青い種子は太陽のなかにある
音楽劇 青い種子は太陽のなかにある 2015年8月
1963年にたった1度上演されたという寺山修司27歳時の「幻の音楽劇」を、蜷川幸雄が病をおして、なんとオーチャードホール初登場で演出する話題の公演。ニナガワの創造に対する執念を、今回は松任谷正隆の音楽がキャッチ―に彩った。ヒロイン高畑充希が、みずみずしさ、切なさと野太さが入り混じって秀逸。マナーのいいジャニーズファンが目立つホール、やや下手寄り前の方のいい席で1万2500円。休憩2回で3時間半。
物語は1963年夏のスラム街。工員・賢治(亀梨和也)は、貧しい住民向けという触れ込みのアパート建設現場で、作業員の事故と、その隠蔽を目撃してしまう。父(六平直政)に浮浪者や娼婦たちの夢を壊すなと諭され、葛藤するが、恋人・弓子(高畑)の励ましでついに告発を決意する。
アパートの壁に罪の印として太陽を描く、というモチーフは、与えられる幸福というものに対する若い反発を思わせて、非常に印象的だ。その壁を含め、問題の工事現場が舞台上ではなく、あえて客席側にあると設定、観客の想像力にゆだねる。不安定な斜面の舞台には、シュルレアリズム風の色鮮やかなオブジェが立ち並び、背景の夕焼けや巨大な月も鮮烈で、夢の中のよう。
戯曲全体も詩的なセリフがぎっしりだ。なにしろ「青い種子」だもんなあ。「日がもしも沈まないなら」「舟の歌」…。チェロなどの生演奏による、洒落た歌が心地よい。
それだけに、歌い踊るお馴染み異形の住民たちの猥雑パワーは、伝わりにくかった感じ。終盤に幸福をかなぐり捨て、自由へと踏み出していく無軌道さを、昭和歌謡でもっと聞きたい、と思ってしまうのは、観る側の年齢のせいか。
高畑は一部、音程が不安定なところがあったものの、存在感が突出していた。ミュージカルみたいに、ソロの後に拍手したかったな。六平も緩急自在で、マイクがいらないほどの声量、出てきただけで空気を作れる実力をいかんなく発揮。亀梨はナイーブさがいいけれど、人物造形は発展途上か。
驚いたのは1931年生まれの戸川昌子。ほとんど座っていたものの、大詰めで三味線をバックに歌と語りを披露する。娼婦役のマルシアと大物代議士の娘・花菜は、元気に走り回りながらのフェイク合戦で聴かせましたね。
左右の字幕で、歌詞やト書きを表示。カーテンコールはスター恒例のスタンディングで、六平さんがお茶目でした~
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