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「真景累ケ淵」より「宗悦殺し」

「真景累ケ淵」より「宗悦殺し」  2015年8月

昨年に続いて、古典芸能好きの集まり・古遊座で、神田春陽さんの蝋燭怪談。今年は物語の発端「宗悦殺し」で、同じ春陽さんの講談や、喬太郎さんの落語でも聴いたくだりだ。暮れゆく青山スパイラルのラウンジで、和蝋燭1本の灯りに頼る江戸の雰囲気を味わう。30分強。

酒癖の悪い深見新左衛門が座頭の宗悦を斬り、下男・三吉を巻き込む。淡々としたなかに長大な巡る因果につながる、人の罪深さを感じさせる。
前後に座元・東雲喜光さんをまじえた解説があり、妖怪と幽霊の違い(化け物は?)、落語、講談、歌舞伎のヨコのつながりなどを聴く。

ウーマン・イン・ブラック

パルコ・プロデュース「ウーマン・イン・ブラック」<黒い服の女>  2015年8月

スーザン・ヒル原作、スティーブン・マラトレット脚色で、ロンドン・フォーチュン・シアターではなんと27年目のロングラン中という戯曲を観る。パルコ劇場でも7回目の上演で、円朝か!といいたい古典的怪談だ。小田島恒志の新訳、ロビン・ハーフォードの堂に入った演出、そして達者な2人芝居が楽しい。幅広い観客が集まったパルコ劇場、下手前の方で8500円。休憩を挟み2時間強。

観客のいないビクトリア朝風の劇場。弁護士キップス(今や若手指南役の勝村政信)は長年の悪夢から逃れるべく、家族に封印してきた恐怖の記憶を打ち明けようとする。語りの指南を頼まれた若い俳優(爽やかな岡田将生)がリハーサルで、若き日のキップスを担当。老婦人の遺品を整理すべく、片田舎の屋敷に出向いた体験を再現する。そこには恨みを抱いた黒い服の女が現れていた。

ロンドンの濃い霧、ノーフォークあたりの沼地、孤立した館というゴシックホラーの定番を、客席と、舞台後方の紗幕裏を使い、ごくシンプルな道具だてで見事に構築。特に劇中劇の設定で、揺り椅子やオルゴールの音響で想像力に訴えるあたりが、舞台劇の智恵を思わせて巧妙だ。

舞台2作目の岡田が清潔な雰囲気をまとい、細身できびきび動いていい。声もよく伸びる。もちろん勝村は期待通りの存在感だ。導入ではあえてブツブツ小声で、小心なキップスを表現し、中盤以降は怪しい御者から裕福な地主まで、多彩な人物を見事に演じ分ける。 これまではキップスを2014年死去した斎藤晴彦、俳優を萩原流行、西島秀俊、上川隆也という実力派が演じてきたという。今回のキャストも、随所に独特の愛嬌があって秀逸だ。
勝村が舞台正面の段でつまづいたり、岡田が書類の束の紐をほどくのに手間取っちゃったり、小さいハプニングはあったものの、2人とも落ち着いたもの。古典だけにちょっとくどいというか、観ていて集中が途切れるところはあったけど、いやー、怖かったっす。

客席には窪田正孝さんの姿も。
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虹とマーブル

M&Oplaysプロデュース 虹とマーブル  2015年8月

倉持裕の作・演出。1962年から80年代に至る、ひとりの成り上がりの半生を通じて、カネに翻弄された昭和ニッポンを描く。初日だけに随所でぎこちなさが気になっちゃったけど、役者の魅力は十分だ。意外に年配男性も目立つ世田谷パブリックシアターの、前のほう中央のいい席で7500円。休憩2回を挟みたっぷり2時間半。

ケチなチンピラだが頭の切れる鯨井紋次(小出恵介)は、ヤクザの蔭山(小松和重)、高級クラブ経営者の冬香(ともさかりえ)、弟で弁護士、やがて代議士秘書になる静馬(木村了)と手を組み、怪しい不動産屋、さらに芸能プロダクションを興して成功する。やがて政財界を巻き込む一大スキャンダルに加担して…。
笑いが多くて楽しいものの、よくできたコメディというだけではないし、不思議感覚のSFタッチでもない。五輪、三億円事件、あさま山荘と現代史の要素を散りばめており、冒頭の懐かしい洗濯機が象徴的だ。倉持さん、テレビドラマを含めてホント芸風広いなあ。

憎めないワルの小出が、抜群の色気を示す。「今ひとたびの修羅」「MIWA」など、最近は昭和が似合う巧いワキの印象だったけど、存在感十分。特に高度成長という虹がはかなく消えた後、憧れの大理石の階段を実現した豪邸での、意地っ張りな造形が切ない。
一段と細く姿のいいともさかが、「鎌塚氏」シリーズとはうって変わって往年の「金環蝕」なんかのフィクサー然として、堂々と舞台を牽引。決して下品にならないのがこの人の凄いところ。小松、木村も達者に、哀しさを醸し出す。アイドル芹沢蘭役で初舞台の黒島結菜は可憐なだけに、終盤の大人の女は厳しいかな。
ペンギンプルペイルパイルズのお馴染み3人は、複数の人物で登場するのでちょっと混乱。飛び道具・玉置孝匡が振幅が大きくて、さすがだ。ぼくもとさきこの声を褒めるくだりが可笑しい。そして手堅く小林高鹿。

後方に2階があるセット。暗転や休憩で、丁寧に調度を替えていく。2幕はアイドル、プロレスという時代を映す設定とはいえ、流れが停滞する感じも。詰め込んだ要素の整理を含めて、今後の工夫に期待!

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青い種子は太陽のなかにある

音楽劇 青い種子は太陽のなかにある      2015年8月

1963年にたった1度上演されたという寺山修司27歳時の「幻の音楽劇」を、蜷川幸雄が病をおして、なんとオーチャードホール初登場で演出する話題の公演。ニナガワの創造に対する執念を、今回は松任谷正隆の音楽がキャッチ―に彩った。ヒロイン高畑充希が、みずみずしさ、切なさと野太さが入り混じって秀逸。マナーのいいジャニーズファンが目立つホール、やや下手寄り前の方のいい席で1万2500円。休憩2回で3時間半。

物語は1963年夏のスラム街。工員・賢治(亀梨和也)は、貧しい住民向けという触れ込みのアパート建設現場で、作業員の事故と、その隠蔽を目撃してしまう。父(六平直政)に浮浪者や娼婦たちの夢を壊すなと諭され、葛藤するが、恋人・弓子(高畑)の励ましでついに告発を決意する。

アパートの壁に罪の印として太陽を描く、というモチーフは、与えられる幸福というものに対する若い反発を思わせて、非常に印象的だ。その壁を含め、問題の工事現場が舞台上ではなく、あえて客席側にあると設定、観客の想像力にゆだねる。不安定な斜面の舞台には、シュルレアリズム風の色鮮やかなオブジェが立ち並び、背景の夕焼けや巨大な月も鮮烈で、夢の中のよう。
戯曲全体も詩的なセリフがぎっしりだ。なにしろ「青い種子」だもんなあ。「日がもしも沈まないなら」「舟の歌」…。チェロなどの生演奏による、洒落た歌が心地よい。
それだけに、歌い踊るお馴染み異形の住民たちの猥雑パワーは、伝わりにくかった感じ。終盤に幸福をかなぐり捨て、自由へと踏み出していく無軌道さを、昭和歌謡でもっと聞きたい、と思ってしまうのは、観る側の年齢のせいか。

高畑は一部、音程が不安定なところがあったものの、存在感が突出していた。ミュージカルみたいに、ソロの後に拍手したかったな。六平も緩急自在で、マイクがいらないほどの声量、出てきただけで空気を作れる実力をいかんなく発揮。亀梨はナイーブさがいいけれど、人物造形は発展途上か。
驚いたのは1931年生まれの戸川昌子。ほとんど座っていたものの、大詰めで三味線をバックに歌と語りを披露する。娼婦役のマルシアと大物代議士の娘・花菜は、元気に走り回りながらのフェイク合戦で聴かせましたね。

左右の字幕で、歌詞やト書きを表示。カーテンコールはスター恒例のスタンディングで、六平さんがお茶目でした~

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三人会「百川」「船徳」

市馬 喬太郎 桃太郎 三人会   2015年8月

猛暑の夕、4月に続いて日本橋公会堂(日本橋劇場)の落語会へ。遅れちゃって、昔昔亭 桃太郎さんの「結婚相談所」の途中から立ち見する。中央の上手端で3600円。中入りを挟み2時間強。

桃太郎さんの後、柳家喬太郎が登場。2か月連続で聴くけど、ことのほか肩の力が抜けて、いい感じだ。まず「9月初めまではこれを聞いてもらわないと」、と実行委員長を務める落語協会謝楽会を案内し、「祭といってもいろいろあって、フェスティバルはフェスティバル! カーニバルはカーニバル!」と意味不明のコメント
祭りつながりで四
神剣というのは…と語り出し、「これで青菜やったら、驚くだろうな。いや、芝浜やるよ。嘘、できないもん」などと遊び、「実はこの噺も師匠にちゃんと習ってない、ビデオを観て覚えた、でもちゃんと許可はとっている」と告白。なんと三味線入りでさん喬登場の物真似を披露しちゃう大サービス、師匠とのやりとりを回想してから、「百川」。
いずれも所縁の日本橋で、談春、一之輔で聴いたネタだけど、喬太郎さんは軽みが際立つ。しっかりと人物を演じ分けつつ、タッチはさらさらしていて、特に百兵衛さんの田舎者ぶりがしつこくない。やり取りを横で聞いている若い衆の、分かったふりが無性に可笑しく、また無理矢理くわいを飲みこむシーンは、たっぷりで爆笑。引っ込みもさん喬さんでした!

続いて市馬さんで、
先月、鯉昇さんで聴いたばかりの「船徳」だ。夏らしいし、市馬さんのおおらかさに合っているなあ。最後は客がもう一人をおぶって、歩いて桟橋に上がり、疲れ切った徳兵衛が「帰りに船頭一人雇ってください」でオチ。ただ、珍しく歌がなくて残念。ひょっとして暑くて元気がなかったのかしらん。

中入り後は前回と同じ謎のトークショーで、本日は桃太郎、喬太郎の2人。「徹子の部屋みたい」といいつつ、桃太郎さんが落語芸術協会のらくごまつりで、なんと人生相談をやった、寄席の楽屋で偉い師匠が火鉢の前に座らないと、後輩の座るところが無くて困る、かつて両協会の間で2対45という、びっくりのトレード話があった、などと伸び伸び放談。時間を気にして、9時5分過ぎに終了となりました。
パンフレットに桃太郎さんが短文を載せていて、いわく老いとの戦いは大変、噺家の長老で元気なのは皆新作派、古典派でも趣味が多いと元気、自分も少し元気で少し楽しい人生なら十分だ…。いい味だしてます。

談春「たがや」「小猿七之助」「居残り佐平次」

立川談春三十周年記念落語会「もとのその一」THE FINAL  2015年8月

昨年5月から続く記念ツアーの千秋楽、しかもBunkamuraシアターコクーンで初の落語公演だそうで、気合十分のたっぷり3席を聴く。浴衣姿も目立つ幅広い客層で、珍しくロビーに物販も花もなく、開幕前から集中した雰囲気だ。高座と目が合うような、中ほど上手寄りで5400円。休憩を挟み3時間半強。

演芸場風のセットに前座抜きで談春さんが登場。30年続けても偉くない、でも入門の経緯から記念の落語会をやることにした、師匠は江戸の風と言ってたけど…といったぼやき気味のマクラで、夏らしい風がある「たがや」。鍵屋と玉屋の由来から、お江戸両国橋の川開きの賑わいが目に見えるようだ。談志譲りの、たが屋が負けちゃうシュールなパターンでした。
短く三味線を挟んで2席目。コクーンという場の不思議さ、歌舞伎ゆかりの演目のために勘三郎の墓参りをしたらダメ出しが聞こえた、一方、談志は励ましてくれた、と思い入れを語ってから「小猿七之助」。講談「網打七五郎」をもとに、黙阿弥が歌舞伎「網模様灯籠菊桐(あみもようとうろのきくきり)」に仕立て、さらに落語になった演目で、馴染みがないと思ったら、落語版は談志独占みたいなものだったというから、思い入れが強いのも当然か。
陰惨な設定だけど、談春さんの巧さで聴かせちゃう。ストーリーはたがやから川繋がりで、小猿とあだ名された船頭・七之助と芸者・お滝が、禁じられた2人船で浅草に向かう途中、永代橋あたりで身投げの男を引き上げる。いかさま博打で店の掛け30両をすったとか。小猿は一度は助けるが、いかさまの相手が自分の親と知ると、男を突き落とし、さらにお滝の口も封じかける。ひやあ。ところが、お滝は小猿に思いを打ち明け…。下座たっぷりで、ラストはも入って雰囲気は上々。文七元結の裏バージョンのような悪党を、見事な芝居台詞で語って拍手。

15分の中入り後、お待ちかね「居残り佐平次」。2013年に聴いたことがあるが、やっぱり談春にぴったりのネタだと思う。
品川の遊郭で、どんちゃん騒ぎを繰り広げる佐平次の、なにやら粋な造形。鰻まで平らげて、カネはない、と居直る意味不明のアナーキーさ。そして居残ってから、何故か太い客に気に入られちゃうサービス精神と愛嬌。いいなあ。 佐平次の来歴はあまり説明せず、あくまで意味不明のアナーキーさのまま、「あんな奴、裏から帰せ」「裏を返されたら困る」でサゲ。鮮やかです。

いったん幕をあげて、佐平次にはカネへの反発がある、年内はドラマ「赤めだか」を宣伝しないといけない、次は志らくの30周年を祝ってやってくれ、などと話し、三本締めでした。面白かった~

客席には北村有起哉さん、酒井順子さん、千住明さんらしき姿も。人気だなあ。

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トロイラスとクレシダ

世田谷パブリックシアター+文学座+兵庫県立芸術文化センター トロイラスとクレシダ  2015年8月

シェイクスピアのギリシャ史劇を小田島雄志訳、鵜山仁演出で。横田栄司が暴れまくり、ちっとも歴史に学ばない人間の愚かさを印象付けた。浦井ファンか、女性が多い世田谷パブリックシアター、俳優が目の前に来る前の方中央のいい席で7500円。休憩を挟んで3時間弱。

問題劇と銘打っており、どうやら焦点が絞りにくいため上演機会が少ないらしい。確かにトロイとギリシャの戦いを舞台に、恋愛と戦争という大きく2つのテーマが交錯。しかも猥雑なドタバタ喜劇と、恋人の裏切りや英雄の死などシリアスな悲劇の間を揺れ動くので、捕えどころがない。
それだけに演出には工夫が感じられた。すり鉢状の階段をもつ野外劇場風の丸ステージに、大きな赤白の幕を使ってシーンを構築したり、わかりやすい映像を投影したり。人物は官僚とか無法者とか、その性格を映した現代の服装で、激しく動き、駄洒落を連発。太鼓で効果的にアクセントをつけていく。演奏は芳垣安洋、高良久美子。

群像の中でギリシャの剛将アキリーズ、横田が伸び伸びと突出。トロイ側の勇者へクター(吉田栄作が悲壮感たっぷり)は、王妃ヘレン(モンロー風の松岡依都美)略奪が発端という戦いの大義不在を承知しながら、騎士的名誉を選び、滅びの美学で散っていく。対するアキリーズは人間的だ。なんとドレッドヘアで素肌に毛皮、無軌道で戦争も面倒くさくて…という強烈キャラで存分に笑わせる。しかし親友(ホモセクシャルな設定)の死で一転逆上し、へクターを卑劣かつ残忍に討つ。
2人の武将の結末は対照的ながら、虚しいことには変わりないという点できわめてリアルだ。その意味では、トロイの取り持ち役・パンダラス(渡辺徹が達者)も象徴的。歌もまじえて道化のように本音を吐き、情けない死にざまでラストの感慨をさらっていく。いい味だなあ。

ストーリーのもう一つの柱、若い恋人たちの愛憎のほうは、クレシダが清純から色気、国家に翻弄された末の不実まで、振幅の大きい得な役だけど、その割にソニンはちょっと弱かったかな。裏切りに傷つく末の王子トロイラス役で、細身の浦井健治が健闘。
ほかに文学座の重鎮・江守徹と小林勝也、クレシダを口説くギリシャのダイアミディーズ・岡本健一らが安定感を示す。冷徹な知将ユリシーズの今井朋彦が期待通りのくせものぶり。

観劇後に文学座代表の加藤武さんが急死というニュースが飛び込み、驚きました。合掌。

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小澤アカデミー演奏会 グリーグ「ホルベアの時代より」

小澤国際室内楽アカデミー奥志賀2015演奏会  2015年7月

この演奏会に足を運ぶのは3回目。小澤征爾が風邪で急きょ休演したのは、とても残念だったけど、彼が指導した若手たちの頑張りに胸がじんとした。東京オペラシティコンサートホールの前から数列目、ほぼ中央のいい席で4500円。いつもながら年配のクラシック関係者らしい人が目立つ。休憩を挟んで2時間弱。

前半はアカデミー生の4重奏6組。ぎりぎりに到着して、1曲目は最後列だったけど、2曲目からは息遣いまで感じられる席でした。特に弾きはじめなどの緊迫感が凄い。
今年は出身地が絞られて、日本のほか中国と台湾の、18歳から27歳。みな有望で、現代的なバーバーの松岡井菜(violin)、城戸かれん(violin)や、美しいシューマンの石田紗樹(violin)、有田朋央(viola)ら、ところどころ線が細い感じはするものの、堂々たるものだ。ラストは昨年結成のクァルテット奥志賀が、ブラームスで安定感を披露。お馴染み会田莉凡(violin)、小川響子(violin)、七澤達哉(viola)、黒川美咲(cello)。

休憩後はお楽しみ、アカデミー生全員に講師のジュリアン・ズルマン(violin)や川本嘉子(viola)らが応援に加わった合奏だ。まず会田が下山したけど東京は暑い、と笑わせ、小澤の妥協を許さない指導、4重奏はすべての基礎、という熱い教えを語る。予定していたベートーヴェンを割愛し、グリーグ「ホルベアの時代より」作品40より第1、4、5楽章を力一杯に。バロック調のリズムやピチカートに乗った印象的なソロなど、変化に富んだ音色が楽しめる。なかでも会田と七澤の息の合った掛け合いが微笑ましい。
珍しく第1楽章をアンコールして終了。拍手。

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