語る室
カタルシツ「語る室」 2015年9月
作・演出前川知大。爽やかな秋晴れの週末、劇団イキウメとは別シリーズのカタルシツ公演に足を運んだ。大切なものを失い、辛さを噛みしめつつも、人生は続いていく。お得意、日常の地続きにあるSFミステリーだけど、いつになくしみじみと、大人の舞台だ。東京芸術劇場シアターイースト、2列目中央のいい席で4500円。休憩無しの2時間弱。
ある田舎町。5年前に失踪した幼い子供の母・美和子(中嶋朋子)と、運転手の兄・古橋(盛隆二)、そして美和子の弟で交番の巡査・譲(安井順平)を加えた3人は、癒えない痛みを抱えながら、一緒にバーベキューをしている。
そこへ事件当夜に現場から消えた謎の若者ガルシア和夫(大窪人衛)、亡父の秘密を探る大輔(浜田信也)と妹・真知子(木下あかり)が交錯する。すべての真実を、霊媒師・佐久間(板垣雄亮)がみつめる…
テーマは独白だそうで、全編ひとり語りの「地下室の手記」とはまた違い、会話の間にモノローグが挟まる。わざとらしくなりそうなところを、俳優陣が達者にこなす。
何故自分が辛い目に遭っているのか、大切な人は今どうしているのか。登場人物それぞれが知っていることには、限りがあるという現実。全員のモノローグを聴く観客だけには、それがわかるから、もどかしくて仕方ない。でも欠落があるからこそ、人は支え合い、未知の明日に向かって踏み出そうとするのかもしれない。
決してハッピーエンドではないけれど、人生の理不尽と和解していく姿が丁寧に描かれていて、温かい余韻を残す。ヒリヒリする「片鱗」「関数ドミノ」より、「聖地X」寄りかな。
いつもながら、構成は知的で精緻だ。交番と公園をベースにしたワンセットのまま、時間と空間を行き来し、シーンの繰り返しも使って、複雑な人間関係と超常現象を見せていく。
そして喚起される印象的なイメージ。知らないことを思い出す、見えなくても存在しないわけではない、世界のどこかに膨大な人類の記憶のプールがある…。
お馴染み劇団メンバーが、持ち前の切なさをいかんなく発揮。安井があまり変人じゃない設定は珍しいかも? 客演陣では、子供を思うあまり壊れかける中嶋に、思わず涙が出ちゃうし、「冒した者」「ロンサム・ウェスト」で観た木下は溌剌。何故かオネエ風の板垣が、軽妙にテンポをつくる。「SP」に出てた役者さんなんですね~ セットの宙に浮いたような立ち木が象徴的だった。
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