仮名手本忠臣蔵 第一部
10月歌舞伎公演 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第一部 2016年10月
国立劇場開場50周年記念で3カ月にわたり、可能な場面すべてを網羅するという「完全」通し上演の1カ月め。実は初めて観る松の廊下の悲劇性、そして、じらしにじらして登場する由良之助のスケールを味わう。スターが活躍しない地味なシーンも含めて、貴重な名作伝承の現場だ。大劇場の中央上手寄りで1万円。休憩2回を挟んでたっぷり5時間強。
発端は若狭之助が主役、というのがまず発見だ。これが9段目加古川本蔵の、常識人の悲劇につながるんですね~ 外題は「本蔵」の間に「忠臣」が入っている、なんて読み解きもあるらしい。
まずコミカルな口上人形が出て「エヘン、エヘン」と、役人替名(やくにんかえな、配役)を語る、独特の演出が楽しい。声は頭取(名題下のベテラン)だそうです。そういえば海老蔵が「雷神(なるかみ)」で真似してた。さらに天王立下り羽(てんのうだちさがりは)という音楽、47回の柝をバックにゆっくりゆっくり幕がひかれ、大序・鶴ケ岡社頭兜改めの場。役者は首を垂れて「人形身」を演じ、七五三の鼓、東西声があってようやく順に動き出す。緊張マックスの第一声は足利直義(松江)。
銀杏が色づく八幡宮で、邪険な師直(左團次)に桃井若狭之助(若々しく錦之助)が激昂する。判官(梅玉)の妻・顔世御前の秀太郎がどっしり。直義の役者が江戸三座座主の家柄だと、石段の上で沓を履くとか、細かいしきたりがあるそうです。
ダイナミックな回り舞台の転換があり、二段目桃井館力弥使者の場。登城時刻を伝えに来た力弥(錦之助の長男・隼人)と許婚・小浪(歌六の長男・ぷっくり米吉)が初々しい。梅と桜に例えられるそうで、特に米吉が最高に可愛い! 後の悲劇が際立つ日常風景だ。夜となって松切りの場。金打(きんちょう)して若狭之助から師直を討つ決意を聞いた家老・本蔵(団蔵)は、松の枝を切って了解し、目覚まし時計をセットしておくと言ってから、急いでどこかへ出掛ける。
ランチ休憩の後、三段目・足利館門前の場。チャリ場「進物」で本蔵が師直家来の伴内(ベテラン橘太郎)に賄賂を渡し、「泥鰌踏み」で坂内がおかる(高麗蔵)に言い寄り、「文使い」で勘平(扇雀)とおかるが落ち合う。
きびきびと長い薄縁を転がして敷く舞台転換があり、山場の松の間刃傷の場。若狭之助に対し下手に出たうえ、顔世に返歌で冷たくされて不機嫌マックスの師直が、「鮒侍」などとさんざん判官を愚弄。ついに判官が斬りつけちゃう怒涛の展開だ。裏門の場では勘平・おかるが山崎へ落ちていく。このあたりも上演機会が少ないが、後の段の伏線となるシーンだ。
休憩を挟んで四段目は厳粛に、東京では41年ぶりという扇ケ谷塩治館花献上の場。腰元たちが活けた鎌倉山の桜の美しさが悲しい。家臣・斧九太夫、原郷右衛門の言い争いを、顔世が宥める。貫禄だ。
そしていよいよ「通さん場」判官切腹の場。上使の石堂(左團次が2役でうってかわり穏やかに)、薬師寺を迎え、すでに判官は死装束。梅玉さん、上品で潔い。切腹に及んだその時、花道から由良之助(幸四郎)が駆けつけて、刀を託される。重いな~ 予習で読んだ丸谷才一「忠臣蔵とは何か」の、弔いの必然性にも納得。この短刀は力弥の役者が毎朝、判官役者の部屋で三宝にのせて受け取るとか、諸士たちは出番まで舞台上で正座して待つとか、つくづく特別なシーンなんですねえ。関係ないけど梅玉さんは終わってから、歌舞伎座夜の部の口上に駆けつけるとか。大変です。
髪を落とした顔世らが焼香し、亡骸が菩提所に送られると、家中の評議へ。籠城討死を主張する諸士(左團次の孫・男寅ら)を、由良之助が「恨むべきはただ一人」と説得する。セリフ回しはどうにも独特だけど、さすがに朗々として、迫力満点だ。
大詰はダイナミックな表門城明渡しの場。「送り三重」をバックに、機構を生かして城のセットがぐんぐん後退。幸四郎が存分に泣き、ラストは幕をひいて七三で見せてくれました。
そして物語は第2部へ続く…
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