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浪曲「山の名刀」「大井川乗り切り」

通う火曜亭  2015年11月

落語、講談ときて、ついに浪曲初体験。会場は田原町にほど近い日本浪曲協会の大広間だ。といっても協会の建物は、雑居ビルの谷間にある単なる民家にしか見えず、広間は親戚が集まる居間といったイメージ。奥の金屏風の上に、なんと孫文が「雲右衛門君」に送った「桃中軒」の額がかかる。スケールが大きいんだか小さいんだか。1500円。

床に並べた2、30のパイプ椅子が、意外に幅広い老若男女で埋まり、演台正面の席に陣取る。前座は富士実子で、結い上げた髪が色っぽい。
演目は講談「善悪二葉の松」を脚色したという、「山の名刀」だ。孝行者が木曽山中で山賊の家に迷い込み、カネを巻き上げられる。唯一持ち帰った刀が思いがけず高値で売れ、正直に代金を届けに戻るあたりは「井戸の茶碗」のようであり、実は生き別れの兄とわかった山賊が罪を悔い、いきなり自害しちゃうあたりは、文楽でお馴染みモドリであり。浪曲は明治後期かに興隆した演芸だけど、古典の流れを感じますねぇ。

続いて眼目の玉川奈々福が登場。三味線出身の変わり種で、はきはきと明るく、啖呵のテンポが良い。上手の衝立を外して、2席をつとめるベテラン曲師・澤村豊子さんの居候話などで笑わせつつ、「体力がいる演目です」と振って、「曲垣と度々平~大井川乗り切り」。武芸講談「寛永三馬術」の一部をアレンジしたそうです。
最前列で聴くと鼓膜が痛いような大音声に、まずびっくり。立ったまま身振り手振りで勢いをつけつつ、節(ほぼ演歌)を朗々と歌う。歌があるから落語より女性に合っているかも。
前半は丸亀生駒家出身の浪人・曲垣平九郎と中間・度々平が、江戸に向かう途中で空腹に苦しむくだりで笑わせる。後半はいよいよ、困っている親子を助けようと、濁流渦巻く大井川に乗り入れていくスペクタクル。度々平の正体は、曲垣の馬術を盗もうとする3名人のひとり、向井蔵人。曲垣はその企みを見破りながらも、技と力を駆使して救い出す。古臭いんだけど、「おぬし、やるな?」というプロ同士の気脈と、ワンピースみたいな超人ぶりが普遍的だ。

1時間ちょっとで終わると、聴衆自らその場に長テーブルと座布団を並べて茶話会へ。持ち込みの日本酒や稲荷寿司、みかんも配られ、和やかに語り合う。遠方から通うディープなファン、やはり浪曲デビューの女性、若い尺八奏者、手持ちカメラでドキュメンタリーを撮影している監督と、メンバーは多彩。80歳近い豊子師匠が、小柄で可愛かったです。

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青い瞳

シアターコクーン・オンレパートリー2015 青い瞳  2015年11月

岩松了さんの作・演出、2008年「羊と兵隊」で抜群の求心力を発揮した中村獅童が主演と、見逃せない新作だ。時代も場所も設定は不明なんだけど、描かれる戦争の傷跡は、現実世界と見事に呼応する。独特の宙ぶらりんなやり取りが、いつにも増して濃密な空気。意味を考え始めちゃうと、ついていくのがちょっと難かしかったかな。ジャニーズとAKBファンらしき女性が目立つシアターコクーンの、中央いい席で1万円。休憩を挟んで2時間半。

帰還兵ツトム(獅童)は戦友の死など、辛い戦争体験のせいでうまく社会復帰できず、気をもむ母(伊藤蘭)は子供時代の希望を取り戻そうと、かつての絵画教師タカシマ(勝村政信)に引き合わせる。だがその再会は欺瞞だった。
一方、妹ミチル(前田敦子)が付き合っているサム(上田竜也)は、バーにたむろするチンピラの一味。よそ者排除に対する抵抗から、陰惨な暴力が高じていく。せっかく戦争が終わったというのに。

ただ歩いているだけで、「尾けただろう」と責められる。そんな他人が決めてしまう意図と、それに絡めとられていくことのそら恐ろしさ。水たまりで魚を釣る、という価値の混濁や、しつこく部屋に入り込む蟻の不吉さ。なにげない日常シーンの背後に意味が潜んでいて、油断がならない。
獅童が暴力と純粋さとの振幅を繊細に表現して、期待通りだ。伊藤蘭と父親役の岩松さんが、息子の孤独を愛情で受け止めようとするけれど、どんどんちぐはぐになっていく姿を達者に。存在感ではやっぱり勝村が突出しており、半端な怪しさからリズミカルな笑いまで、自由自在で色気もある。若い上田、前田は大健闘だけど、獅童、勝村と対峙するとさすがに引き出し不足か。お約束、歌とダンスのシーン(今回はチキチータ)のあっちゃんが、すらっとしていて綺麗。

比較的シンプルに家具を出し入れして、バーやアトリエ、居間を表現。難解さのせいか、カーテンコールはスタンディング無しで、獅童と上田が指さしあってちょっと盛り上がってました。

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「江戸花成田面影」「元禄忠臣蔵」「勧進帳」「河内山」

松竹創業百二十周年 吉例顔見世大歌舞伎 夜の部 2015年11月

十一世市川團十郎五十年祭と銘打ち、全力で成田屋を盛り立てる舞台。海老蔵が持ち前の華を発揮し、また幹部揃いのなかでも梅玉さんが大活躍だ。本編3作は新歌舞伎、荒事、黙阿弥ものと作風はそれぞれ全く違うけど、共通して「対決」という演劇的な見どころがあって、飽きなかった。団体客で大入の歌舞伎座、前寄り中央のいい席で1万8000円。休憩3回を挟み4時間半。

開幕はなんと、2歳の海老蔵長男・堀越勧玄初お目見得のためだけに構成された「江戸花成田面影」。深川での成田不動出開帳という設定で、長唄をバックに鳶頭の梅玉、染五郎、松緑が、手獅子を持ったりしてめでたく踊る。仁左衛門、菊五郎の豪華前フリで、いつものまさかり頭の海老蔵が勧玄ちゃんの手を引いて登場。中央で挨拶し、藤十郎が手締め。贅沢ですねえ。

短い休憩の後、まず写実的な真山青果作「元禄忠臣蔵」から「仙石屋敷」。2008年に吉右衛門で「大石最後の一日」を観たけど、この幕は初めて。討ち入り直後の取り調べシーンで、地味なんだけど、仁左衛門の大石内蔵助が絶品だ。世間を騒がせたことをわきまえつつ、討ち入りの正統性を切々と訴え、そして脱落した仲間を思い、「それが人間」と涙する。理と情。一方、義士に共感しながらも、大目付の役目を果たす仙石伯耆守の梅玉も、悠然としていい。
主税を仁左衛門の孫・千之助が演じるのも話題だ。本格的な役はほぼ初ということで、セリフはかなりハラハラしたけど、主税と同じ15歳とあって、未熟さがむしろ説得力につながり、好感が持てる。間十次郎の松江(東蔵の長男)が格好よかった。

夕食の後は「勧進帳」。お馴染み弁慶・幸四郎に対し、ちょうど1年前の初弁慶も観た染五郎が、富樫を立派に。ただ、義経の松緑がどうも落ち着かないのは何故かなあ。太刀持は松緑の息子の左近と、七世幸四郎の血が脈々と。

10分休憩を挟んで、いよいよ河竹黙阿弥作の生世話もの「天衣紛上野初花(くもにまごううえののはつはな) 」の前半「河内山」。小悪党で、権威をものともしない御数寄屋坊主・河内山を、海老蔵が初役で演じて痛快だ。
まず松江邸広間の場で、トンデモ大名・松江出雲守(梅玉)が腰元・浪路(梅玉の部屋子・梅丸が可愛い)と忠臣・数馬(海老蔵の門弟・九團次)を苛めちゃう様子を描く。家老・高木に左團次。
続く書院の場で、カネ目当てに浪路救出を狙う河内山が、寛永寺の使僧に化けて登場。わざとらしく気取ったセリフ回し、出雲守を追い詰めていく小ずるい詐欺師の手腕、そして金子を改めようとして時計の音に驚くさまの、コミカルなチャーミングさ。大詰め、玄関先の場では赤っ面・北村大膳(市蔵)に見破られて正体を現し、七五調の名台詞で啖呵を切る。今回は仁左衛門さんに習ったとか。海老蔵の持ち味は軽くて、反骨とか屈折とかは物足りないんだけど、やっぱり格好いい。
後で十一世の映像を観たら、凄く似ていてびっくりしました。祖父も父も決して恵まれた境遇ではないけど、才能プラス努力の人だったんですね。海老蔵もガンバレ!

ロビーにはご贔屓を迎える海老蔵の母・季実子さんの姿も。歌舞伎座の正面には櫓があがり、地下のショップの飾りつけはもうクリスマスツリーでした~

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METライブビューイング「イル・トロヴァトーレ」

METライブビューイング2015-16第1作「イル・トロヴァトーレ」  2015年11月

10月3日上演の新シーズン幕開けは、ヴェルディのドロドロ人間ドラマ。命がけの恋、嫉妬、決闘、呪いと、やたら熱量の高い名アリアや重唱、合唱が目白押しだ。
5年連続オープニングを担う女王アンナ・ネトレプコをはじめ、主要キャストが存分に美声とスターオーラを発揮する。ただでさえ盛り上がるところへきて、ハンサムバリトンのディミトリ・ホヴォロストフスキーが脳腫瘍を克服しての登板とあって、出てきただけで拍手が鳴りやまない異常テンション。バックステージを含めて感動的だなあ。
2011年に観たライブビューイングと同じ、メリハリの効いたマルコ・アルミリアートの指揮、そしてデイヴィッド・マクヴィカーの回り舞台を使った演劇的ステージング。よく入った新宿ピカデリーで3600円、休憩1回を挟んで3時間強。

レオノーラのネトレプコは、1幕「穏やかな夜」あたりは甘く美しく、しかし4幕「恋はばら色の翼にのって」では恋人マンリーコを救ってみせる、という強さが前面に出て、格好いい。横恋慕するルーナ伯爵のホヴォ様は、登場シーンこそ、あまりの客席の熱狂ににやけてけど、その後は暗い情熱で押しまくる。2幕「君が微笑み」の切ないこと。対峙するマンリーコは韓国のヨンフン・リーで、ライブビューイング初登場だ。2011年来日公演の「ドン・カルロ」でカウフマンの代役だっただけに、感慨深い。声に張りがあって、3幕「見よ恐ろしき炎」のハイCも危なげないんだけど、テノールらしい華が欲しいかな。
マンリーコの母・アズチェーナは極め付け、20年以上もこの役を歌っているというドローラ・ザジックで、人間国宝と呼びたい造形。騎士フェルランドのステファン・コツァンは2013年の「リゴレット」でも観たスロヴァキアのバスで、すらっとして色気がある。

お楽しみ幕間では、ライブビューング10周年とあってアンナ・ネトレプコの名場面集が流れ、大物への階段を上がってきたさまがくっきり。インタビューでは可愛い坊ちゃんが場をさらってたけど。司会のスーザン・グラハムがちょっと皮肉っぽく、「子どもと動物には勝てない」風なことを呟いちゃってて可笑しかった。次作「オテロ」のソニア・ヨンチェーヴァも綺麗。
そして何といってもカーテンコールが素敵だった。キャストがホヴォ様を中央に押し出し、オケが一斉に花を投げるサプライズ! ホヴォ様はその花を女性陣に捧げちゃうし。つくづく色男ですねぇ。

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