ナクソス島のアリアドネ
ウィーン国立劇場2016年日本公演「ナクソス島のアリアドネ」 2016年10月
4年ぶりの来日公演。1939年生まれ「ドイツ正統派」マレク・ヤノフスキで、後期ロマン派のリヒャルト・シュトラウスを聴く。コミカルな楽屋落ちストーリーと甘美な音楽は木に竹を接ぐようだけど、超絶技巧と迫力の歌唱で納得させちゃう。ステファン・グールドをはじめ歌手一人ひとりが高水準で、36人の小規模オケながら聴きごたえ十分だ。これが伝統の力か。東京文化会館大ホール、4F上手寄りのD席で32000円。30分の休憩を挟み3時間弱。
前半、バックステージものの「プロローグ」は背の高い窓がある広間。ウィーンの成金が屋敷でのオペラ上演を発注するが、同時に下世話なコンメディア・デッラルテ(即興劇)を上演しろと無茶を言い出し、若い作曲家(ズボン役ですらりと端正なメゾ、ステファニー・ハウツィール)が憤慨する。
鏡台が並ぶ楽屋に転換して、作曲家とプリマドンナ(伸びやかなソプラノ、グン=ブリット・バークミン)、テノール(新国立でお馴染みアメリカのテノール、グールド)、喜劇一座のコケティッシュな女優ツェルビネッタ(ソプラノ、ダニエラ・ファリー)、舞踊教師(テノール、ノルベルト・エルンスト)らがドタバタを繰り広げる。
後半の「オペラ」は劇中劇のギリシャ悲劇。広間にシャンデリアが輝き、後方の階段に招待客たちが座る。足の折れたグランドピアノ3台で表す荒れた島で、アリアドネ(バークミン)が恋人に見捨てられて死を望むが、訪れたバッカス(グールド)と恋に落ち、希望を見出す。
このパートは、リングばりの妖精3人(ロス出身の華やか黒人ソプラノ、ローレン・ミシェルら)が舞台回しを務め、ラスト20分はうねるような2重唱が聴衆を圧倒する。特に9月に急逝したヨハン・ボータの代役、グールドが期待通りに、輝かしい声でガンガン飛ばして舞台を制圧。まさにヘルデンテノールだ。第一声の迫力で、執事がぶっ飛ぶ小ネタも。
この合間に場違いな喜劇が挟まり、膨らんだ赤いスカートのツェルビネッタが「恋の相手なんて移り変わるものよ」とアリアドネを励ます。こちらのパートはフィガロのようで、作曲家が演じるピアノに乗せ、ファリーの超絶コロラトゥーラが冴えまくる。不安定な足場でも笑みを絶やさない。なんという技巧。派手な衣装の一座の男性陣とバレエダンサーも、キックボードや傘を使って大騒ぎだ。ラストは異質なはずのツェルビネッタと作曲家が両想いになってハッピーエンド。
「ばらの騎士」で成功した文豪ホフマンスタールとのコンビ作で、1916年に大幅改訂したもの。前半のオペレッタ風から、ワーグナー風、モールァルト風までてんこ盛り。上流階級が楽しんできたオペラのパロディなのか。でも実力派が揃えば優美に聴かせちゃう。
スタイリッシュな演出はスヴェン=エリック・ベヒトルフ。2012年ザルツブルク音楽祭でのプロダクションをベースに、設定を作曲当時の1910年代とし、メーンキャストの背後で無粋な屋敷の主人がやたら酒をあおったり、観客がひとりずつ灯りを持ったり、仕掛けもたっぷり。大人っぽかったです。