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文楽「靭猿」「信州川中島合戦」「桜鍔恨鮫鞘」「関取千両幟」

第一九四回文楽公演 第一部 第二部  2016年2月

2日連続で足を運んだ国立劇場小劇場。人間国宝に指定されたばかりの8代目豊竹嶋大夫引退公演とあって、掛け声が多くて盛り上がる。充実した人形陣、若手台頭の三味線陣に支えられ、咲甫大夫、文字久大夫が奮起した感じだ。3部制の1、2部を連続で計6時間は、さすがに疲れたけど。それぞれ前の方、やや下手寄りのいい席で5900円。

幕開けは申年にちなんだ、松羽目の明るい舞踊「靭猿」。もとは近松門左衛門作品の劇中劇だそうです。2014年に歌舞伎の三津五郎さん復活公演で観た演目で、感慨深い。
大名が猿曳を見かけ、靭(矢を携帯する容器)に皮を所望するが、健気な猿の芸を観て諦め、皆でめでたく舞う。床は竹本三輪大夫以下、鶴澤清友以下5丁5枚。人形は大名が文司、猿曳が勘壽。蓑次の猿の仕草が、コミカルで可愛い。

ランチ休憩の後、近松69歳の作「信州川中島合戦」。なんとかして武田方の軍師・山本勘介を獲得しようとする上杉輝虎(後の謙信)と、家臣や家族のせめぎ合いが重厚な時代物だ。
プログラムの解説によると、原作の姿が残っている作だそうで、特に後段は昭和48年復活以来、引退したキング住大夫しか手掛けなかったという。確かに古風だし、大詰めは動きが少ないけど、そこまでの輝虎、越路のせめぎ合いはダイナミックで意外に面白かった。

まず輝虎配膳の段は、奥の咲甫大夫、清介が朗々と。輝虎(玉也)と執権・直江山城守(大河ドラマになった兼続ですね。幸助さんが格好良く)は、勘介を口説く目的で、直江の妻・唐衣(一輔)が勘介の妹という縁を利用。勘介の老母・越路(和生)と妻・お勝(簑二郎)を居城に招く。
輝虎自ら烏帽子姿で給仕する奇手に出るものの、気が強い越路がきっぱり拒絶し、短気な輝虎が刀を抜く事態に。言葉の不自由なお勝が、必死に琴にのせて宥める。ドラマチックです。琴は清公。

続く直江屋敷の段は文字久大夫、藤蔵が好調で嬉しい。母急病というお勝の手紙に、勘介(堂々と玉男)が駆けつけるが、真っ赤な嘘。勘介が激怒するものの、実は手紙は唐衣の偽装。共に体に不自由を抱える悲しい夫婦は、やがて互いを思いやる。
唐衣とお勝が対決していると、越路がなんと刀の上に身を投げ出す。このへんから時代物お約束の、怒涛の無茶な展開に。ことを収めようと、自らを犠牲にした越路に感銘した輝虎、勘介が髪を落とし、さらに輝虎が「武田に塩を送る」と宣言して、幕となりました。

30分の入れ替えを挟んで、第二部はまず世話物「桜鍔恨鮫鞘(さくらつばうらみのさめざや)」から鰻谷の段。東京では45年ぶりだとか。縁切り物で、地味なんだけど、切の咲大夫、燕三が哀感たっぷりで、さすがの説得力だ。
女房・お妻(勘十郎さんが、昨日とうって変わって色っぽく)と母(簑一郎)は、夫・古手屋八郎兵衛(和生が手堅い)のため金を工面すべく、こともあろうに八郎兵衛を縁切りして香具屋弥兵衛(いやらしく勘市)を、持参金付で婿に迎えようとする。そうとは知らない八郎兵衛は、屈辱と娘・お半(玉誉がなかなかきめ細かい演技)を追い出す仕打ちに激高し、お妻と母を斬ってしまう。幼いお半が、無筆のお妻から託された書き置きを語るところが悲しい。

短い休憩後、いよいよ引退披露狂言の「関取千両幟(せきとりせんりょうのぼり)」となる。まず床に嶋大夫と寛治が並び、呂勢大夫が「心細い限り」と挨拶してから、猪名川内より相撲場の段。2013年に呂勢さんらで聴いた娯楽作だ。

嶋大夫は女房おとわ一役をしみじみと。引退にしては出番が少なく、物足りないけれど、英大夫、津国大夫、呂勢大夫、始大夫、睦大夫、芳穂大夫と大勢の一門が、入れ替わり立ち代わり登場して華やかだ。
お話は夫婦もの。人気力士の猪名川(一部に続いて玉男)が200両の工面を迫られるところへ、ライバル鉄ケ嶽(文司)から「魚心あれば水心」と八百長をもちかけられて悩む。おとわ(待ってました、簑助)が髪を梳くシーンと、クドキが情愛深い。胡弓は錦吾。
いったん床が寛太郎くん一人となり、呂勢さんの紹介で、寛治さんの家伝統の櫓太鼓曲弾きを披露。コミカルでアクロバティックなパフォーマンスに加え、よく通る掛け声が頼もしいぞ!

セットが変わり、大詰め取り組みの三味線は宗助。なんと鉄ケ嶽が琴バウアーが披露する大サービス! 「200両進上」の声に、猪名川は無事勝ちを納めるが、そのために身を売ったおとわが駕籠で去っていく。嶋大夫さんが深々と頭を下げて幕を閉じました。いや~、盛りだくさんでした。

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