« 大歌舞伎「吉野川」「らくだ」「元禄花見踊」 | トップページ | 家族の基礎 »

ディスグレイスト

ディスグレイスト-恥辱-  2016年9月

テロの連鎖のただなかで、自由と機会の平等という価値が、いかに欺瞞をはらみ、崩れやすいものか。パキスタン系米国人、アヤド・アフタルの2013年ピュリツァー賞、2015年トニー賞受賞作を、栗山民也が手堅く演出。
馴染みの薄い宗教、人種をめぐる討論劇だけど、達者で色気のあるキャスト4人が緊迫感をもって演じ切る。よく入った世田谷パブリックシアター、上手寄り前の方で8800円。休憩無し、暗転を挟んで4場2時間弱。

ニューヨークの高級アパートのワンセット。パキスタン系ながらヤリ手で、高級シャツを着こなす渉外弁護士アミール(小日向文世)が、妻で白人画家エミリー(秋山菜津子)のモデルになっている。この絵がメトロポリタン美術館にある、17世紀にベラスケスがムーア人助手を描いた「フアン・デ・パレーハの肖像」に触発された、という導入がまず不穏だ。
偉そうなユダヤ系キュレーター、アイザック(安田顯)がやってきて、イスラム文化の価値を弁じたてる聡明なエミリーに共感を示し、その絵をホイットニー美術館に展示すると決める。
そのお祝いのホームパーティーの夜。アミールはエミリーと甥エイブ(平埜生成)に頼みこまれ、しぶしぶ逮捕されたイスラム指導者に関わったせいで、事務所で窮地に立っている。ゲストのアイザックと、黒人の妻で同僚弁護士ジョリー(小島聖)が偶然、早めにやってきたため、夫婦2組はみな酒が過ぎ、激しい口論に発展してしまう。それぞれ慎重に覆い隠してきた偏見や反感が容赦なく抉り出され、人間関係は崩壊。アミールは捨てたはずの信仰に操られたかのような行動へとなだれ込む。

複雑な屈折から、一気に精神のバランスを失っていく小日向が、機関銃のようにセリフを繰り出して、さすがだ。豊かな暮らし、睦まじい夫婦という努力の結晶が、実は恥辱だったという無残。小島は溌剌とした存在感が際立つが、結局、反イスラムとの相対評価で成功を掴むわけで、切ないです。
一方、芸術家コンビの秋山、安田は、自らの異文化に対する寛容に自信満々の冒頭から、破綻に至る落差が見事で、説得力がある。5月に観た「8月の家族たち」と、ピリッツァー作品が続く秋山は牽引力が抜群。安田はちょっと作り過ぎかな、と思ったけどメリハリがきいていた。魅力的な4人、特に小日向さんはもっと舞台に出てほしいなあ。

終盤、空疎になった居間で、冒頭の肖像と向き合う小日向。甘いのだろうけど、この難題を越えていく英知を、やっぱり願わずにいられない。今、観るべき1作。

終演後、ロビーでは舞台に登場した懐かしいNYの味、マグノリアベーカリーのケーキを販売していて、洒落てた。江波杏子さんらしき姿も。

20160924_005

« 大歌舞伎「吉野川」「らくだ」「元禄花見踊」 | トップページ | 家族の基礎 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ディスグレイスト:

« 大歌舞伎「吉野川」「らくだ」「元禄花見踊」 | トップページ | 家族の基礎 »