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METライブビューイング「トリスタンとイゾルデ」 

METライブビューイング2016-17第1作「トリスタンとイゾルデ」  2016年11月

リンカーンセンター移設50周年のシーズン開幕は、意外にも重厚難解なワーグナー。指揮は大物、今年9月の来日で聴いたベルリンフィル芸術監督サイモン・ラトルだ。先日のウィーン歌劇場で感嘆したばかりのニーナ・ステンメ(スウェーデンのソプラノ)が、強靭に舞台を牽引する。年配男性が目立つ新宿ピカデリーで5100円。休憩2回を挟み5時間強。

運命の愛と死の物語。アイルランド王女イゾルデ(ステンメ)は戦勝国コーンウォールのマルケ王(お馴染みドレスデン生まれのバス、ルネ・パーペ)に嫁ぐことになったが、その道中、付き添いの騎士トリスタン(シドニー生まれのヘルデン・テノール、スチュアート・スケルトン)と恋に落ちちゃう。やがて2人の密会が露見し、トリスタンは重傷を負い、故郷の城で落命。駆けつけたイゾルデも後を追う。

オペラに足しげく通い始めて、まだ2年目の2007年秋、ベルリン歌劇場の来日で観たのが懐かしい。動きの無い演出に困惑しつつも、オケの迫力を堪能した記憶がある。
今回も精妙な前奏曲や、2幕の官能の2重唱、そしてラスト、イゾルデの絶唱「愛の死」などインパクトは十分だ。1幕の媚薬を象徴するハープや、3幕のイングリッシュ・ホルン「嘆きの調べ」も印象的。
なんといっても歌手がいずれも超人技だ。ステンメは貫禄があって、ひときわ誇り高い造形。春にラトル指揮でトリスタンを歌ったばかりというスケルトンは、太っちょだけど表現は繊細だ。タイトロールの声がともに柔らかくて、バランスがいい。この2人は媚薬を飲まなくても、すでに惹かれあっており、しかも宿命的に死に引き寄せられていく流れが、よくわかる。
2007年にもマルケ王だった堂々たるパーペはもちろん、そのほかの脇も安定。侍女ブランゲーネのエカテリーナ・グバノヴァは、2009年スカラ座「アイーダ」のアムネリスなどで聴いた、モスクワ出身のメゾ。気品があり、2幕「見張りの歌」が美しい。従者クルヴェナールのエフゲニー・ニキティン(ロシアのバス)も誠実に3幕を支える。

演出はポーランド出身、映画監督でもあるマリウシュ・トレリンスキ。設定を現代に移して、暗い舞台に映像を多用。大波に揺れる軍艦や、トリスタンの原風景らしい父の死を繰り返し見せる。はかない命を象徴するようなライターの火や、舞台上のカメラ映像との組み合わせ、少年時代のトリスタン登場など仕掛けが多く、やや消化不良か。セットは1幕は3階建ての軍艦内部、2幕はドラム缶が並ぶ倉庫、3幕は比較的シンプルにトリスタンの寝室。

案内役はイゾルデも得意とする貫禄のデボラ・ヴォイト。開幕恒例のゲルブ総裁やラトル、主要キャストに加えて、イングリッシュ・ホルン奏者のP・ディアスにインタビューしてました。

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