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文楽「妹背山婦女庭訓」

第一四二回文楽公演 2016年4月

7年ぶりに本場大阪の国立文楽劇場に遠征した。以前より席がゆったりしていい。お目当ては春日大社第六十次式年造替に合わせた、通し狂言「妹背山婦女庭訓」、特に山の段! 人形遣いの人間国宝・吉田文雀が引退しちゃうし、太夫切り場語り・咲太夫の病気休演も重なって、引き続き厳しい状況だけど、だからこそ次世代を応援する気分。中央前のほうのいい席で6000円、。

演目はお馴染み近松半二らによる時代物で、雄大な大和地方の四季を舞台に、豪傑笑いの国崩し・蘇我入鹿と藤原鎌足・淡海親子の攻防を描く。とはいえメーンは決して権力者ではなく、巻き込まれちゃう無力な人々の悲劇、というところはお約束だ。

2日に分けて、まず第二部から。二段目・四段目で構成する、休憩2回を挟み5時間の長丁場だ。鹿殺しの段から掛乞の段、万歳の段まではコミカル。鎌足の旧臣で、今は猟師の芝六(玉男)の粗末な暮らしと、匿われている天智帝(勘寿)らの高貴さとのギャップで楽しませる。
そして前半の山場、芝六忠義の段へ。英太夫・宗助がとても聴きやすい。神鹿殺しの石子詰・十三鐘の伝説をベースに、互いを思い合う芝六と賢い倅三作(玉翔)の情感が胸に迫る。弟・杉松があまりに憐れだけど。

後半はお馴染み、ジェラシー娘お三輪ちゃんの犠牲談。七夕の杉酒屋の段は、咲大夫に替わって咲甫太夫・燕三、道行恋苧環は津駒太夫以下5丁5枚を寛治、寛太郎らが締める。以下は2013年にも鑑賞した場面だ。コミカルで豪胆な鱶七上使の段の文字久太夫・清志郎は、笑いをもっと盛り上げてほしいかな。
そして姫戻りの段からクライマックス金殿の段へ。津駒太夫・団七は安定感がある。官女(玉誉ら)にいたぶられるお三輪(技巧が光る勘十郎)が、気の毒でいたたまれない。でも鱶七(豪快に玉也)に刺されてからは、淡海(クールな清十郎)への愛を貫いて犠牲になるドラマチックな展開だ。陰ですべてを操る鎌足が頼朝のような存在で、歴史の非情を象徴。庶民はただ目の前の人に真心を尽くすのみだ。常に左右に位置する玄蕃に幸助、弥藤次に玉佳。

2日目の第一部は初段、三段目を中心に、久我之助(格好いい勘十郎)と雛鳥(簑紫郎)の悲恋が語る。ちょうど千秋楽の大入りで、休憩2回で4時間半。
まず小松原の段で若い2人がひとめで恋に落ちる。腰元の下世話なけしかけぶりが可笑しい。雪が舞う蝦夷子館の段では、めどの方(文昇)の犠牲で蝦夷子(玉志)が自害するものの、息子・入鹿(玉輝)のスケールの大きい悪党ぶりが明らかになっちゃう。傲慢入鹿の金ぴか衣装がいっそ爽快。
淡海(清十郎)が忠誠を示して天智帝(勘壽)を禁裏から救い出す猿沢池の段、謀反を起こした入鹿が、大判事(玉男)と定高(和生)に味方につくようプレッシャーをかけ、帝派の決起を聞いても悠々と馬で去る太宰館の段をへて、いよいよ念願の妹山背山の段へ。

季節は華やかな春。中央に蛇行して奥行きのある吉野川、上手に大判事の館、下手に定高の館。床も異例なことに左右にあって、交互に語っていくバトル形式だ。対立する人物を視覚的に表し、なんとも豪華でダイナミックです。川を渡る雛飾りを嫁入り道具に、首になっての祝言というのは無茶なんだけど、人形ならではの表現と音楽性でカタルシスがある。
物語は大判事と定高が、それぞれ入鹿に息子の久我之助、娘の雛鳥を差し出せと迫られ、悩んだ末に死なせちゃう。親2人の意図が暗黙のうちに一致し、川を挟んで桜の枝をやり取り。領地を巡る長い対立の克服というより、邪悪な権力者・入鹿にいったんは従いかけながら、勇気を出して良心に従う印象だ。特に定高の芯の強さったら。
決断させたのは若い子世代なわけで、決して受け身でなく、宿命的な恋を貫いて死を覚悟する。ありがちな親の忠義の犠牲とかではないんですねえ。よくロミオとジュリエットに例えられるけど、未熟ゆえの暴走ではなく、抗えない時代のうねりのなかで意志を通す強さが感じられる。
床は背山が西風の勇壮バージョンで、大判事の千歳太夫、文字久太夫が飛ばしまくり、藤蔵、富助があおる。妹山が東風の華やかバージョンで、呂勢太夫、咲甫太夫、清介を、ベテラン清治がリードしていく。琴に清公。1文字ずつの割台詞など、火花散らす熱演に緊張感があって盛り上がる。ラストはちょっと絶叫調だったかな。
人形は雛鳥だけ交代して、お待ちかね簑助さんが登場。可憐で情感たっぷりだ。足はだいぶ辛そうだったけど。

幕間にラッキーにも山の段を舞台見学。ちょっと吉野川の波を動かしちゃったりして、盛りだくさんでした! ロビーでは勘十郎さんらが震災救援の募金活動も。

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