狂人なおもて往生をとぐ
Roots Vol.2 狂人なおもて往生をとぐ〜昔、僕達は愛した〜 2015年2月
アングラ・小劇場演劇の代表作を若手が手掛けるシリーズで、清水邦夫の1969年初演作を、「トライブス」「おそるべき親たち」が良かった気鋭の熊林弘高が演出。いろんな意味の詰まった、古さを感じさせない戯曲を、知的でスタイリッシュに観せていて面白かった。ドラマターグは木内宏昌。東京芸術劇場シアターウエスト、下手寄り前のほうで5800円。休憩を挟み2時間半。
娼館にいるかのような態度の長男・出(くたびれた感じの福士誠治)に、調子を合わせる父(中嶋しゅう)、母(鷲尾真知子)、姉(緒川たまき)。どこまでが妄想か、判然としないまま、調理師学校に通う反抗的な次男(葉山奨之)が無邪気な恋人(門脇麦)を連れてきたことで、家族が家族ごっこを始めるはめになり、過去の事件が暴かれていく。
良心を挫かれた大学教授の転落と、一家心中未遂、娼館そのものの、密室の許されざる恋。父権と家族の崩壊はまた、秩序や国家に対する幻滅を思わせる。遅れてきた弟の存在など、政治的騒乱の時代独特の言葉が目立つけど、決して昔のこととは思えない。
2重、3重に役を演じるゲームという設定が、社会のなかの役割に押し込められた自我に通じる。靴の演出が巧い。冒頭、登場人物は部屋の中のはずなのに靴を履く、特に父が着物なのに洋靴を履き、ラストには若い世代が脱ぎ捨てて家を出ていく。
ステージにはほとんど何もない。時を閉じ込めたような大きな掛け時計が、倒すとまるで棺のように見え、不吉な過去が動き出すサインとなる。天井から下がった大きなライトが、大きく揺らすと振り子になったりするのも面白い。美術は「トライブス」の二村周作。
福士は声がよく通っており、ベテラン陣がしっかりと支える。ただ演出が緻密な分、俳優が放つ熱気は抑えられた感じ。1992年生まれの門脇麦が、おかっぱとミニスカートで躍動して、いいアクセントの役割を果たす。初舞台の葉山も健闘。
小さい劇場、かつ静かな芝居なだけに前半、客席が騒がしかったのがちょっと残念。奥さん出演とあって、ケラさんが来てましたね。
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