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マノン・レスコー

マノン・レスコー  2015年3月

2011年3月に大震災で中止となった新制作。4年の歳月をへて主要キャストが再び集結した、感慨深い公演に足を運んだ。幅広い聴衆が集まった感じの、新国立劇場オペラパレス、正面のいい席で2万4300円。休憩を挟んで3時間弱。

プッチーニが35歳で作曲し、出世作となったオペラ。甘い旋律だけど、ハープや打楽器のメリハリも効いていて瑞々しい。新国立初登場のピエール・ジョルジョ・モランディの指揮で、東フィルがきびきびとし、時として歌手陣を圧倒。特に休憩後の間奏曲が、不穏かつ甘美で印象的だ。

物語はお馴染み、美少女マノンと騎士デ・グリューの転落の恋。同じ原作で、本作より10年前のマスネ作「マノン」を、2010年ロイヤルオペラの来日公演で聴いたことがある。プッチーニ版のほうはマスネ版に比べ、恋のドラマとしては割にシンプルで、ファムファタールの奔放さよりも若い2人の愚かさ、孤独が前面に出ている感じ。まるで近松。
印象の違いは歌手による部分もあるだろう。ロイヤルの時はタイトロールの女王ネトレプコが強烈だったのに対し、今回の歌手陣は全般に手堅く、そのためか、運命の出会いや短絡的な逃避行に比べて、後半、ル・アーヴル港の流刑からニューオーリンズの荒野に至る寒々しさのほうが印象に残る。

デ・グリュー役のグスターヴォ・ポルタ(アルゼンチンのテノール)が、太っちょながら健闘。格好いい兄レスコーのダリボール・イェニス(スロヴァキアのバリトン)、白塗りジェロントの妻屋秀和(バス)もコミカルでいい味だ。
一方でタイトロールのスヴェトラ・ヴァッシレヴァ(ブルガリアのソプラノ)は、美形ですらっとしていて、2幕「柔らかなレースに包まれても」や4幕「一人寂しく捨てられて」などを聴かせたものの、高音を張り上げ気味になるところが気になり、調子はイマイチだったのかな。

ジルベール・デフロの演出は、2004年初演のベルリン・ドイツオペラのプロダクション。18世紀風の古典的衣装をまといつつ、セットは白を基調に大胆に簡略化していてお洒落だ。1幕の旅籠と3幕の桟橋は壁などを水平に、2幕と4幕ではベッドの天幕、柱を垂直に配置。特に4幕では四角い空間に、最小限の砂でドン詰まり感を表し、照明が赤から青へとドラマチックに移り変わって美しい。
冒頭の旅籠に集う群集や、マノンの部屋でチャリ場を演じる舞踏教師、音楽家たち、さらには「シカゴ」みたいに桟橋に居並ぶ流刑の身の娼婦たちといった脇役の動きも巧かった。

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