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メアリー・ステュアート

PARCO PRODUCTION「メアリー・ステュアート」  2015年6月

イタリアの「怒れる女」ダーチャ・マライーニの1980年の戯曲を、イギリスのマックス・ウェブスターが演出。「猟銃」の中谷美紀、「カッコーの巣の上で」などの神野三鈴による2人芝居で、観ごたえ十分なものの、感動は今ひとつだったかな。大人が多いパルコ劇場、前寄り・上手寄りで8500円。休憩無しの100分。

16世紀、スコットランド女王の座を追われ、イングランド幽閉中のメアリー(中谷)が、イングランド女王エリザベス1世(神野)に送り続けた手紙を軸に、2人の異なる生きざま、苦悩を描く。
毅然として独身を貫き、英国の繁栄を指揮したエリザベスに対し、恋多き女メアリーはひたすら夫の愛、エリザベスの愛を希求しながら叶わず、ついに処刑されてしまう。女性の生きづらさは今に通じるテーマだが、人物像がやや平板で、ライブビューングで観たオペラ「マリア・ストゥアルダ」のほうがドラマティックだったかも。

初演キャストは麻実れい・白石加代子、再演は南果歩・原田美枝子だったとか。今回はやや線が細いものの、なかなかどうして負けていないのではないだろうか。
照明を抑え、後方に鏡を配した四角いステージに、セットは椅子とテーブルぐらい。金銀の箔を施した麻のローブを翻し、女王2人に加えて中谷がエリザベスの侍女、神野がメアリーの乳母も演じる。頻繁に攻守ところを変えるわけだが、全く混乱はなく、声と所作のメリハリがきいていて巧い。

演出では砕け散る花瓶やこぼれるビールの危うさ、空間を覆う電球の美しさなどでアクセントをつけていた。女王たちが男に怒りをぶつけるシーンは、なぜかノリノリのマイク・パフォーマンスになって笑っちゃう。セットデザインはハンブルグ生まれのジュリア・ハンセン、衣装はワダエミ。リュートの演奏付。

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不倫探偵

日本総合悲劇協会vol.5 不倫探偵~最期の誤ち~  2015年6月

大人計画・松尾スズキによるプロデュース公演、通称ニッソーヒの新作は、ギャグに徹したハードボイルドのパロディだ。作・演出は漫画や映像を手掛ける天久聖一と松尾スズキ。笑いの多い本多劇場、上手寄り後ろの方で6800円。休憩無しの2時間半弱。

探偵・罪十郎(やけに格好つけた松尾)の事務所に、依頼人の人妻・麻里(平岩紙)が訪れた夜、隣室で麻里の夫・孝太郎(近藤公園)が殺される。十郎が現場にいた若い女キャンディ(二階堂ふみ)に関わるうち、その父・喜屋武(皆川猿時)と十郎の母・京子(伊勢志摩)、兄・鳥居仁丹(村杉蝉之介)の間の意外な因縁があぶりだされて…と、いちおうストーリーらしいものはあるけれど、ほとんど意味はない。
回り舞台と左右のバルコニーでシーンを刻みつつ、ひたすらお下劣ギャグや、新旧の話題にひっかけた小ネタを繰り出す。2時間たっぷり、バラエティーショーのおもむき。いつものブラック要素もまぶしてあるけれど、そういう負の屈託より、突き抜けたノリのほうが勝っている感じ。ひょっとしたら、こっちが松尾さんの芯なのかな、と思わせる。

俳優陣はさすがの達者ぞろいで、リズムがいい。特に女優陣。下ネタをものともせず、雰囲気を漂わせる平岩、十郎の元同僚刑事でキレキレ男前の片桐はいり。何より可憐な二階堂ふみちゃん、足がよくあがります。

プログラムにはなぜか、もれなくノートとステッカーが付いていてお得でした~

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わが星

ままごと「わが星」  2015年6月

1982年生まれ、柴幸男の作・演出。2009年初演で岸田國士戯曲賞を受賞し、2011年の再演で、福島・いわきなど全国6都市を回った代表作の再々演だ。
平凡な少女ちーちゃんの日常と、100億年に及ぶ地球の一生という極小と極大を大胆に重ねて、どんな命もただ生まれて死ぬ、だからこそ一瞬も永遠も同等にかけがえないことを描く。反復が多いけど、「マームとジプシー」のような執拗な拘泥ではなく、爽やかだ。
若い女性が多く、受付から学園祭のような雰囲気が楽しい三鷹市芸術文化センター・星のホール、自由席で3500円。1時間半。

客席は円形で、プラネタリウムを思わせる。俳優たちは時報と□□□(クチロロ)・三浦康嗣のポップなラップにのって、ぐるぐる回り、軽快に踊り、リズミカルに群読する。緻密な振付はモモンガ・コンプレックスの白神ももこ。セットはちゃぶ台ぐらい。
主人公・端田新菜の可愛さが秀逸だ。とても77年生まれ、1児の母には見えません。終盤で幼馴染の月ちゃん(斎藤淳子)が、大きなミラーボールを抱えて、思い出を語るシーンが美しく、涙を誘う。
ほかにも才気を感じさせるシーンがあって、お母さん(すらりとした黒岩三佳)とお父さん(永井秀樹)が歩きながら語る平凡な日課が、だんだんとシンクロしていくところや、大詰めで遥か遠くからずっと星を観測していた少年(88年生まれの小柄な大柿友哉が、自転車に乗ったりしていい存在感)とちーちゃんが、ついに巡り合うシーンには、じんとさせられる。先生に寺田剛史、姉に中島佳子、嫁舅やテレビのギャグが達者な祖母に山内健司。

みずみずしい戯曲と演出に安定感がある。ラップがところどころ冗長に感じるのと、制作(劇団プロデューサーの宮永琢生)の台詞が、ちょっと乗り切れなかったかな。物語に登場するチョコ「アポロ」を2粒、あらかじめ席に配ってあったのが可愛かった。

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六月大歌舞伎「新薄雪物語」「夕顔棚」

松竹創業120周年六月大歌舞伎 2015年6月

当代の大看板が総登場する公演だ。眼目は上演機会が少ない「新薄雪物語」の通し狂言で、揃い踏みの「詮議」は昼の部だが、渋く親子の情を描く夜の部を選択。幹部たちの個性、スケール感と、脇役・若手とのアンサンブルを堪能した。1Fほぼ中央のいい席で、1万8000円。休憩2回を挟んで4時間弱。

「新薄雪物語」は重厚な時代物の義太夫狂言。人間関係が複雑で、入り口で昼の部のあらすじと相関図を配っていたほどだけど、個人的には予習十分なので問題なく楽しめた。
夜は3幕目から。第1場・園部邸広間の場では、園部兵衛(仁左衛門)が息子・左衛門と並んで謀反の嫌疑をかけられ、身柄を預かっていた薄雪姫(歌六の息子、米吉)を逃がす。丸顔、たれ目で一途な米吉が可愛い。
ところが姫の父・幸崎伊賀守の使者(又五郎)から、交換で預けていた左衛門の首をうったと聞かされた兵衛。問題の鑢(やすり)目入り「影の太刀」の血糊を見て、伊賀守の真意を察知し、狼狽しまくる妻・梅の方(6代目歌右衛門の養子、魁春が片外しで安定感)を叱りつけて「身支度」に向かう。表情の変化で表す伏線が巧妙だ。

舞台が回って、いよいよ第二場・奥書院合腹(あいばら)の場。花道から首桶を抱えた白髪頭の伊賀守(幸四郎)が、よたよたとやってくる。木戸を開けるところ、草履を脱ぐところの、陰腹の演技が大袈裟過ぎなくて巧い。梅の方が無視していると、伊賀守にうたれたはずの左衛門(りりしく錦之助)が親に別れを告げに帰ってきちゃう。伊賀守は「成仏の道、忘れたか」と、一喝して追い返す。
そこへ兵衛がやはりよたよたと、刀を杖替りに登場。2人同時に首桶を開けると、そこには首ではなく同じ願書が。ともに命を差し出して、互いの子を救う決意だったのだ。梅の方をまじえて、苦しみながらも爽快に笑うクライマックスへ。この「三人笑い」、浄瑠璃らしい無茶苦茶な設定なんだけど、この顔ぶれだとさすが感動させる。魁春の抑制、仁左衛門の痛切さとみなぎる使命感、そして幸四郎の実直さが良かった~。

休憩で食事をとり、大詰第一場・刀鍛冶正宗内の場。通称「鍛冶屋」は久しぶりの上演だそうで、がらっと賑やかになる。
こともあろうに父の正宗(歌六)を追い出していた暴れ者・団九郎(吉右衛門)を、村人(爽やかな歌昇、種之助、隼人)がとりなす。敵役・渋川藤馬が、いちゃつく妹おれん(芝雀)と下男、実は来国俊(声がよく通る橋之助)にからんだり、下女とやり取りするチャリ場をへて、第二場・風呂場の場へ。正宗は国俊が恩師の孫と悟り、秘伝の焼き刃の湯加減を教える。橋之助は一歩ひいた役回りながら、歌舞伎らしい古風な二枚目がぴったりだなあ。
いったん幕を引いてから、第三場・仕事場の場では注連縄も神々しく、正宗、団九郎、国俊のリズミカルな相槌がダンスのよう。正宗が団九郎を見限って、腕を落としちゃう衝撃の展開の後、団九郎が一転、親の心根に触れてすべてを白状し、改心する。
やってきた薄雪姫を国俊に託し、吉右衛門がスケール大きく、鍛冶屋にちなんだ立ち回りで追手をやっつけて、幕となりました。拍手!

短い休憩を挟んで、ラストは川尻清潭作「夕顔棚」。これがまた素晴らしく、婆(菊五郎)と爺(左團次)による老夫婦の夕涼みの一コマは、田園情緒のおおらかさと、ベテランならではの洒脱な味わいが染みる逸品だ。
猿之助(現猿翁)、7世三津五郎で1951年に初演、当時は終戦の喜びがこめられていたとか。客席の照明を落とし、舞台は久隅守景「夕顔棚納涼図屏風」にちなんだ夕顔、月と川の流れが美しい。上手に清元連中。
風呂あがりの爺との手拭の投げ合い、婆のあられもない登場シーンがまず笑える。仲良く酒を酌み交わしていると、盆踊りの唄が聞こえてきて、若い日を思い出して踊り出す。洗濯に使う打盤や砧を使ったり、入れ歯を飛ばしたり、里の男女(柔らかく、きりっとした巳之助、梅枝)に触発されて頬を寄せあったり。やがて華やかな盆踊り装束の村人たちに誘われて、河原へ向かう。いやー、充実してました。

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鶴瓶噺

鶴瓶噺2015  2015年6月

笑福亭鶴瓶が一人でほぼ2時間半、ノンストップでほぼ立ちっぱなし、喋りっぱなし。「パペポTV」伝説を持ち出すまでもなく、まさに独自ジャンルの話芸ライブに、初めて足を運んだ。世田谷パブリックシアター2F上手端で6000円。

いつもの半ズボン、スニーカー、ピンマイクで登場し、「あいつ変わっとるで~」と言いながら、「敏腕」マネジャーの不思議な言動(ご本人も登場。なんと横綱・日馬富士のマネジャーもしているとか)から始まって、ロケ先、移動中に遭遇した、芸能人に普通に話しかける人々、オセロの松嶋さんら常識外れの芸人仲間、何を言っているのかわからない妻との会話、さらには自分の番組収録中のあせりまくった失敗談などを、よどみなく語り倒す。ごくごく日常の、断片的なエピソードの連続なんだけど、この人にかかると何故こんなにも気持ちよく笑えるのか。
たぶん自分でも言っていたように、持ち前のオープンマインドゆえなんだろう。ホテルや道端で、ちょっとすれ違った人のひと言もすべて面白がっている。観察し、ネタにするんだけど、そこに苛立ちとか批判とかが微塵もなく、常に相手を受け入れている感じ。チャーミングな人だなあ。忙しいのによく、いろんな人と付き合ってるし。

終盤30分ぐらいで、今年の通しテーマらしい師匠・6代目笑福亭松鶴の思い出を語る。1986年没から30年、芸人らしい豪放エピソードは色あせていない。今回発掘したという生前の姿や、病床で綴っていた鶴瓶にまつわるメモなどの映像を流した後で、噺家の先達から教えられたこと、人にきちんと挨拶し、誠実に日常を生きる、というセリフでほろりとさせて〆。幕切れの照明が綺麗。あ~面白かった。

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