思議。おかや(中村東蔵が田舎っぽさを巧く)や二人侍(重々しい中村歌六の原郷右衛門、権十郎)に責められ、ついに切腹してからは怒涛の展開だ。気の毒だなあ。一文字屋お才は中村魁春。
休憩後は一転して華やかに、七段目・祇園一力茶屋の場。さっと背景が開いてからの夜の色街が美しい。由良之助(吉右衛門)が廓遊びにふける色気と、その裏で着々と敵討ちを準備する深謀遠慮という複雑な2面を存分に。こちらも観るのは、歌舞伎座新開場公演以来だ。
「花に遊ばば」と「騒ぎ」の唄で幕が開き、斧九太夫(嵐橘三郎、富十郎の門人で今月幹部昇進)と坂内の入り込みから。三人侍(声が通る亀三郎が2役で赤垣源蔵、ほかに坂東亀寿、中村隼人)が鎌倉出立を迫るが、由良之助は取り合わない。力弥(小柄で可愛い中村種之助)が顔世御前の密書を届ける緊迫のシーンで、戸が外れるハプニングがあったけど、悠々としてさすがです。
五輪の見立てなどお遊びがあって、おかる(中村雀右衛門、いじらしいけど、やや色気不足か)が登場し、由良之助が軒先の釣り灯籠で密書を読む立体的なシーンから、後半は平右衛門(中村又五郎が初役で)が躍動する。吉右衛門は大詰めの九太夫折檻あたり、さすがに朗々とはいかないけれど、説得力十分。「大播磨」の声がかかる。これをどなたが継承していくのかなあ…
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