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落語「火焔太鼓」「天狗裁き」「らくだ」

COREDO落語会第五回  2016年2月

2014年の初回から久しぶりに、山本益博プロデュースの落語会に足を運んだ。シュールで高水準の高座が並んだなかでも、笑福亭鶴瓶の1時間強の大ネタ「らくだ」が圧巻! 観て良かったです。COREDO室町1・日本橋三井ホールの中央上手寄りで5000円。中入りを挟み2時間半。

まず益博さんがあいさつで、めくりの寄席文字をちょっと解説して、1席目は橘家圓太郎。初めて観たけど、小朝さんの弟子ですね。電車内の老夫婦、五郎丸をゲンゴロウと言い間違える妻と、指摘を我慢する夫というコミカルなマクラから「火焔太鼓」。商売下手の道具屋・甚兵衛がお武家に持ち込んだ古太鼓が、なんと300両で売れ、いつもやりこめていた女房も仰天する。今度は半鐘だ、と張り切る甚兵衛に、「おジャンになるよ」というサゲ。
思わぬ大金を目にして悶絶するだけのような噺だけど、「惚れてるか惚れてないか」とこだわる夫婦が微笑ましく、古典らしい語り口がいい。

続いて柳家花緑。しばらく見ない間に、髪形が七三からトンガリに変わっていてびっくり。昨年の舞台で兵士を演じるため五分刈りにしたら、祖父に似てきたと言われる、舞台はアウェーで緊張する、不安で出とちる夢を観た、とちったのはネズミの着ぐるみの桂米朝に驚いたから、その米朝に稽古をつけてもらって「好きにやりなはれ」とだけ言われたネタ、と振って「天狗裁き」。
八五郎が寝言を言うので、女房がどんな夢だったか尋ね、夢なんか見てないと答えて喧嘩になる。仲裁に入った幼馴染の男も、大家も知りたがって、話さないなら長屋を出ていけ、となり、揉め事はお白洲へ。奉行まで夢を尋ねて、答えないと松の木に吊るしちゃう。突風にあおられて高尾山まで飛ばされ、ついに天狗に問い詰められる。首を絞められ苦しむところで目が覚め、女房が「うなされてたけど、どんな夢?」。
夢は見てないと繰り返すだけの噺だけど、あっさりとテンポがよく、次々登場する人物の演じ分けがクリアだ。

短い中入り後、客電を落とし、釈台を置いて出てきた鶴瓶が、マクラ無しでいきなり「らくだ」。冒頭、兄貴分がふぐ毒にあたったらくだを見つけ、「どぶされくさって」「ごねてけつかる」とつぶやく関西弁で、一気に引き込まれた。低くドスの効いたセリフが、尋常でない無法者ぶりを実感させる。葬礼(そうれん)をととのえるべく、通りかかった気の弱い屑屋が命じられて月番に香典を、次いで大家に酒肴をせびりに行き、死人を背負って「かんかんのう」を踊る羽目に。
漬物屋で樽までせしめ、一息ついて酒を呑むと一気に形成逆転。屑屋が酔って身の上を語り、急に強気になって兄貴分に命令。剃刀を借りてこさせて、らくだの頭を剃り、樽をかついで千日前の火屋まで運んでいく。部屋を出ようとして、知らんぷりを決め込む長屋を眺め、人間って哀しなあ、とわめくシーンの強烈な無常感が素晴らしい。
それから「葬礼や葬礼や」と呼ばわって歩き、商家に因縁をふっかけたりする間に樽の底が抜け、橋のたもとで酔いつぶれていた願人坊主を拾っちゃう。間違えて焼かれかけた坊主が「ここはどこ」「火屋だ」「冷やでいいからもう一杯」。鶴瓶バージョンは続きがあって、らくだが息を吹き返し、足をひきずりつつ帰ってきちゃう2段サゲでした。
とにかく立派な人が一人もでてこない人物造形が見事だ。生前「家賃って何」とうそぶいていたらくだ、その死を喜ぶ近所の人々、床を踏み鳴らして凄む兄貴分。そして何より屑屋だ。前半、散々な目に遭うので、聴衆がうっかり感情移入していたら、酒と博打で女房を死なせたと告白しだしちゃう。
鶴瓶は笑いのなかに絶妙の間を挟み、それぞれのダメ人間ぶりと、暗く凄惨なシーンをじっくり描く。恐らくマスメディアでは不可能な、古典かつパフォーミングアーツならではの表現だ。
志ん朝、談志が絶賛した師匠・松鶴の十八番だそうで、しびれる噺だろうけど、説得力十分。恩師や母の思い出で泣かせるだけでなく、こういう伝承があるから落語は面白い。益博さんのリクエストで聴けてラッキーでした~

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