志の輔らくご「大黒柱」「新版猫忠」「大河への道」
PARCO Presents「志の輔らくご in PARCO2016」 2016年1月
20年の節目を迎え、パルコの建て替えでいったん終了となる恒例の正月公演。夫婦連れや若者が目立ち、相変わらずの人気ぶりだ。ロビーで記念プログラムを買い、福引でクリアファイルを貰う。今年はうまく席がとれて、パルコ劇場中央あたりで6500円。休憩を挟んで約3時間。
前半は茶系のセットで、すぐ師匠が登場。昨年はノーベル賞やラグビーで日本人は偉いと思った、しかし国立競技場やらマイナンバーやらにはついていけなくて、いつ決まったのか、と思うばかり、というマクラから新作「大黒柱」。保険が満期を迎え、夫は前から行きたかった鬼怒川への家族旅行を決めるが、妻が勝手にローマ旅行を申し込んでしまい、娘、息子も同調する。真面目なお父さんなのに、妻と話すうちどんどん食い違っていく。温泉じゃないけど、ローマは町全体が風呂、というフレーズが可笑しい。「聞いてないよ、俺は一家の大黒柱だぞ」「それ、いつ決まったの」というサゲ。師匠独特の不条理感がたまりません。
終わって後方のスクリーンに、パルコ建て替えの記者会見コントが流れる。いつ決まったんだよ、聞いてないよ、というつながりでした。
続いて2席目は、旭山動物園でオラウータン母子を観ようと騒ぐ客と、適当にあしらってるとしか思えないオラウータンの様子で笑わせてから、動物つながりで古典をアレンジした「新版猫忠(ねこただ)」。志の輔さん、市馬さんで聴いたことがある。
若いもんが、三味線の美人師匠とよろしくやっている兄貴を見つけ、おかみさんに言いつけるところまでは、滑稽なドタバタ。ところが兄貴は家で寝ついていて、というあたりから一転して怪談風になり、実は兄貴と師匠だと思ったのは、猫が化けていたと分かる。三味線にされてしまった親に会いに来た、と語るくだりは下座が入って、「狐忠信」にちなんだ芝居語りをしっとりと。達者だなあ。
休憩を挟んで後半は、黒系の背景に釈台を置き、師匠は紋付袴に。落語会で京都に行った折、琳派展を観た話、かつて千葉でたまたま伊能忠敬記念館に立ち寄って感動したエピソードから、2011年のパルコで聴いた大作「大河への道」再び。
前半の噺にひっかけたフレーズなどでくすぐりつつ、忠敬の偉業をたどり、没後200年を前にその生涯を大河ドラマ化しようと企画を練る県職員、作家のやりとりをトントンと。忠敬の没後も天文方・高橋景保が、喪を伏せたまま地図を完成させ、徳川家斉に披露するシーンが感動を呼ぶ。広間一面に並んだ地図と、その光景に息をのむ人物たちがくっきり! 結局、企画書には「伊能はドラマにはおさまらない」。
噺が終わってスクリーンには、前回と同じ、忠敬が歩いた美しい海岸線の空撮、そして現代の地図と伊能図のオーバーラップ。いやー、毎度ながら長尺の映画を1本観たような重量感です。
再び幕を上げ、パルコ公演のための新作のなかでも「大河への道」は苦労した、と打ち明ける。「地球が丸いことを確かめたい」との一念で、黒船来航前という時代、55歳から17年かけて日本中を歩いちゃった偉人。ついにドラマ化をあきらめる劇中の作家こそ、志の輔さんの姿だったのかも。いつものように、長唄連中をバックに手締めとなりました。
この公演が区切りを迎えたのは寂しいけど、これからも落語の枠に収まらないエンタメを期待してます!