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METライブビューイング「イオランタ」「青ひげ公の城」

METライブビューイング2014-15第8作「イオランタ」「青ひげ公の城」  2015年3月

MET初演、チャイコフスキー最後のオペラ「イオランタ」と、新演出のバルトーク「青ひげ公の城」という1幕ものを、休憩を挟んで。個人的に2本立てというのは初体験だったんだけど、幕間のゲルブ総裁のインタビューによると、同じ童話原作ながら光と影、全く正反対の演目をあえて組み合わせたのは、ポーランド生まれの演出家マリウシュ・トレリンスキのアイデアとか。
ご存知マエストロ、ワレリー・ゲルギエフの指揮で、マリエンスキーに縁のある歌手らが実力を発揮する聴きごたえ、観ごたえのある舞台だ。上演日は2月14日。だいぶ暖かくなったせいか、渋い演目にしてはよく入った新宿ピカデリーの前の方で3600円。休憩1回を挟み3時間半強。

とにかく「イオランタ」の甘美で流麗な旋律、名歌手の存在感に圧倒された。盲目の姫イオランタ(女王アンナ・ネトレプコ、ソプラノ)は、父でプロヴァンス王レネ(ウクライナのバス、イリヤ・バーニク)の考えで人里離れて暮らしていたが、偶然知り合ったヴォデモン伯爵(ご存知ポーランドが誇るハンサムテノール、ピョートル・ベチャワ)と恋に落ち、治療へと踏み出す。
美男美女の主役2人がはまり役。ネトレプコはめっちゃ太ってるんだけど、歌が響くのはもちろん、滑り出しのおどおどした少女から、終盤には自らの運命を選び取って、威厳さえ放つに至る変身ぶりが素晴らしい。ベチャワが献身的に受け止め、圧巻の2重唱を聴かせる。テノールが頼りになるオペラは珍しいかも。
脇がまた高水準で、特にスキーをかついだ快活な友人ロベルト(アレクセイ・マルコフ、バリトン)が、声が良く伸びて大拍手を浴びていた。代役でMETデビューを果たしたという長身痩躯のバーニク、医師のイルヒン・アズィゾフ(バリトン)も重厚だった。
映画監督でもあるトレリンスキの演出は、大人っぽくて知的。ファンタジーを見事に、精神の抑圧と解放の感動ドラマに昇華させていた。鹿狩りの登場シーンで、レネ王がもつ残虐性をクリアに示し、また、姫の部屋にこれでもかと並ぶ鹿の頭と陰影が、閉じ込められた心理を象徴。だから姫が自ら進んで目隠しを捨て去り、世界を知る、という自立の輝かしさが心を揺さぶる。シンプルな白い部屋の四角いセットを回しながら、森の木々の根や抽象的な映像、照明で雰囲気を出す。ネトレプコの衣装の変化も鮮やか。そしてラスト、合唱が高揚するなか、ひとり片手に手袋をしたレネ王の暗い表情をクローズアップして、2作目に続けていた。

その2作目「青ひげ公の城」は気になっていた演目だけど、やっぱり重かったな。新妻ユディット(ドイツのソプラノ、ナディア・ミカエル)が城の禁断の7つの扉を開けていき、青ひげ公(ロシアの期待のバス、ミハイル・ペトレンコ)の心の闇に踏み込んで、ついに破滅に至るサスペンス劇だ。
2人だけで1時間強を歌いきる歌手陣は、見事としかいいようがない。特に無防備な入浴シーンまでこなすミカエルが、鬼気迫る存在感。1作目の王と同様、片手に手袋をしているペトレンコは、悪魔的色気というこの役のイメージより、陰鬱で繊細な印象。
ヒッチコック「レベッカ」からヒントを得たという演出は、大胆に映像とナレーションを駆使したもの。高級車やエレベーターなども登場させていて、工夫があった。

特典映像ではネトレプコが、相変わらずチャーミングさ全開。開演直前、案内役ジョイス・ディドナートが話す背後で、何故かひとり踊っていたり、インタビューでまだ2作目が残っているのに、「バレンタインなんだから早く帰りなさい」と言っちゃったり。国際政治では難しい状況だけど、ロシアにはやっぱり文化があるんだなあ。
次作の紹介ではフローレスが登場。また、早くも次シーズンのチラシが配られていた。ライブビューイング10周年のせいか、今シーズンより王道の演目が多い感じで、また楽しみだ。



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