鶴瓶「死神」「青木先生」「山名屋浦里」
JRA笑福亭鶴瓶落語会 2016年10月
冷え込んできた雨の一夜、鶴瓶さん独演会へ。広い会場に立ち見も出る盛況で、客層は幅広く、特に今回は男性の笑いが目立つ。花いっぱいの赤坂ACTシアター、割と前の方の中央で5000円。中入りを挟みたっぷり2時間半。
まずラフな服装で登場し、幕前でいつものトーク「鶴瓶噺」。トホホエピソードをポンポン繰り出す。2PM東京ドームライブのおばちゃんファンの会話、結婚記念日の手紙で奥さんの名前を書き間違える、自分の名前のいろんな間違い、ロケに訪れた住民5人の島で飲み友達と会う、サウナで落語を稽古したときの反応、小朝の勧めで「死神」を始めた22007年ごろの小さい落語会、エイプリルフールで中村屋一家にいっぱい食わされ、骸骨の着ぐるみで家に押しかけたこと、その中村屋が自作落語を歌舞伎化し、生真面目な役者陣の前で演じたこと…。
いったんひっこんで八月納涼歌舞伎のドキュメント映像が流れ、羽織姿の師匠が登場。見台を使って「死神」。かけるときは全生庵に作者・円朝を参るという。鶴瓶バージョンは死神が老人ではなく、かいがいしい女性。主人公が自殺に追い込まれた原因は新築祝いでのしくじりで、「牛ほめ」をミックスしている。
死神を追い払う呪文(シンプル)を習って稼ぐものの、遊んじゃうくだりは古典のままだけど、布団を回す工夫で救う相手は逃げた女房。死神に尽きかけた寿命の蝋燭を見せられ、別の蝋燭に火を移すが、実は死神が片思いの幼馴染とわかる。言い寄ろうとして、うっかり火を吹き消しちゃう瞬間でオチでした。
喬太郎さんのドーンと倒れる幕切れや、談春さんの「回りオチ」では、それぞれに死の瀬戸際でさえ愚かな人間を描いてシュールだったけど、鶴瓶さんは昔の恋の人情に持ち込んでいて、この人らしい。
お囃子の「前前前世」を挟んで、着替えて再登場。番組のカメラマン、そして公演先で、偶然ご家族に会ったマクラから名作「青木先生」。聴くのは2010年以来だ。先生の強烈な造形、悪戯な高校生の鶴瓶さんが変わらず魅力的。ラストの泣きは抑えめだったかな。
20分の中入り後、幕があがると屋根と行燈のセットがすっかり歌舞伎の廓の雰囲気だ。鮮やかな柄の羽織姿で、話題の「山名屋浦里」。タモリが番組で調べたエピソードを楽屋で鶴瓶に語り、くまざわあかねが落語に仕立てて2015年初演。さっそく中村屋兄弟がこの夏、歌舞伎座で「廓噺山名屋浦里」として上演したストーリーだ。
江戸留守居役・酒井宗十郎は田舎者かつ堅物で仲間に疎まれ、寄合に馴染みの花魁を連れてこいと無茶を言われてついにキレ、承知したと見得をきってしまう。頼まれた山名屋主人は取り合わないが、吉原一の清里本人があっさり承諾、寄合に絢爛豪華な花魁道中で現れてくれる。後日、宗十郎が持参した金子を受け取らず、「幼いころから籠の鳥、世の中のことを話しにきてほしい」と切々と語る。
「紺屋高尾」のような泣かせる正統人情噺ではなく、廓噺には珍しい男女の友情談になっており、現代的な印象だ。なんといっても清里の造形が艶やかながら気概があって、非常に自我が強い。なよなよしない師匠の語り口があっている。
歌舞伎座楽日、カーテンコールの舞台に半ズボンであがった感動を語りつつ、「歌舞伎に負けられない」とさらなる進化を期して終演となりました。
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