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「阿古屋」「髪結新三」

松竹創業120周年芸術祭十月大歌舞伎 夜の部 2015年10月

「阿弖流為」「ワンピース」と中堅のチャレンジが話題の歌舞伎界だが、人間国宝・玉三郎の極付「阿古屋」を見ておかなくちゃと、歌舞伎座に足を運んだ。1F前より中央のいい席で1万8000円。40分の休憩1回を挟んで約4時間。

夜の部はその「壇浦兜軍記 阿古屋」1幕、通称琴責めから。源氏がたの武将・重忠が、平家の残党・景清の行方を詮議するため、愛人の傾城・阿古屋にポリグラフとして琴、三味線、胡弓を弾かせる。
坂東玉三郎がオーラ全開で、実に美しい。3曲、特に胡弓を見事に弾きこなすのが素晴らしく、バックの浄瑠璃(上手)、長唄(下手)も活躍する。けれど、2012年に文楽で聴いているせいか、眼目の演奏よりもむしろ、スターの研ぎ澄まされた存在感に圧倒された。
なにしろ花道登場から、孔雀のまな板帯など超豪華衣装で一気に場内を掌握。白洲梯子に身を投げ出したり。凛とした芯の強さ、気品があるからこそ、遠い目をして愛する人を想う姿が切ない。
情理を尽くす裁き役・重忠の尾上菊之助がまた、いい。相変わらず声が通ってスケールがあり、微動だにせず阿古屋を見つめる姿が絵になる。一方、赤っ面の岩永(坂東亀三郎)の人形ぶり、ツメ人形風の竹田奴たちは予想以上にコミカル。演奏の緊張感とバランスをとる工夫ですね。

休憩に席でお弁当をつつき、後半はがらっと雰囲気が変わって世話物「梅雨小袖昔八丈 髪結新三」。こちらも初見で、楽しみだった演目だ。河竹黙阿弥作、明治6年初演で、小悪党の無頼さがかなり現代的な味わい。二世尾上松緑27回忌追善狂言として、孫の当世・松緑が初役でタイトロールに挑戦する。細身、小顔に大きな目が光り、ケチなチンピラの未熟さ、危うさが際立つ。ただ、主役としての色気はちょっと物足りないかなあ。
序幕・白子屋見世先の場は材木屋の身代を守るため、娘お熊(中村梅枝が可愛く)の縁談が進む。新三が立ち聞きを誤魔化したり、手代忠七(上品な中村時蔵)に駆け落ちをそそのかすシーンで、細かく髪結の技を見せたりするのが面白い。小道具は祖父伝来で、30年ぶりの登場だとか。松緑さんの息子・尾上左近が丁稚で登場してました。
続く永代橋川端の場では、新三がお熊かどわかしの企みを明かし、忠七を踏みつけて七五調の名台詞、傘尽くしを聴かせる。
1幕目・富吉町新三内の場では、その新三の不逞ぶり、刹那的な生き様をたっぷりと。お熊の身代金を持ってきた顔役・源七(耐える親分、市川團蔵が格好いい)を追い返す。ところが因業大家の長兵衛(古風に市川左団次。松緑さんとのバランスにやや難か)には、逆にやりこめられちゃう。ホトトギスに初鰹、浴衣、縁台。江戸庶民の初夏風情、リアルな生活感が楽しい。
大詰・深川閻魔堂橋の場は、恨みを抱いた源七との立ち回りで、いっぱしの侠客となった新三の破滅を暗示し、格好良く、かつシニカルに幕となりました。
白子屋後家お常に片岡秀太郎、チョイ役の上品な仲人に片岡仁左衛門、さらには威勢のいい肴売に尾上菊五郎と、御馳走づくしが贅沢だ。手下・勝奴の坂東亀寿も軽快。面白かったです!

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