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家族の基礎

M&Oplaysプロデュース 家族の基礎~大道寺家の人々~ 2016年9月

倉持裕が作・演出でシアターコクーンに進出。ハチャメチャな家族コメディで笑わせる。松重豊を筆頭に役者陣が安定。けっこう男性客が目立つ劇場の、前列7列目までのぴあ特別席で9500円。休憩をはさみ3時間弱。

両親に顧みられずに育った大道寺尚親(松重)は、なんとか家族を喜ばせようと、弁護士から酒屋、劇場経営と、脈絡なく転身していく。しかし反抗的な娘・虹子(夏帆)は家出を企て、芸術の才に恵まれた息子・益人(林遣都)は不幸な事故に遭遇。妻・須真(鈴木京香)は劇場に身を寄せてきた活動家の瀬野尾(眞島秀和)に傾く……と波乱万丈。
チャーミングな屋敷のセットを回り舞台で転換し、ジョン・アーヴィングかいしいしんじかという、あり得ないドタバタをテンポよくみせる。常識はずれな人物たちが繰り広げる、いちいち噛み合わないワンシーンワンシーンが楽しい。
益人の怪獣デザインがヒットして、シン・ゴジラばりの「劇場版」になっちゃうのが面白いし、終盤には山本圭祐が大人なのに、虹子の息子で幼児の潮という、びっくりの設定も。横一列に並んだ食事シーンでほのぼのさせちゃうのは、強引だけど技アリか。

松重、鈴木はさすがのコメディセンスで、キュートな夏帆、初舞台の林もいいリズム。特に夏帆は気が強く、商才にたけ、実は家族のことを最もよくわかっているという役回りで、健気さが際立つ。
大道寺家に入り浸る染田(堀井新太)、転がり込んでくる女・由弦(黒川芽以)の若手陣も健闘し、旅回り一座の座長・五郎丸(六角精児)、元悪徳警官・千々松(我が家の坪倉由幸)が手堅い。

客席には正名僕蔵さんらしき姿も。

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ディスグレイスト

ディスグレイスト-恥辱-  2016年9月

テロの連鎖のただなかで、自由と機会の平等という価値が、いかに欺瞞をはらみ、崩れやすいものか。パキスタン系米国人、アヤド・アフタルの2013年ピュリツァー賞、2015年トニー賞受賞作を、栗山民也が手堅く演出。
馴染みの薄い宗教、人種をめぐる討論劇だけど、達者で色気のあるキャスト4人が緊迫感をもって演じ切る。よく入った世田谷パブリックシアター、上手寄り前の方で8800円。休憩無し、暗転を挟んで4場2時間弱。

ニューヨークの高級アパートのワンセット。パキスタン系ながらヤリ手で、高級シャツを着こなす渉外弁護士アミール(小日向文世)が、妻で白人画家エミリー(秋山菜津子)のモデルになっている。この絵がメトロポリタン美術館にある、17世紀にベラスケスがムーア人助手を描いた「フアン・デ・パレーハの肖像」に触発された、という導入がまず不穏だ。
偉そうなユダヤ系キュレーター、アイザック(安田顯)がやってきて、イスラム文化の価値を弁じたてる聡明なエミリーに共感を示し、その絵をホイットニー美術館に展示すると決める。
そのお祝いのホームパーティーの夜。アミールはエミリーと甥エイブ(平埜生成)に頼みこまれ、しぶしぶ逮捕されたイスラム指導者に関わったせいで、事務所で窮地に立っている。ゲストのアイザックと、黒人の妻で同僚弁護士ジョリー(小島聖)が偶然、早めにやってきたため、夫婦2組はみな酒が過ぎ、激しい口論に発展してしまう。それぞれ慎重に覆い隠してきた偏見や反感が容赦なく抉り出され、人間関係は崩壊。アミールは捨てたはずの信仰に操られたかのような行動へとなだれ込む。

複雑な屈折から、一気に精神のバランスを失っていく小日向が、機関銃のようにセリフを繰り出して、さすがだ。豊かな暮らし、睦まじい夫婦という努力の結晶が、実は恥辱だったという無残。小島は溌剌とした存在感が際立つが、結局、反イスラムとの相対評価で成功を掴むわけで、切ないです。
一方、芸術家コンビの秋山、安田は、自らの異文化に対する寛容に自信満々の冒頭から、破綻に至る落差が見事で、説得力がある。5月に観た「8月の家族たち」と、ピリッツァー作品が続く秋山は牽引力が抜群。安田はちょっと作り過ぎかな、と思ったけどメリハリがきいていた。魅力的な4人、特に小日向さんはもっと舞台に出てほしいなあ。

終盤、空疎になった居間で、冒頭の肖像と向き合う小日向。甘いのだろうけど、この難題を越えていく英知を、やっぱり願わずにいられない。今、観るべき1作。

終演後、ロビーでは舞台に登場した懐かしいNYの味、マグノリアベーカリーのケーキを販売していて、洒落てた。江波杏子さんらしき姿も。

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大歌舞伎「吉野川」「らくだ」「元禄花見踊」

秀山祭九月大歌舞伎 夜の部  2016年9月

飛び石連休の後半で、歌舞伎座の夜の部へ。吉右衛門、玉三郎のダブル人間国宝を楽しむ。昼の部に続き、大人っぽいお客さんが多い中央、前のほうで1万8000円。休憩2回で約4時間。

まず眼目の「妹背山婦女庭訓 吉野川」。近松半二作時代物の三段目だ。4月に大阪で文楽の通しを観るなど、予習は十分。そもそも国崩しの権力者・入鹿に見張られているシーン、と知って観ると、緊迫感が高まる。
若い2人はロミオとジュリエット的な暴走ではなく、また誰かの犠牲になるのでもなく、自ら信じる大義と恋に殉じる。その静かな決意が、親2人を時の権力との対決へ導く、深い宿命の物語なんですねえ。終始、非常にゆったりしたテンポだけど飽きさせません。

満開の桜に滝車、左右に竹本の床という、スケールの大きいしつらえは、ほぼ文楽と同じ。下手・妹山、金の屛風に雛人形の太宰屋敷は、つかの間のチャリだ。雛鳥(りりしい菊之助)の恋を応援しようと、腰元・桔梗(時蔵の長男・梅枝がたおやか)、小菊(次男・萬太郎)が川に恋文を流す。一方の上手・背山、一段高い銀屛風の大判事の館では、久我之助(染五郎)が経文を読みつつ、父の真意に思いを巡らす。柏の葉を流し返すけど、つれない感じなのは後段への伏線か。
そして両花道を、二本差しが似合う気丈な太宰の後室定高(玉三郎)と、かなり高齢のつくりで、とぼとぼ歩く大判事清澄(吉右衛門)が戻ってきて、客席=川を挟んで言葉をかわす。朗々として、さすがの存在感。入鹿に服従を迫られた苦悩と、真意を隠す感じがくっきり。特に定高の覚悟のほどが際立つ。
その後は怒涛の展開で、久我之助が帝への忠義から切腹。雛鳥も思いを貫くため、進んで死を受け入れちゃう。親同士があまりの衝撃に、パントマイムで状況を伝えあうシーンの切迫感から、びっくりの「雛流し」へ。首になっての嫁入りという凄惨なシーンなのに、琴を加え、哀切にしちゃう技が歌舞伎らしい。大判事が2人を讃える名セリフ「閻魔の庁を名乗って通れ」は、絞り出すようで、剛直かつ悲痛。今回初めて、初代直系の型だそうです。
有名な演目だけど役者が限られ、上演機会が少ないのも、ちょっと納得の舞台でした~

後半はがらり雰囲気が軽くなって、30分の休憩後に「眠駱駝物語 らくだ」。岡鬼太郎作で、1928年(昭和3年)に初演。鶴瓶さんで聴いた関西弁の落語が、登場人物全員のダメ人間ぶりで強烈だったので、歌舞伎版はさらっとした印象だ。
第一場駱駝住居の場は、もう弔いのしつらえがしてあり、長屋のおばさんが念仏を唱えている。半次の松緑は若々しい遊び人ぶりがお似合い。悲劇の若武者から冴えない紙屑買久六に180度転換した染五郎は、健闘だけど、笑いのセンスは今ひとつかな。
セットが回って、第二場家主佐兵衛内の場では佐兵衛(歌六)、女房おいく(人間国宝・東蔵)が安定の小ずるさぶり。駱駝の馬吉(亀寿)がかんかんのうを踊る。第三場元の駱駝内の場で、久六が酔っ払う。ラストは半次の妹おやすが駆け込んできて、母親の死を告げる。たれ目の米吉(歌六の長男)が相変わらず可愛いけど、オチはあまりすっきりしなかった。

25分の休憩の後は1878年(明治11年)初演の短い舞踊「元禄花見踊」で、玉三郎オンステージだ。なにしろしょっぱなから暗い舞台の中央、はらはら舞う桜の花びらの下、スポットライトを浴びてせり上がっちゃう。お見事。
ぱっと明るくなると後方に「二上り」の長唄囃子連中が並び、元禄風こしらえの男女が華やかに。元禄の男は亀三郎・亀寿兄弟が折り目正しく、歌昇が色っぽい。ほかにころっとした萬太郎、長身の隼人(錦之助の長男)ら。元禄の女は梅枝、種之助(歌昇の弟)、米吉、児太郎(福助の長男)、芝のぶら。
玉三郎が引き抜きの後、ラストに迫力ある黒地の着物に着替えて、格好良く打ち出しとなりました。

ロビーでは桐竹勘十郎さん、春風亭一之輔さんに遭遇! 

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大歌舞伎「碁盤忠信」「太刀盗人」「一條大蔵譚」

秀山祭九月大歌舞伎 昼の部 2016年9月

初代吉右衛門を顕彰する秀山祭10周年。襲名50年の当代が、「一條大蔵譚」で気迫の舞台だ。次世代では娘婿・菊之助の芝居らしさが際立つ。両花道が期待感を盛り上げる、歌舞伎座中央前の方のいい席で1万8000円。休憩2回で4時間半。

幕開けは「碁盤忠信」。1911年(明治44年)に7世幸四郎の襲名興行で初演された作を、染五郎が2011年(平成23年)に復活したそうだ。千本桜でお馴染み忠信を素材に、歌舞伎のけれんをぎっしり詰め込んでいて若々しい。
第一場鳥辺野の場は登場人物がずらり並んで、義経拝領の宝剣をめぐり、古風なだんまり。そしてお勘(いわくありげな菊之助)、忠信(染五郎)が両花道を使って華やかな引っ込み。
第二場堀川御所の場は、義経が去った後の屋敷が舞台。上手の御簾があがると大薩摩、下手に常磐津で贅沢です。まず酒を売りに来たお勘が、鮮やかに言い立て。続いて身を隠していた忠信が舅の入道(歌六がひょうきん)相手に、風雅に吉野山の様子を踊る。入道が忠信を討とうとすると、小車の霊(児太郎)がすっぽんから現れて救い、忠信は豪快に碁盤を振り回して見得を切る。お馴染み番場の忠太(亀蔵)のワルぶりが安定。
第三場堀川御所奥庭の場では、お約束のゆったりした立ち回り。布を広げて碁石にみせるなど、大らかです。ラストは横川覚範(松緑)と対峙して幕となりました。

休憩を挟んで「太刀盗人」。狂言「太刀奪(たちうばい)」を素材に、1917年(大正6年)に初演した舞踊劇だ。手堅いけど、ちょっと地味だったかな。舞台後方に長唄囃子連中が並び、松羽目らしい片砂切(かたしゃぎり)で幕開け。田舎者の万兵衛(錦之助)が持つ太刀を、すっぱ(スリ)の九郎兵衛(又五郎)が狙う。目代(代官)の左衛門(長身の彌十郎が堂々)の問いに、九郎兵衛が万兵衛を真似て答えるさまが滑稽。ラストは九郎兵衛が逃げ出し、「追廻し」となりました。

いよいよ休憩後に、楽しみにしていた「一條大蔵譚(ものがたり)」。享保年間の時代物「鬼一法眼三略巻(きいちほうげん さんりゃくのまき)」の四段目で、吉右衛門の演技力を堪能する。謀略渦巻く平家全盛の時代。権力転覆を胸に秘め、自身はかりそめの服従を貫く大蔵。公家の気品を漂わせつつ、実はいつも奥歯を噛みしめている。実にニヒルな造形だなあ。
序幕檜垣茶屋の場は明るい御所の門前。舞台いっぱいの腰元らを引き連れ、能狂言見物に明け暮れる大蔵卿(吉右衛門)が、門を飛び出すシーンから見事な阿呆ぶりで衝撃的。白塗りで目がすっかり細くなっちゃってるし、狂言師志願のお京(たおやかに梅枝)の踊りに見とれて、床几から転げ落ちるし。しかしお京を見守る夫・鬼次郎(碁盤忠信から一転、きりっとした菊之助)に気づいて、花道でちらりと警戒感を現す。
続く大詰大蔵館奥殿の場では、まず12単で楊弓に興じる常盤御前(魁春)を、源氏再興を狙う鬼次郎・お京が責める。常盤は義朝死後、子を守るため清盛に身を任せた、今も楊弓の振りで清盛を調伏(呪い)していると明かし、ともに嘆く。
それを盗み聞いて清盛に注進しようとする家老を、一転、毅然とした大蔵卿が討ち、公家なまりで源氏に寄せる思いを吐露。びっくりですね~ 源氏決起のタイミングを進言する歌と、源氏の重宝・友切丸を鬼次郎に託す。扇を広げた決まりが鮮やかだけど、それよりも阿呆に戻って、家老の首をもてあそぶラストがなんとも不気味。凄みがありました~

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「一谷嫩軍記」「寿式三番叟」

第一九六回文楽公演 第1部 第2部   2016年9月

古典芸能漬けのシルバーウイーク。まずは国立劇場小劇場へ。開場50周年記念と銘打った9月文楽公演は、並木宗輔が平家の滅びの美を描いた時代物「一谷嫩軍記」の通し狂言だ。
部分的には文楽で2回、歌舞伎で2回観たことがあり、特に團十郎さんの熊谷は忘れられないけど、通しは珍しいとのこと。勘十郎さんの熊谷を軸に、組討なども出て、改めて起伏に富む名作との印象を強くする。後ろの方、やや上手寄りで7000円。休憩2回を挟んで、たっぷり4時間半。

初日は第一部を観劇。初段、堀川御所の段は大夫は簾内、人形も黒衣姿だ。大将義経(幸助)が俊成の娘・菊の前(簑紫郎)に具申され、敵ながら平忠度の歌を千載集に入れることを許可し、2つの重要な命を下す。
続く敦盛出陣の段は、中の始太夫・団吾が聴きやすく、奥の文字久太夫・清介もなかなか安定。
舞台は福原の平経盛の館だ。まず息子・敦盛の許嫁である玉織姫(一輔が淡々と)が、連れ戻しに来た実父の使者をいきなり切り捨てちゃってびっくり。そして祝言の席で敦盛(和生)が、実は後白河院の落胤という秘密が明らかになる。経盛は止めるものの、敦盛は平家の一員として覚悟の出陣。馬にまたがった若武者姿が格好いい。ラストは母・藤の局(勘彌)たちが敵を蹴散らすアクションで、強い女性が痛快。また導入を観ると、平家側がのっけから敗戦を悟っていて、全編を無意味さが覆うニヒルな物語だということがよくわかる。

30分の休憩後は陣門の段から。一ノ谷の陣所で、直実の若い息子・小次郎直家(和生が2役)が、聞こえてくる笛の音に風雅を感じ、いっとき戦さを虚しく思う絶妙のフリ。先陣で手傷を負い、熊谷(堂々と勘十郎)が助け出す。
景色が開けて、須磨浦の段へ。敦盛を追ってきた玉織姫が、なんと横恋慕する平山武者所(玉佳)に斬られちゃう。
そしていよいよ素浄瑠璃でも取り上げられるという、組討の段。咲甫太夫・錦糸が音楽的で盛り上がる。馬で海に乗り入れた敦盛と熊谷(盤石の勘十郎)が一騎打ち。半分ぐらいの大きさの遠見の人形から、一瞬で通常の大きさに切り替わるスペクタクルが盛り上がる。その後、熊谷は平山が見ているため、逃がすことができず、ついに敦盛の首をはねる。これが実はすでに直家なんですね~ 車匿(しゃのく)童子を引用した、別れの悲痛。直実の、両のこぶしを目に当てて、のけぞって嘆く仕草が、豪快かつ胸に迫ります。

10分休憩を挟んで、冒頭で義経が発したもう一つの命令を追う林住家の段、通称「流しの枝」。本公演では41年ぶりだとか。中の睦太夫・清志郎が朗々とし、奥の千歳太夫・宗助が気合十分で聴かせます。
摂津にある、かつて菊の前の乳母だった林(和生さん大活躍)のあばら家で偶然、忠度(立派に玉男)と恋人・菊の前(可愛い蓑助さん)が再会。義経から短冊を結んだ山桜の枝を託された岡部六弥太(玉志)が訪ねてきて、忠度の作が詠み人知れずながら、千載集に入ることを伝える。思い残すことはないと、さっそうと覚悟の負け戦に向かう忠度。文武両道の人です。その右袖を、菊の前に与え、戦場で会おうという思慮深い六弥太。大人っぽい段でした!
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そして翌日に第2部を鑑賞。今回は前のほう中央のいい席だ。休憩2回で4時間強。

幕開けは毎回楽しみな、五十周年を寿ぐ祝儀曲「寿式三番叟」。松の画を背景に、正面雛壇に津駒太夫、呂勢太夫、咲甫太夫ら、寛治、藤蔵、清志郎らの9丁9枚が、ずらり並んで壮観だ。
厳かに文昇の千歳、玉男の翁が舞ったあと、リズミカルな三味線に乗って、三番叟コンビが袖を振る揉の段、四方に種を蒔く鈴の段へ。今回は玉勢・簑紫郎。思えば2009年に勘十郎・玉男、2011年に幸助・一輔、さらに2013年には文昇・幸助で観たんだったよなあ。世代交代を感じます。

15分の休憩後、「一谷嫩軍記」の続きで三段目、弥陀六内の段から。御影の石屋・ 弥陀六の家へ、石塔を注文した謎の若者・実は敦盛(和生)が訪ねてきて、娘・小雪(紋臣)の思いを退け、笛を託す。
つづく脇ケ浜宝引の段は、お楽しみのチャリ場となり、咲太夫・燕三。病み上がりという咲さん、迫力には欠けるけど、唯一の切り場語りとあって軽妙さはさすがだ。「広島カープの赤」「玉男、そうそう玉織姫」とか、ジョークを連発!
弥陀六が建てた石塔のところへ、藤の局(勘彌)が追手から逃れてきて、小雪の持つ敦盛の青葉の笛を発見。百姓たち(ツメ人形がとても個性豊かだ)が、敦盛の最期を口々に語る。
藤の局を追って番場忠太、須股運平(お父さんの前名を継いだ簑太郎、カシラはひょうきんな鼻うごき)が現れ、百姓たちと揉み合って運平が死んじゃう。ちょっとお下劣な大騒ぎののち、源氏方への報告役をクジで決めることになり、庄屋孫作が引き当てる。段切れは忠臣蔵のパロディだそうで、茶目っ気満載なんだなあ。

30分の休憩を挟んで、一転シリアスに戻って熊谷桜の段。文楽では玉男さんの直実を観たことがある。まず須磨の熊谷の陣屋で直実の妻・相模(清十郎が抑制的に)が藤の局と再会し、敦盛の敵討ちを迫られ苦悩する。
そしていよいよ、義経の制札の意味が明らかになる熊谷陣屋の段。前は呂勢太夫・清治が精いっぱいの奮闘だ。後は英太夫・團七。巧いものの、祖父の前名・6代目呂太夫襲名が決まっただけに、もうひとつパワーが欲しいかな。
敦盛の墓参から戻った直実が、やけにピリピリしているのが意味深な伏線だ。相模、藤の局に敦盛の最期を語るくだりは、浄瑠璃らしくメロディアスで、母を思うセリフも深い。青葉の笛を弔うと、障子に敦盛の影が映り、形見の鎧が現れる展開が鮮やかだ。
そして直実が首桶を持ってくると、中央から颯爽と義経(幸助)が登場し、怒涛の首実検へ。制札を使った見得がなんとも大きい! 義経は弥陀六の正体を見抜いて、鎧櫃にひそむ敦盛を託す。熊谷が舞台中央で僧形を表し、「16年はひと昔」の名セリフ。つくづく無常です。
いやー、2日間、堪能しました!

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クラゲノココロ モモノパノラマ ヒダリメノヒダ

マームとジプシー『クラゲノココロ』『モモノパノラマ』『ヒダリメノヒダ』  2016年9月

作・演出藤田貴大。劇団初期の2007年にカフェで初演したという「クラゲノココロ」、2013年に観た「モモノパノラマ」、そして2015年の記憶も新しい「ヒダリメノヒダ」の3作を統合、再構築して上演。半径5メートルに散りばめられた死と、そんな喪失に直面したときの、どうしようもない無力感が、3作ぶん凝縮された感じだ。彩の国さいたま芸術劇場大稽古場で、整理番号付き全席自由で3500円。休憩無しの2時間弱。

先月同じ会場で観たワークショップ公演と同様、シンプルな暗い空間の3方を客席で囲むスタイルだ。中央のステージ部分を、光る枠2列で区切り、後方にスクリーンを配置。
物語は「ヒダリメノヒダ」がメーンになっていて、どこか懐かしい印象だ。観る側にとっては、リフレインのリフレインですね。若者の他愛無い日常、ショッキングな級友の死、田舎町からの旅立ち、そしてペットの死をきっかけに久しぶりに帰郷して思い出すこと。
身体表現は割と抑え目で、断片的なセリフが時空を超えて共鳴するシーンが印象的だ。相変わらず、女優陣の声が抜群に切ない。ベース、ドラムが入った「グッバイ・イエロー・ブリック・ロード」は胸に染みいるなあ。

出演はいつものメンバー、石井亮介、尾野島慎太朗、川崎ゆり子、中島広隆、成田亜佑美、波佐谷聡、吉田聡子に、ドラムの山本達久が参加。

METライブビューイング「連隊の娘」

METライブビューイング アンコール2016 「連隊の娘」  2016年9月

夏のアンコール上演で、ドニゼッティの明るい旋律に彩られたフランス風喜劇を楽しむ。イタリア出身マルコ・アルミリアートの指揮で、ファン・ディエゴ・フローレスのハイC連発と、歌う女優ナタリー・デセイの技巧が激突。2008年4月26日の上演だ。休憩を挟み3時間弱。東劇で3100円。

物語は素朴で、やや単調なほど。ナポレオン戦争当時のチロル地方に住む農民トニオ(フローレス)は、両親と生き別れフランス軍で育てられた美少女マリー(デセイ)と恋に落ちる。シュルピス軍曹(アレッサンドロ・コルベリ、バス)らに結婚を認めてもらいたい一心で入隊。ところがマリーはベルケンフィールト侯爵夫人(達者なメゾ、フェリシティ・パルマー)の姪とわかり、パリの大邸宅へ連れていかれる。
後半、マリーがしとやかにしつけられ、あわや貴族と結婚、というタイミングで、立派に昇進したトニオと連隊が乗り込んでくる。実はマリーは実の娘、という秘密を暴露された公爵夫人は、2人の真の幸せを願って結婚を許し、ハッピーエンドに。

やはりフローレスの輝く声、突き抜け感が圧巻だ。「友よ、きょうは何と楽しい日」はアンコールこそなかったものの、9回のハイCを軽々聞かせ、拍手が止まらない。デセイはもちろん巧いけど、前半の男の子のような服装や、無邪気なアイドルらしさはイマイチだったかな~
ローレン・ペリーの演出は1幕は美しい山岳、1幕は重厚な屋敷で正統派でした。

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