Les Pêcheurs de Perles
Les Pêcheurs de Perles 2015年12月
特別編・年末NYシリーズの締めくくりは大晦日。METでは100年ぶりの上演という、ビゼー「真珠採り」のガラ公演だ。場内のレストランでは終演後のパーティーが準備されており、蝶ネクタイやロングドレスの聴衆が続々と。特別な日の演出、いやがおうにも浮き立つ雰囲気とともに、豪華キャストの舞台がとにかく素晴らしかった! Metropolitan Opera(メトロポリタンオペラ)1Fなかほど下手寄りで$220.00。休憩1回を挟んで2時間半。
物語はアジアの異国情緒漂う民話風ファンタジー。禁断の恋に走る巫女レイラと漁師ナディールに対し、ナディールの旧友であり恋敵でもある頭領ズルガは、一度は刑を宣告するものの、愛の真実にうたれて結局、村に火を放ってまで2人を逃がす。
なんとビゼー弱冠25歳の時の作品で、初演時にベルリオーズが絶賛したとか。古風でシンプルな筋ゆえに上演が少ないのかもしれないけど、全編甘い音楽が素晴らしい。Gianandrea Noseda(ジャナンドレア・ノセダ)の指揮は、トリノ王立歌劇場の来日などで聴いたイメージと同じで流麗だ。
主要登場人物は3人だけ。それだけにこの日の3人がいずれも一流で、第一声から声がしっかり届くことの満足感が大きい。ネト様とかに比べれば、どうだ!感は控えめな顔合わせだけど、ロマンティックな個性がこの演目にぴったり。
神秘的なレイラのDiana Damrau(ディアナ・ダムラウ、ドイツのソプラノ)は、当代随一のコロラトゥーラと言われる技巧はもちろんのこと、ライブビューイング「オリー伯爵」でも感じた生来の気品と静かな色気が伝わってくる。1幕「空をさえぎるものはなく」などが大人っぽいなあ。
レイラと運命的な恋を再燃させるナディール役、Matthew Polenzani(マシュー・ポレンザーニ、アメリカのテノール)のまた甘いこと! ロイヤルオペラの来日公演やライブビューイングではちょっと弱いかな、と感じていたけど、この日はその繊細さが生きた感じ。まさにリリックテノール。ゆったりした名アリア「耳に残るは君の歌声(ナディールのロマンス)」で、弱い高音を歌いきった時には大拍手でした~
そしてズルガは待ってました、Mariusz Kwiecien(マリウシュ・グヴィエチェン、ポーランドのスター・バリトン)。遅れた漁村のなかで、ひとり近代的な為政者という設定で、友情と古い失恋の傷、嫉妬に悩む姿が哲学的だ。名曲、ナディールとの2重唱「Au fond du temple saint(神殿の奥深く」)」が素晴らしい。高僧ヌーラバットはダムラウのパートナー、Nicolas Testé(ニコラ・テステ、フランスのバスバリトン)。もちろん幕開けから、合唱も聴かせます。
演出は英国の女流映画監督のPenny Woolcock(ペニー・ウールコック)。原作の舞台、古代セイロンを現代のどこかアジアに移しており、貧しく因習にとらわれた村というステロタイプな設定がやや気になるものの、雰囲気はある。背景の傾斜地にひしめく小さな民家の明かりが美しく、またズルガの執務室に壁いっぱい詰まれた書類が、責任と悩みを象徴して面白い。
3人の恋模様と同時に、人間にはどうすることもできない、荒れる海がもう一つの主役。映像に頼り過ぎず、大胆にワイヤーを使った素潜りシーンが幻想的だ。不安定な階段状のセットを、歌手陣もよくこなしてた。
本当に贅沢な時間と空間。思いっきりお洒落するけど、気取らない雰囲気。また来たいです!