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ナクソス島のアリアドネ

ウィーン国立劇場2016年日本公演「ナクソス島のアリアドネ」  2016年10月

4年ぶりの来日公演。1939年生まれ「ドイツ正統派」マレク・ヤノフスキで、後期ロマン派のリヒャルト・シュトラウスを聴く。コミカルな楽屋落ちストーリーと甘美な音楽は木に竹を接ぐようだけど、超絶技巧と迫力の歌唱で納得させちゃう。ステファン・グールドをはじめ歌手一人ひとりが高水準で、36人の小規模オケながら聴きごたえ十分だ。これが伝統の力か。東京文化会館大ホール、4F上手寄りのD席で32000円。30分の休憩を挟み3時間弱。

前半、バックステージものの「プロローグ」は背の高い窓がある広間。ウィーンの成金が屋敷でのオペラ上演を発注するが、同時に下世話なコンメディア・デッラルテ(即興劇)を上演しろと無茶を言い出し、若い作曲家(ズボン役ですらりと端正なメゾ、ステファニー・ハウツィール)が憤慨する。
鏡台が並ぶ楽屋に転換して、作曲家とプリマドンナ(伸びやかなソプラノ、グン=ブリット・バークミン)、テノール(新国立でお馴染みアメリカのテノール、グールド)、喜劇一座のコケティッシュな女優ツェルビネッタ(ソプラノ、ダニエラ・ファリー)、舞踊教師(テノール、ノルベルト・エルンスト)らがドタバタを繰り広げる。

後半の「オペラ」は劇中劇のギリシャ悲劇。広間にシャンデリアが輝き、後方の階段に招待客たちが座る。足の折れたグランドピアノ3台で表す荒れた島で、アリアドネ(バークミン)が恋人に見捨てられて死を望むが、訪れたバッカス(グールド)と恋に落ち、希望を見出す。
このパートは、リングばりの妖精3人(ロス出身の華やか黒人ソプラノ、ローレン・ミシェルら)が舞台回しを務め、ラスト20分はうねるような2重唱が聴衆を圧倒する。特に9月に急逝したヨハン・ボータの代役、グールドが期待通りに、輝かしい声でガンガン飛ばして舞台を制圧。まさにヘルデンテノールだ。第一声の迫力で、執事がぶっ飛ぶ小ネタも。
この合間に場違いな喜劇が挟まり、膨らんだ赤いスカートのツェルビネッタが「恋の相手なんて移り変わるものよ」とアリアドネを励ます。こちらのパートはフィガロのようで、作曲家が演じるピアノに乗せ、ファリーの超絶コロラトゥーラが冴えまくる。不安定な足場でも笑みを絶やさない。なんという技巧。派手な衣装の一座の男性陣とバレエダンサーも、キックボードや傘を使って大騒ぎだ。ラストは異質なはずのツェルビネッタと作曲家が両想いになってハッピーエンド。

「ばらの騎士」で成功した文豪ホフマンスタールとのコンビ作で、1916年に大幅改訂したもの。前半のオペレッタ風から、ワーグナー風、モールァルト風までてんこ盛り。上流階級が楽しんできたオペラのパロディなのか。でも実力派が揃えば優美に聴かせちゃう。
スタイリッシュな演出はスヴェン=エリック・ベヒトルフ。2012年ザルツブルク音楽祭でのプロダクションをベースに、設定を作曲当時の1910年代とし、メーンキャストの背後で無粋な屋敷の主人がやたら酒をあおったり、観客がひとりずつ灯りを持ったり、仕掛けもたっぷり。大人っぽかったです。

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鶴瓶「死神」「青木先生」「山名屋浦里」

JRA笑福亭鶴瓶落語会  2016年10月

冷え込んできた雨の一夜、鶴瓶さん独演会へ。広い会場に立ち見も出る盛況で、客層は幅広く、特に今回は男性の笑いが目立つ。花いっぱいの赤坂ACTシアター、割と前の方の中央で5000円。中入りを挟みたっぷり2時間半。

まずラフな服装で登場し、幕前でいつものトーク「鶴瓶噺」。トホホエピソードをポンポン繰り出す。2PM東京ドームライブのおばちゃんファンの会話、結婚記念日の手紙で奥さんの名前を書き間違える、自分の名前のいろんな間違い、ロケに訪れた住民5人の島で飲み友達と会う、サウナで落語を稽古したときの反応、小朝の勧めで「死神」を始めた22007年ごろの小さい落語会、エイプリルフールで中村屋一家にいっぱい食わされ、骸骨の着ぐるみで家に押しかけたこと、その中村屋が自作落語を歌舞伎化し、生真面目な役者陣の前で演じたこと…。

いったんひっこんで八月納涼歌舞伎のドキュメント映像が流れ、羽織姿の師匠が登場。見台を使って「死神」。かけるときは全生庵に作者・円朝を参るという。鶴瓶バージョンは死神が老人ではなく、かいがいしい女性。主人公が自殺に追い込まれた原因は新築祝いでのしくじりで、「牛ほめ」をミックスしている。
死神を追い払う呪文(シンプル)を習って稼ぐものの、遊んじゃうくだりは古典のままだけど、布団を回す工夫で救う相手は逃げた女房。死神に尽きかけた寿命の蝋燭を見せられ、別の蝋燭に火を移すが、実は死神が片思いの幼馴染とわかる。言い寄ろうとして、うっかり火を吹き消しちゃう瞬間でオチでした。
喬太郎さんのドーンと倒れる幕切れや、談春さんの「回りオチ」では、それぞれに死の瀬戸際でさえ愚かな人間を描いてシュールだったけど、鶴瓶さんは昔の恋の人情に持ち込んでいて、この人らしい。

お囃子の「前前前世」を挟んで、着替えて再登場。番組のカメラマン、そして公演先で、偶然ご家族に会ったマクラから名作「青木先生」。聴くのは2010年以来だ。先生の強烈な造形、悪戯な高校生の鶴瓶さんが変わらず魅力的。ラストの泣きは抑えめだったかな。

20分の中入り後、幕があがると屋根と行燈のセットがすっかり歌舞伎の廓の雰囲気だ。鮮やかな柄の羽織姿で、話題の「山名屋浦里」。タモリが番組で調べたエピソードを楽屋で鶴瓶に語り、くまざわあかねが落語に仕立てて2015年初演。さっそく中村屋兄弟がこの夏、歌舞伎座で「廓噺山名屋浦里」として上演したストーリーだ。
江戸留守居役・酒井宗十郎は田舎者かつ堅物で仲間に疎まれ、寄合に馴染みの花魁を連れてこいと無茶を言われてついにキレ、承知したと見得をきってしまう。頼まれた山名屋主人は取り合わないが、吉原一の清里本人があっさり承諾、寄合に絢爛豪華な花魁道中で現れてくれる。後日、宗十郎が持参した金子を受け取らず、「幼いころから籠の鳥、世の中のことを話しにきてほしい」と切々と語る。
「紺屋高尾」のような泣かせる正統人情噺ではなく、廓噺には珍しい男女の友情談になっており、現代的な印象だ。なんといっても清里の造形が艶やかながら気概があって、非常に自我が強い。なよなよしない師匠の語り口があっている。
歌舞伎座楽日、カーテンコールの舞台に半ズボンであがった感動を語りつつ、「歌舞伎に負けられない」とさらなる進化を期して終演となりました。

キンキーブーツ

ブロードウェイ・ミュージカル「キンキーブーツ」<来日版>  2016年10月

全編シンディ・ローパー書き下ろしのキャッチ―な楽曲がご機嫌な、2013年トニー賞6部門受賞作の来日公演。ドラァグクイーンって何故か、出てくるだけでテンション上がるし、半端な色気が切ないなあ。スピーディーな脚本は「トーチソング・トリロジー」のハーヴェイ・ファイアスタイン、華やかな振付・演出は「ヘアスプレー」などのジェリー・ミッチェル。シアターオーブのやや下手寄り、すごく前の方のいい席で1万3000円。休憩を挟み約2時間半。

偏見を越え、あるがままの自分と他者を肯定すること、そして父との和解を描く、シンプルで前向きなお話。
チャーリー(アダム・カプラン)は恋人ニコラ(カリッサ・ホグランド)とロンドンで暮らすはずが、父の急死で田舎町ノーサンプトンのダサい靴工場を継ぐ羽目に。チャーリーを思う社員ローレン(ティファニー・エンゲン)にはっぱをかけられ、偶然出会ったド派手ドラァグクイーン、ローラ(J.ハリソン・ジー)の助言で、セクシーかつ頑丈な女装ブーツ作りに乗り出す。ローラは職人ドン(アーロン・ウォルポール)と衝突するが、ボクシング対決で勝ちを譲る。またいったんチャーリーと決裂するものの、結局はショー仲間や職人たちとミラノのショーに駆けつける。

いかにもドラァグクイーンの長身Jが、堂々としつつも、「Land of Lola」「Hold Me in Your Heart」などハスキーな声で、内面の弱さ、屈折を表現し、観客をひきつける。赤スパンコールや青のミニ、白のヒラヒラドレスの存在感と、もっさりした男装姿のギャップも面白い。かつて東京ディズニーシーに出演していたとか。
さらに6人組「エンジェルス」が加わると、独特のゆるめのダンスでショーパブの雰囲気。生真面目カプランは手堅い演技だ。
女性陣は自虐的なエンゲンが、軽妙なコメディエンヌぶりでシンディ・ローパーの世界にぴったり。敵役のホグランドは歌唱が伸びやか。

2階建の可動式セットを人力で回し、紗幕や舞台袖の階段も使って素早くシーンを転換。ベルトコンベアに乗って踊りまくる「Everybody Say Yeah」、さらに大詰めランウェイ上の「Raise You Up/Just Be」が盛り上がる。カーテンコールはスタンディングとなり、Jとカプランがグランバットマンを披露してくれました~

客層は幅広く、意外な財界人の姿も。ロビーにはなりきり撮影スポット、7~9月日本人キャスト版の衣装がありました。

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講談「木津の勘助」「浜野矩随」

講談協会定席 神無月 2016年10月

思い立って日本橋亭講談夜席へ。1800円。
宝井琴調「出世の富くじ」の途中から滑り込む。貧乏武士が年の瀬の湯島天神で富くじを買い、なんと千両をあてるが、賢い妻に諭され、くじを燃やしちゃう。それが評判を呼んでトントン出世。かつて助けた小僧と再会する、気持ちのいい話。くじを当てたときの喜びようやら、巷の噂の芸能ネタやら笑いが多く、いつもながら気風がよくて、格好いい。
中入り後は一龍斎貞友で「木津の勘助」。2年前に春陽さんで聴いた演目だ。ぽっちゃりして愛嬌がある。

主任はお目当ての神田春陽で、怪しいテレフォンカードと談志さん、伊香保のとんだお宝といったマクラから「浜野矩随(のりゆき)」。腰元彫り名人の息子なのに、なかなか腕が上がらない矩随が、いつも2朱で買ってくれる若狭屋にさんざんけなされて死を覚悟。しかし母から形見にと請われ、精魂込めて彫りあげた観音が傑作となり、若狭屋が50両の値をつける。その間に母が息子の身代わりにと自害する驚きの展開。矩随は悲嘆を乗り越え、名人となっていく。落語にもなっている演目ですね。退路を断って開眼する、芸に通じる壮絶な話を、テンポよく聴かせてくれました。

鱈々

鱈々(だらだら)  2016年10月

韓国を代表するという劇作家・李康白(イ・ガンペク)が1993年に発表した寓話を、石川樹里訳、栗山民也演出で。システムにからめとられ、意味を見失った現代人の息苦しさを、藤原竜也が繊細に表現する。スターの変貌を目撃する楽しさがある。女性ファンが多い天王洲銀河劇場の上手寄り前の方で9800円。休憩無しの約2時間。

舞台は埃っぽい倉庫のワンセット(美術は松井るみ)。倉庫番として寝起きする生真面目なジャーン(藤原)と野放図なキーム(山本裕典)は、トラックでどこからか運ばれてくる木箱を保管し、指示通りに積み、またどこかへと運び出す、単調な日々を過ごしている。キームが付き合う、ふしだらな女ミス・ダーリン(「荒野に立つ」の中村ゆり)と、その父のトラック運転手(木場勝己)の介入、そしてキームのちょっとした悪戯が、ジャーンを追い込んでいく。

ジャーンとキームは毎日運んでいる箱の中身を知らない。知ろうともしない。かつて箱にはわかりやすく中身を示す絵があったのに、いつのころからか無機質な番号の表示になり、仕事を指示する伝票も数字の羅列に。
複雑になった社会の中で、自分のしていること、その意味を自分でコントロールできない不安。自分は自分の人生の主人ではないと思い知ったときの、しらじらとした思い。閉じた空間での関係が崩れてしまうと、話し相手はスープに使う塩鱈の頭くらいなのだ。

5月の蜷川さん死去から初の舞台となった藤原が、イメージを覆す抑えた演技で、静かに、確実に舞台を引っ張る。揺れ動く感情。ゲイの印象は薄い。
ほか3人も巧いんだけど、役柄の割にちょっと上品すぎる感じか。演出の意図かもしれないけど。
わずかな照明の変化、シーンに合わせてさりげなく流れるクールなBGMがお洒落。

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マリインスキー・オペラ「エフゲニー・オネーギン」

マリインスキー・オペラ「エフゲニー・オネーギン」  2016年10月

秋晴れの上野公園。2012年のコンサート形式から4年ぶりに、マリインスキー歌劇場の来日公演に足を運んだ。指揮はもちろん芸術総監督ワレリー・ゲルギエフで、チャイコフスキーの甘美なメロディーをたっぷりと。東京文化会館大ホール、下手寄り中段のA席で3万6700円。休憩2回を挟み3時間40分。

1879年の初演キャストはモスクワ音楽院の学生だったという逸話もあって、今回の歌手陣はマリインスキー劇場付属アカデミーの若手が中心。安定してたけど、パワー不足、オーラ不足は否めない。もちろんライブビューングで観た2013年のメトオープング、ネトレプコ+クヴィエチェン+ベチャワと比べちゃ酷だけど…

1幕ではタチヤーナ(大人っぽいマリア・バヤンキナ、ソプラノ)の「手紙の場」に超期待していただけに、ちょっと物足りない。「もしもこの世に家庭の幸せを求めるなら」のオネーギン(けっこう渋いアレクセイ・マルコフ、バリトン)と、2幕「我が青春の輝ける日々よ」のレンスキー(小柄なエフゲニー・アフメドフ、テノール)はまあまあ。
3幕「恋とは年齢を問わぬもの」のグレーミン公爵(エドワルド・ツァンガ、バスバリトン)で盛り上がり、タチアーナとオネーギンの2重唱「オネーギン様、私はあの時若かった」では深めの声がシーンとマッチして、大拍手となりました。

アレクセイ・ステパニュクの新演出はとても洒落ていて、1幕は舞台横いっぱいの低い階段に、5000個のリンゴを転がし、田舎風情や人物の若さを表現。セットは天井から吊るしたブランコなど最小限に抑え、背景に映した雲や月、朝焼けが雄大だ。1場ごとに左右と上から閉まる幕で、舞台の一部にズームインするような面白い効果を出す。
3幕ペテルブルグの宮殿舞踏会でのポロネーズは、あえてバレエを封印。高い窓とネバ川河畔のシルエットを背景に、青のグラデーションと金の豪華衣装をまとった貴族たちが、悠然と歩くだけで、現実離れした雰囲気を醸す。大詰め2重唱はあえて幕前で歌い、ラストにぱあっと幕が開いて、広い精神の荒野にオネーギンが1人取り残される。鮮やかでした。

客席には財界人の姿が。熱心なブラボーも。

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歌舞伎「外郎売」「口上」「熊谷陣屋」「藤娘」

芸術祭十月大歌舞伎 夜の部 2016年10月

八代目中村芝翫、その息子たち四代目橋之助、三代目福之助、四代目歌之助のなんと4人同時襲名披露。実直な成駒屋を、皆で盛り上げよう、という雰囲気だ。歌舞伎座中央前のほうのいい席で1万9000円。休憩3回を挟み4時間弱。

幕開けは2009年に亡き団十郎で観た「歌舞伎十八番の内・外郎売」を、大薩摩連中をバックに松緑が演じる。設定はお馴染み、曽我ものの富士の巻狩。紅白の梅に彩られた雄大なセットと、登場人物のド派手なこしらえが問答無用で楽しい。工藤祐経の歌六が中央にドンと構え、大磯の虎の七之助が頼もしく、舞鶴の尾上右近も綺麗だ。ほかに滑稽な珍斎(吉之丞)、化粧坂少将(児太郎)、遊君喜瀬川(丸顔が可愛い梅丸)らがずらり。
花道に現れた外郎売が、問われて松緑と名乗っちゃたり、舞台中央で襲名のお祝いを述べたりと遊び心を披露してから、お楽しみの言い立て、ゆったりした立ち回り、対面。松緑さん、ハスキーで動きがキビキビしていいんだけど、もっとおおらかさが欲しいかな。

休憩後に口上。お約束藤十郎の紹介で、ベテラン勢は玉三郎、吉右衛門。菊五郎が「奥さんに怒られつつ」としっかり笑いをとり、我當さんは喋りは相当苦しいけど、後見を従えちゃんと座ってて偉い。ほかに雀右衛門、菊之助、松緑、歌六、又五郎が、芸から競馬まで先代の恩を語り、梅玉、魁春、東蔵が応援モード全開。七之助が「亡き祖父も父も、教え方は違えど魂で演じろ、という点では同じだった」としみじみさせ、児太郎が「父・福助も懸命にリハビリしている」と語って泣かせた~

食事休憩を挟んで、9月の文楽で通しを観た「一谷嫩軍記」から「熊谷陣屋」。歌舞伎ではこちらも亡き団十郎さんの名演が印象的だったけど、今回は芝翫型だそうで、熊谷の見得の形などがだいぶ違っていて、若々しい。
新・芝翫の熊谷が、まず花道で悲しみを表現。黒ビロードの綿入れに赤地錦の裃、赤っ面に芝翫筋で、力強い。たおやかな菊之助の藤の方に詰め寄られると、飛び上がって平伏しちゃう。「物語」では軍扇を掲げる豪快な平山見得で拍手。吉右衛門のビッグな義経が、歌昇、右近、副之助、歌之助を従えて登場。「首実検」では熊谷が制札をそのまま高く掲げるかたちに。はきはきした歌六の弥陀六が活躍し、大詰め、熊谷は有髪の僧形となって、幕を引かず全員が絵面におさまって世の無常を嘆く。
感慨は団十郎型のほうが強いけど、全体にリアルな印象。橋之助さん、一生懸命でした~ ほかに相模は魁春、家臣の堤軍次が橋之助。

短い休憩を入れて追出しは華麗に、9月夜の部に続いて玉三郎オンステージ。今回は「藤娘」だ。暗転からパッと照明がつくと、舞台いっぱいの松の大木に藤の花が咲き乱れ、中央に藤の枝と黒塗傘をもった娘がひとり。客席から思わずため息がもれる。左右に長唄囃子連中が控え、衣装を替えつつ、クドキ、ほろ酔いの藤音頭、派手めの有馬節と、力は入ってないんだけど、終始つややかでした。

客席には歌舞伎座ゆかりのベンチャー経営者らしき姿も。楽しかったです。

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秋らくご「子ほめ」「芝居の喧嘩」「笠碁」「普段の袴」「三枚起請」

よってたかって秋らくご’16 Night&Day 21世紀スペシャル寄席ONEDAY  2016年10月

いつもの落語会夜の部。予想外の講談もあって、とても充実してました! よみうりホール後ろの方で4100円。中入りを挟み2時間。

市馬の弟子・市若の元気な「子ほめ」のあと、神田松之丞が登場。昼の落語会は落語協会のベテラン揃いでやりにくかった、落語バージョンは本物じゃない、昼に練習しておいた、などと挑発して「芝居の喧嘩」。幡随院長兵衛と水野十郎左衛門の子分同士が、芝居小屋で激突する、平成中村座で観たシーンを汗だくで熱演。野次馬が繰り返し、パン!と扇を開くなど、ギャグも満載だ。初めて聴いたけど、神田松鯉門下でまだ30そこそこの2ツ目なんですねえ。この勢いは楽しみです。
座布団を替えて春風亭一之輔が登場。相変わらずの粋で、気張らない感じが松之丞と好対象で面白い。意外に初めて聴く「笠碁」。暇な旦那同士、下手な碁で待ったをするかどうかで口喧嘩になり、でもやっぱりお互いしか相手はいない。ただそれだけの話が、一之輔さんにかかると可愛らしくて、人情が染みて泣かせる。この日一番の出来。

中入り後は先に会長・柳亭市馬。上野・御成街道の道具屋で一服したお侍が、鶴の掛け軸を褒め、主人が文晁でしょうと受ける。煙管の火玉が袴に落ちても慌てず騒がず。見ていた職人が真似をして…と、お馴染みの馬鹿馬鹿しい展開だ。歌はなかったけど、一段とゆったりした語り口がいい。
トリは安定の柳家三三。髪が少し伸び、いっときの飄々とした枯れ具合から、またちょっと印象が変わって、そこはかとなく色気が漂う。この人は見るたび雰囲気が変わるなあ。噺は以前正蔵さんで聴いた「三枚起請」。鶴の絵などこの日のネタを織り交ぜながら、相変わらず人物の区別がくっきり。花魁を含めた登場人物全員が、なんとも浅はかで可愛げがある。
いやー、贅沢な会でした。

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仮名手本忠臣蔵 第一部

10月歌舞伎公演 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第一部  2016年10月

 

国立劇場開場50周年記念で3カ月にわたり、可能な場面すべてを網羅するという「完全」通し上演の1カ月め。実は初めて観る松の廊下の悲劇性、そして、じらしにじらして登場する由良之助のスケールを味わう。スターが活躍しない地味なシーンも含めて、貴重な名作伝承の現場だ。大劇場の中央上手寄りで1万円。休憩2回を挟んでたっぷり5時間強。

 

発端は若狭之助が主役、というのがまず発見だ。これが9段目加古川本蔵の、常識人の悲劇につながるんですね~ 外題は「本蔵」の間に「忠臣」が入っている、なんて読み解きもあるらしい。
まずコミカルな口上人形が出て「エヘン、エヘン」と、役人替名(やくにんかえな、配役)を語る、独特の演出が楽しい。声は頭取(名題下のベテラン)だそうです。そういえば海老蔵が「雷神(なるかみ)」で真似してた。さらに天王立下り羽(てんのうだちさがりは)という音楽、47回の柝をバックにゆっくりゆっくり幕がひかれ、大序・鶴ケ岡社頭兜改めの場。役者は首を垂れて「人形身」を演じ、七五三の鼓、東西声があってようやく順に動き出す。緊張マックスの第一声は足利直義(松江)。
銀杏が色づく八幡宮で、邪険な師直(左團次)に桃井若狭之助(若々しく錦之助)が激昂する。判官(梅玉)の妻・顔世御前の秀太郎がどっしり。直義の役者が江戸三座座主の家柄だと、石段の上で沓を履くとか、細かいしきたりがあるそうです。

 

ダイナミックな回り舞台の転換があり、二段目桃井館力弥使者の場。登城時刻を伝えに来た力弥(錦之助の長男・隼人)と許婚・小浪(歌六の長男・ぷっくり米吉)が初々しい。梅と桜に例えられるそうで、特に米吉が最高に可愛い! 後の悲劇が際立つ日常風景だ。夜となって松切りの場。金打(きんちょう)して若狭之助から師直を討つ決意を聞いた家老・本蔵(団蔵)は、松の枝を切って了解し、目覚まし時計をセットしておくと言ってから、急いでどこかへ出掛ける。

 

ランチ休憩の後、三段目・足利館門前の場。チャリ場「進物」で本蔵が師直家来の伴内(ベテラン橘太郎)に賄賂を渡し、「泥鰌踏み」で坂内がおかる(高麗蔵)に言い寄り、「文使い」で勘平(扇雀)とおかるが落ち合う。
きびきびと長い薄縁を転がして敷く舞台転換があり、山場の松の間刃傷の場。若狭之助に対し下手に出たうえ、顔世に返歌で冷たくされて不機嫌マックスの師直が、「鮒侍」などとさんざん判官を愚弄。ついに判官が斬りつけちゃう怒涛の展開だ。裏門の場では勘平・おかるが山崎へ落ちていく。このあたりも上演機会が少ないが、後の段の伏線となるシーンだ。

 

休憩を挟んで四段目は厳粛に、東京では41年ぶりという扇ケ谷塩治館花献上の場。腰元たちが活けた鎌倉山の桜の美しさが悲しい。家臣・斧九太夫、原郷右衛門の言い争いを、顔世が宥める。貫禄だ。
そしていよいよ「通さん場」判官切腹の場。上使の石堂(左團次が2役でうってかわり穏やかに)、薬師寺を迎え、すでに判官は死装束。
梅玉さん、上品で潔い。切腹に及んだその時、花道から由良之助(幸四郎)が駆けつけて、刀を託される。重いな~ 予習で読んだ丸谷才一「忠臣蔵とは何か」の、弔いの必然性にも納得。この短刀は力弥の役者が毎朝、判官役者の部屋で三宝にのせて受け取るとか、諸士たちは出番まで舞台上で正座して待つとか、つくづく特別なシーンなんですねえ。関係ないけど梅玉さんは終わってから、歌舞伎座夜の部の口上に駆けつけるとか。大変です。
髪を落とした顔世らが焼香し、亡骸が菩提所に送られると、家中の評議へ。籠城討死を主張する諸士(左團次の孫・男寅ら)を、
由良之助が「恨むべきはただ一人」と説得する。セリフ回しはどうにも独特だけど、さすがに朗々として、迫力満点だ。
大詰はダイナミックな表門城明渡しの場。「送り三重」をバックに、機構を生かして城のセットがぐんぐん後退。
幸四郎が存分に泣き、ラストは幕をひいて七三で見せてくれました。
そして物語は第2部へ続く…

 

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ウラワン 裏ドリワンダーランド2016

DREAMS COME TRUE かんぽ生命 Presents 裏ドリワンダーランド 2016  2016年10月

ベストヒットの「ワンダーランド」の翌年、あえてマニアックな選曲で構成する「裏ワン」。ライブに足を運ぶのはドリカムは2年ぶり、裏ワンは2012年に続き2回目だ。
座席指定システムのトラブルで、スタートが30分も遅れちゃったけど、不満の声はあがらず。広い会場いっぱいを使った演出と、中村正人の誕生日サプライズがあり、一段とあったかい雰囲気に大満足でした~ けっこう年齢層高め、家族連れが多い国立代々木競技場第一体育館、スタンド後ろの方で8996円。たっぷり3時間。
以下、ネタバレを含みます。

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