世田谷パブリックシアター+文学座+兵庫県立芸術文化センター トロイラスとクレシダ 2015年8月
シェイクスピアのギリシャ史劇を小田島雄志訳、鵜山仁演出で。横田栄司が暴れまくり、ちっとも歴史に学ばない人間の愚かさを印象付けた。浦井ファンか、女性が多い世田谷パブリックシアター、俳優が目の前に来る前の方中央のいい席で7500円。休憩を挟んで3時間弱。
問題劇と銘打っており、どうやら焦点が絞りにくいため上演機会が少ないらしい。確かにトロイとギリシャの戦いを舞台に、恋愛と戦争という大きく2つのテーマが交錯。しかも猥雑なドタバタ喜劇と、恋人の裏切りや英雄の死などシリアスな悲劇の間を揺れ動くので、捕えどころがない。
それだけに演出には工夫が感じられた。すり鉢状の階段をもつ野外劇場風の丸ステージに、大きな赤白の幕を使ってシーンを構築したり、わかりやすい映像を投影したり。人物は官僚とか無法者とか、その性格を映した現代の服装で、激しく動き、駄洒落を連発。太鼓で効果的にアクセントをつけていく。演奏は芳垣安洋、高良久美子。
群像の中でギリシャの剛将アキリーズ、横田が伸び伸びと突出。トロイ側の勇者へクター(吉田栄作が悲壮感たっぷり)は、王妃ヘレン(モンロー風の松岡依都美)略奪が発端という戦いの大義不在を承知しながら、騎士的名誉を選び、滅びの美学で散っていく。対するアキリーズは人間的だ。なんとドレッドヘアで素肌に毛皮、無軌道で戦争も面倒くさくて…という強烈キャラで存分に笑わせる。しかし親友(ホモセクシャルな設定)の死で一転逆上し、へクターを卑劣かつ残忍に討つ。
2人の武将の結末は対照的ながら、虚しいことには変わりないという点できわめてリアルだ。その意味では、トロイの取り持ち役・パンダラス(渡辺徹が達者)も象徴的。歌もまじえて道化のように本音を吐き、情けない死にざまでラストの感慨をさらっていく。いい味だなあ。
ストーリーのもう一つの柱、若い恋人たちの愛憎のほうは、クレシダが清純から色気、国家に翻弄された末の不実まで、振幅の大きい得な役だけど、その割にソニンはちょっと弱かったかな。裏切りに傷つく末の王子トロイラス役で、細身の浦井健治が健闘。
ほかに文学座の重鎮・江守徹と小林勝也、クレシダを口説くギリシャのダイアミディーズ・岡本健一らが安定感を示す。冷徹な知将ユリシーズの今井朋彦が期待通りのくせものぶり。
観劇後に文学座代表の加藤武さんが急死というニュースが飛び込み、驚きました。合掌。